「……ふぅ、とりあえずの情報としてはこんなものかな。」
放課後の職員室。
自前のタブレット端末に、とある裏サークルについて現在得た情報を整理している夕紀。
一ヶ月前に結婚した今でも一部の生徒から『和田先生』と呼ばれ、それにそのまま応えてしまうほど『本多』姓に慣れていません。
とりあえず、裏サークルの名前が『女教師孕ませ促進会』であること、それは現生徒会長杉浦佳史を中心とした男子生徒が現在5人確認されていること、彼らと女性教員の一部は、放課後に今では使われていない旧校舎に頻繁に向かうこと、という情報がタブレットに打ち込まれます。
「これだけといえばこれだけ…
弱いなあ、もっとしっかりした話があればなあ……」
「何が弱いの?夕紀先生?」
「え?いえ、何でも…
ちょっと調べものをしてまして。」
不意に後ろから声をかけられ、さりげなくタブレット画面を暗転させます。
声の主は大神先生。
私が結婚してから、羨ましいだの、名前の呼び替えが馴れないから夕紀先生でいいかだの言って、急に距離を縮めてきた先生でした。
妙には思いましたが、基本的には分け隔てなく誰にでも話しかける先生でしたから、いつの間にか私も親しくなっていきました。
大神春奈
「何?またいつもの調べもの?
色々気になるんだろうけど、あんまり深入りしない方がいいんじゃない?」
本多夕紀
「そうですけど、このままでもどうかと思って……」
大神春奈
「ふーん。
ま、いいけど。」
サバサバした雰囲気の大神先生が自分の席に着き、ホッと胸を撫で下ろす夕紀。
大神先生には具体的な事は話しておらず、この学園内で何かを調べていることしか伝わっていない……そう思っています。
まさか大神先生が仲間で、私の情報を盗み見ていたなんて想像だにしていないのです。
……それから翌日の授業準備を始めて数十分の後、不意に立ち上がる夕紀。
それを、机に向かっている風を装いながら、大神先生はしっかりチェックしていました。
このまま、大したことのない情報をチマチマ集めているだけじゃ、何も解決しない!
生徒会長の杉浦くんが中心メンバーだとわかっているなら……
思い詰めた顔で職員室を離れ、直談判するために生徒会室へ向かいます。
そんな様子が大神先生からLINEで伝えられているとも知らずに、生徒会室の前までのこのこやって来た夕紀。
生徒自治を重んじるという名目で、職員室や他の校舎から距離のある建物に生徒会室はあります。
そろそろ生徒会の集まりも終わりだろうという時間にドアを叩きます。
「ごめんなさい、ちょっといいかしら?
杉浦くんに用事があるんだけど、今話できるかな?」
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