母の話をまとめるとこうだった。
沢木は私と別れてからお昼前に母の勤めている牛丼屋へ行き、吐き気を堪えてでも母に会いに来たことを告げミニ牛丼を注文したのだが、母の「何だい情けないね、あれくらいの酒で。五杯や十杯くらいペロッと平らげてみなよ」という発言に、「平らげたらデートしてくれます?」と応酬したところ、「ああいいよ。食ったらね」という母の不本意な返答を鵜呑みにしてしまい、四杯目の途中で白目をむいて泡を吹きぶっ倒れたのだそうだ。
店内にいたお客からの通報ですぐに救急車がやってきて、救急隊員に「なにがあったのですか」と言われた通報者が、「この店員さんがお客を煽って・・・」と母の疎かな行為をチクったことにより、母はまず救急隊員に怒られ、別の救急隊員が沢木を救急車に運びながら、「この方のお知り合いはおられますか」という問いに気まずそうな感じでそっと手を挙げた母はその人に、「なに、あんたなの? ちっ、じゃあ乗って」と舌打ちをされ沢木とともに救急車に乗せられて病院に着くと、今度は事情を説明した看護士さんとお医者さんに怒られ、挙げ句の果てに後から駆けつけた牛丼屋の店長にこっぴどく怒られた。
沢木は治療室に入れられたがすぐに意識を取り戻し、母が大人なのにものすごく怒られたことを知ると、「すべては自分が招いたことなので池田さんはのせいではないです」と母をかばってくれた。
沢木の様態について医者から言われた診断結果は、「椅子から倒れ落ちたことによる、右人差し指及び右手首並びに右腹部周辺の打撲で全治二週間」だそうだ。
怒るというより、呆れてため息が出た。何という馬鹿げたことを・・・。母も母だが、沢木も沢木だ。あんなに思い詰めた顔をしてこの行動かよ・・・。
「・・・でね、医者が言うには、右手は暫く箸を持つのも困難だろうし、腰にはコルセットをするので重いものも持てないだろうから日常生活に困るだろう、なんていうのよ」
そりゃそうだろうな。沢木も災難というか何というか・・・。
「だからあたし言ったのよ。『私が責任もって面倒みます』って」
「え?」
「やっぱりさ、いい年こいて息子の同級生煽ってさ、病院送りにしたのはいくらなんでもまずいよね。うん、すごい反省してるよ。だからさ、罪滅ぼしというかなんというか、大人としてさ、彼の面倒をみる義務があるよね、うんうん。あ、そういう訳で明日から彼のところへ通うから何かと協力してよ。ていうか、あんたからも謝ってよね。一応彼は僕のせいだって言ってくれているけどさ、やっぱ友達として・・・」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
私はあらぬ方向へ話が猛スピードで進んでいくのを制した。
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