居付いたヨメと一緒に暮らし始めて間もなかった頃で、カニが食えなく
なった話し。
ヨメの親父さんが偉いさんのおかげで、何かとおこぼれをもらうことが多
かった俺たち。
ある日、立派なカニがお母さんに連れられて、我が貧乏アパートにやって
きた。
まんまの毛ガニが発泡スチロールの箱にまるまる一匹入っていて、湯がく
と美味しいよと、お義母さんに言われ、早速調理して食すことに。
二人ともカニは大好物。
深めの鍋に水を張って、ワクワクと期待に胸を膨らませながら、煮立つの
を待つこと数分間。
冷凍詰めされていて、まったく身動きしなかったから、てっきり昇天な
さっているのだと思っていた。
ちなみに、店先に売られているカニは手足と胴体ががっちり縛ってある。
あれは持ち運びやすいようにしてるだけだと思ってた俺。
ちょんちょんと指で突いて、反応ないのを確かめてから鷲掴み。
そのまま、何も考えずに鍋の中に放り込んだわけだ。
それはすごかった。
カニ、大暴れ。
縮んでた脚を全開に広げて、もがくもがく。
「シャギャーーーーーッ!!」とか、わけわかんない声出してるし・・・・。
最後は「フシューーーー・・・・」とか言いながら、長い脚が力尽きたよ
うに鍋の中に落ちてった。
まさしくドラマチックな最後だったよ。
俺は、ヨメさんと抱き合いながら冷蔵庫にへばりつき。
マヂで二人とも体が震えてた。
断末魔の悲鳴を上げながら、鍋の中でバシャバシャ跳ねて、ほんとにすご
かったもの。
あの光景は永遠に忘れまい。
「も、カニ食えない・・・」
二人の共通意見。
泣く泣くお隣さんにお裾分けしました。
以来、二人ともカニ食えないです。
カニ屋も「縛らないと暴れます」って店先に書いておけよ・・・。