所用で、池袋から二駅の東長崎へ行きました。
11年前まで、あの人と夫婦だった頃、3年間住んだ街です。
用事を済ませたあと、11年前まで住んでたアパートに行ってみまし
た。
あの人はもう住んでいませんでしたが、あの頃のまま、ひっそりと佇
んでいて、夫婦だった頃の二人が今にも出てきそうでした。
11年前、あの人とした最後のセックスを思い出しました。
私はあの人のことが大好きだったけど、あの人、親友の保証人になっ
たばっかりに、貯金を全部使い果たしたうえに、借金まで背負ってし
まいました。
「お前まで巻き込むことはできない。子供がいないうちに別れよ
う。」
私が家を出る前の夜、あの人が私の寝てる布団に入ってきました。
何も言わず抱きしめられてキス・・・悲しそうな顔が今でも忘れられ
ません。
優しく全身を愛撫されて、これが最後のセックスなんだと思ったら、
まるで夢みたいでした。
最後のエッチなんだって思ったら、ボロボロ涙がこぼれ増した。
「泣くなよ・・・頼むから・・・」
って何度も言われました。
最後のクンニ、最後のフェラ、そして最後の交合・・・明日になった
ら、夫婦が終わる・・・とめどなく流れる涙に、あの人も泣いてしま
いました。
最後の精液を浴びて、あの人がティッシュで精液を拭きながら、
「幸せにしてやれなくて、ごめん・・・俺のことは忘れて、いい男と
一緒になってくれ。お前が幸せになってくれないと、俺・・・必ず幸
せになってほしい。」
と言いました。
その後も抱きしめててくれて、翌朝、離婚届を書いてあの人に託し、
アパートを出ました。
「さよなら、元気でね。困ったことがあったら、連絡してね。」
「ああ、お前も元気でな。さよなら・・・」
玄関を閉じ、東長崎駅に向かって歩きました。
あの時、もう二度と歩くことはないだろうと思って歩いた道、11年ぶ
りに歩きました。
あの頃の気持ちが蘇って、切なくなりました。
あの人は、今どこにいて、どんな暮らしをしているのでしょう。
池袋に着いて、改札に向かうと、十数メートル前に、ポケットに両手
を突っ込んで、背中を丸めて歩く後姿が見えました。
間違いなくあの人・・・追いかけるように改札に向かいましたが、な
かなか前に進まず、私が改札を抜けたときには、もう、あの人の後姿
は見えませんでした。
同じ電車に乗っていたあの人・・・どこの駅から乗ったのでしょう。
懐かしい後ろ姿・・・スーツ着てたけど、今、どんな暮らしぶりなの
でしょう。
できればあの人に、私は再婚して子供が生まれたことを伝えたかった
です。
あの人の姿が消え去った方向に、さよならと呟いて、山手線に乗り換
えました。
あの人の幸せを祈ります・・・