16年ぶりに戻って来た県庁所在地。
16年前にこの地を離れるときは一人だったが、戻ってきたときは妻子連れだ。
この街には、いろんな思い出があるが、先日、ある場所を思いがけず通りかかって、心から悔いる元カノとの別れを思い出した。
元カノが住んでたアパート、あの頃のまま佇んでた。
今にも元カノがあのドアから出てきそうだった。
俺26歳、元カノ24歳、交際2年で、普通なら結婚を考える年頃だった。
でも、何となく俺たちは、結婚してはいけないような気がしてた。
かといって、具体的になぜ結婚すべきではないと感じたのかは、説明できなかった。
元カノは美形だし、イイ身体してて、セックスも気持ち良かったし、身体の相性だって決して悪くなかった。
元カノは恋人としては申し分なかったけど、夫婦として二人で暮らしていくイメージがどうしてもわかなかった。
ある日、元カノとのセックスを終えて、自分のアパートに戻ってきたとき、このままずるずる付き合って、お互いの未来を無駄にするくらいなら、別れた方が良いと思った。
翌週のデートで、別れ話を切り出そうと思った。
元カノと会ったら、お互い求めあってしまい、その日はお部屋デートではなくホテルに行った。
ホテルと言ってもラブホじゃなく、シティホテルに宿泊した。
これが最後の交わりと思ったから、丁寧に愛撫し、いつもより長めのクンニしてから挿入したら、6日ぶりだったから貪るように交わった。
シャワーで体液を洗い流した後、しばらくベッドで抱き合っていたけど、俺は仕事の疲れで少し眠ってしまった。
しばらくすると、元カノが二回戦に挑もうと、もう一度勃起させようと俺のチンポを弄り出したことで、俺は目覚めた。
元カノが、
「ごめんね。起こしちゃったね。」
と言ったけど、その元カノが俺のチンポを弄る姿がいじらしくて可愛く感じて、思わず愛しさに溢れ、とてもじゃないけど別れ話を切り出す雰囲気じゃなくなった。
結局その夜は、もう一度勃起したので二回戦をして、疲れて寝てしまった。
そのまま朝を迎えて、別れ話はできなかった。
街で昼飯を食って、午後、元カノの部屋でセックスしたけど、終わった後のシラケ具合が哀しいほど別れを演出してた。
前の日、わざわざシティホテルになんか泊まるから、元カノ、別れの予感を感じて、必死に健気な女を演じて、別れ話を避けたんだと思った。
でも、いつもの部屋でいつものセックスを終えたら、賢者タイムに似た虚しい空気に包まれた。
そこで一言、「俺たち、もう、終わりにしないか。」と言えばよかったけど、言い出せず、虚しい空気から逃げ出すように元カノのアパートを出たんだ。
「じゃあな。」
「うん・・・」
元カノの目が潤んでて、さよならなんて言えなかった。
その後、元カノからデートの調整のメールは来なくなったし、俺からもメールしなくなった。
そして俺は独りでクリスマスを過ごし、翌年3月、転勤で県庁所在地を一人離れた。
この街を去ることを元カノに伝えようか迷ったが、伝えずにアパートのドアを閉じた。
別れる理由を探すばかりじゃなく、素直に、このままじゃダメなんじゃないかと元カノに言えばよかった。
別れの理由がわからなかったばかりか、ちゃんとお別れを言わず、最悪の別れ方になってしまったのは、全部俺のせいだった。
あれから何度も反省したけど、メールしようとしたり、会いに行こうと考えたりしたけど、後の妻と出会い、次第に元カノの事を考えないようにしてしまった。
それでも時々、元カノの夢を見た。
俺のアパートを訪ねてきて、もう、俺が住んでないことを知って俯いて、携帯電話の俺の連絡先を眺めながら泣いている元カノの夢だ。
胸が張り裂けそうになったけど、もう、後の妻と男女の関係に練ってしまってたから、連絡などできなかった。
何とか別れを回避したかったであろう元カノには、本当に悪いことをしたと思う。
今更謝っても、許してはもらえないだろうけど…
転勤先で出会った妻と結婚し、その後県内を転々として、再びこの街に戻ってきた。
先日、元カノが住んでた部屋の前に佇んでみたが、当然違う人が住んでた。
スマホを取り出し、長らく使うことがなくなってたアドレス帳を開けてみた。
そこには、16年間一度も連絡してない元カノの連絡先が残ってた。
今更メールなどできないし、このメルアドが今も生きてるとは思えなかった。
それでも、元カノの連絡先は消せなかった。
それは、俺が生きている限り残り続け、元カノに対する罪深き仕打ちを忘れない戒めであり、また、元カノに対する懺悔でもあるからだ。