あれから数年が過ぎた。
真人は元々成績優秀だったので、いい大学を出て、商社に勤めている。
人当たりがいいので上司からも気に入られ、順調なようだ。
私は体育大を卒業したあと、スポーツインストラクターになった。
この仕事は、見た目は華やかでも、年を取ったり身体を壊したらたちまち続けられなくなる、不安定な職場だ。
社会的地位は逆転してしまったが、それでも真人は相変わらず、私には常に敬語で接し、立ててくれる。
デートでも、他のどんな場面でも、私の意見を優先する。
私としては、そんな関係になんの不満もないのだが、ただひとつだけ悩みがある。
アスリートとしては盛りが過ぎ、将来が不安な私としては、そろそろ真人に嫁に貰って欲しいのだ。
だが彼の方は、まったくそんな様子を見せない。
普通の女のように、わざとエンゲージリングを扱う店に付き合わせたり、ショーウインドウのウェディングドレスを見て立ち止まったりして見せればいいのかも。だが、そんな柄にもないことはとてもできそうにない。
真人を睨み付けて
「ちょっとあんた!あたしをどうする気なの?いい加減はっきりしてくれない!?」
と問い詰めればプロポーズするかも知れないが、それはなるべく避けたい。
どうすれば自然な形で彼からプロポーズさせることができるか…
それが、目下の最大の悩みである。
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