涙で目の前がぼやけていた。何か大切なものが失われようとしている・・・、そう思うと、私はその家族を傷つけている敵に向かって駈け出していた。手の自由は奪われていたが、関係ない。雄たけびをあげながら、そいつを吹っ飛ばそうと全身に力を込めた。敵は笑っていた。この野郎! 俺の家族に手を出すなああああああ!敵の腰から下らへんにタックルをしようとしたその時。目標物であった奴の足が、目の前からスッと消えた。次の瞬間、脳天に大きな衝撃を受けた。私はそのまま気を失った。「おい、大丈夫か」遠くから、聞き慣れた声がした。目を開けると父がいた。起き上がろうとすると、後頭部に鈍い痛みが走った。頭を押さえ呻いていると、父が「無理するな。まだ横になっていた方がいい」と私を抱え寝かせてくれた。待っていなさい、と父は部屋から出て行った。すぐにさっきまでの事を思い出した。沢木は・・・、母は・・・。思うが、二人は既にここにはいなかった。どこへ行ったのだろうか。動こうと思うが、頭が痛くて動けなかった。縛られていた手は自由になっており、毛布を掛けられていた。父がしてくれたのだろう。痛む頭を動かして、周りを見ると、ここは両親の寝室だった。ベッドの上は布団やら衣類やらがグチャグチャに残されていた。壁際には新聞紙が丸めて置かれてあった。父の吐しゃ物を始末した後だろうか。戻ってきた父が、「冷やすと楽になる」と保冷材をタオルにくるんで渡してくれた。ひんやりとしたそれは痛さを随分和らげてくれた。「他に痛いところはないか。後で病院へ行った方がいい」私を気遣った言い回しをしていたが、父の顔からは生気が失われていた。「いや、それより・・・、母さんは? 」父は目を伏せ、黙って首を横に振った。え、いない? どういうこと・・・。なに、聞こえない・・・。つ、連れ去られた?父は静かに頷いた。「これって・・・、誘拐とかになるのかな」沈黙が嫌で、妙なことを口走ってしまった。父は又首を横に振った。どういうこと? 連れ去られていく所をみたの?父が弱弱しい声で、ぼそぼそと話してくれた。それは、私ら家族の崩壊宣言に等しかった。私がタックルした瞬間、沢木は私の脳天へ踵落としを喰らわせたのだそうだ。父も腹を思い切り蹴られ動ける状態ではなかった。沢木が母に「ほら、言えよ。あのセリフ。オメー時期が来たら言うっつってたろ。今がその時期だよ」と髪の毛を引っ張りながら促すと、私・・・、公平君のチンポから離れられない。あなたがただ租チンなだけなら百歩譲って相手をしてあげなくもないけど、使用不可のインポチンポじゃ、もう嫌なの! と喘ぎ声を交えて、父に面と向かって言ったのだと。「そういうことなんだよ。糞爺。いや、男の用をなさないテメーは糞ババアかな、あっはっはっは」と、母と結合しながら抱えると、沢木はもう一度父に蹴りを入れていった。そしてそのまま、母を抱て部屋を飛び出して行ったらしい。「な、何言ってんだよ・・・。そんなの言わされているに決まってるだろ。つ、連れ戻しに行こうよ」ショックを悟られまいとして強気な私に、意気消沈している父。「いや・・・、いいんだ・・・。母さんだって・・・、用が済めば帰ってくるよ・・・」父に対してあれ程献身だった母から、面と向かって言われた言葉。異常な快楽に溺れていた最中だったとしても、話半分という受け取り方をしているのだろう。欲求不満を妻に与えてしまっていた夫であったということを、強く後悔しているという様子で、自分にそれを咎めることはできないという
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