若い頃、横浜の黄金町の高架下の細道にチョンの間のお店が並んでいて、夜になると、ピンクの灯りをともし外国人の女の子が店先で手招きして誘ってくる…それを男たちがぞろぞろと歩いてひやかして、気に入ったらお店の二階に上がって、四畳半の部屋に布団が一組と、ティッシュ、ローション、スキンのようなものが枕元に転がっていて、その部屋もやっぱりピンクの照明で、なんだかただただ甘い安っぽい香水の匂いに満ちていて、お金を払って、もう無我夢中で女の子のカラダにむさぼりついて、腰を動かしていた。
そういう時代があった。
反社会勢力の排除、不法滞在者の取締、近隣住民による街の浄化活動などで今はもう跡形もなく、それは喜ばしいことではあるのだけれども、ときどきむしょうにあの安っすい香水の匂いを嗅ぎたくなって仕方ないことがある。
落語の「二階ぞめき」ほど高尚じゃないけども、性欲の塊のような男たちが目をギラつかせて女の子を品定めしつつ闊歩している。お酒と汗とちょっとスエた匂いと、形だけ小料理屋風のしつらえのしてある間口二間の一階もサンダルばきのカタコトの女の子も、なにもかもが安っぽい世界。
雰囲気は鶯谷のラブホ街に似ていて、もう少し小暗くて淫靡なな感じで、やっぱりある種の背徳感が漂ってたのかもしれない。
だから今も、女の子がキレイキレイにしてる高級店よりも安っすい香水が似合いそうな子がいる雰囲気のお店の方が好きなのかもしれない。