「なぜ私が圭くんの太もも突いたかわかる?」
「たまたま手が当たったんじゃないですか?」
僕は見え見えの嘘をついて美代さんの様子を伺った。
「もぉ本当はわかってるんでしょ?圭くんはまだ私のこと好き?私は圭くんのことが大好きなの。それは結婚する前からも抱いてた本当の私の気持ちなの。」
僕は美代さんの申し出に舞い上がりたい気持ちと、元旦那さんとの壮絶な体験を聞いたことによる悲しみの気持ちが入り混じっていた。だが、返事をするのが男としての礼儀だと思い、自分の思いを美代さんに告げた。
「僕は美代さんに振られてから別の彼女を作って気を紛らわそうとしました。けれども、彼女と一緒にいても頭のどこかには美代さんのことが浮かんでしまい、彼女とは何もせずに別れてしまいました。僕はどこか美代さんに対する気持ちを完全に切り離すことができない自分がいてたのだと思います。美代さん、もしよろしければ僕と付き合って下さい。」
美代さんからの返事は至ってシンプルだった。僕の身体にしがみつくと僕の胸に頭をつけて「うん」と首を傾げたのであった。僕は美代さんを抱きしめ顔を上げさせた。優しくそっと唇を重ねてキスをした。さっきは美代さんからキスをされたが、自分の意思で自分からキスをしたのは生まれて初めてだった。それが、ものすごく幸せなものであるものだと僕は知った。唇を重ねているだけなのに、心と身体が満たされていく感じ。僕は初めて大人の世界に足を踏み入れた気がした。
唇を離した瞬間、美代さんに対する愛おしい気持ちが一層強くなった。美代さんの目を見つめた。彼女も僕に目を向けた。その目は涙で少し潤んでいて、穏やかな表情に感じられた。
※元投稿はこちら >>