私は憤然として踵を返し、ベッドの上に座り込んでいた真人を、上から睨み付けた。
だって…
突然の告白。それを私は、彼が、初めて女と身体を重ねた感傷に酔って出た言葉か、思いがけず私の処女を奪ってしまった事への罪の意識からか。そのどちらかに違いないと思い込んでしまったのだ。
どちらだとしても、失礼な話だ。
「何言ってるの? だいたい今日のことは、あんたの身勝手な痴漢から始まってるんだよ? スカート履いた女子高生なら、誰でも良かったくせに!」
「ち…違います!あの、僕、前から… ごめんなさい、ストーカーだとか、思わないで…」
それから彼は、私への『想い』を切々と語り出した。
真人が初めて私を見たのは、空手部の野外練習の時。
天気のいい日に新入部員勧誘も兼ねて、芝生の上で演武をやっていた。
その時の私の凛々しい(と彼は言った)姿に一目惚れし、以来頭から離れなくなったそうだ。
だが、つてをたどって私のことを調べても、分かったのは学年と名前くらい。
年上で、部活も、出身中学も違う。
まるで接点がない彼と私だが、唯一、通学の路線だけが同じだった。
そこで彼は、私の登下校の時間を調べ、同じ時間の電車に乗れるよう努めた。
但しいつもは、同じ車両の離れたところから、私を見つめるだけで、満足していたそうだ。
ところが今日は、何の拍子か、人混みに流される内に偶然私のすぐ後ろに押し出されてしまい。背中に密着することになった。
肩越しに、髪と汗の匂いを嗅いでいる内にクラクラしてきて、現実と妄想の区別が着かなくなり… 気がついたら手を出していた ということらしい。
「妄想…してたんだ?あたしで?」
「はい…ごめんなさい」
「どんな?」
「そ、それは…」
真人は耳から首筋まで真っ赤になりながら、その内容を聞かせてくれた。
私たちの接点が電車の中だけなので、妄想の中でも当然場面は電車になる。しかも二人とも決まって制服姿。となれば…
ただし妄想の中では痴漢ではなく、《触りっこ》だった。
身体を密着させ、周囲に気取られないようにしながら、互いの性器を触り合う。そんなプレイだ。
男子中高生の場合、恋愛感情と相手への欲情は、比例して高まって行くものらしい。
男子に囲まれて育った私には、その辺の事情も分からないではない。
彼の言葉に偽りはないのだろう。
だが、私は怒ってしまった。
今さら引っ込みがつかない。
かといって、この真摯な告白を、無下に退けることもできなかった。
私は激しく混乱した。その揚げ句…
今考えると、ひどく馬鹿なことを言い出してしまった。
「ペット…なら」
「えっ?」
「…あんた、あたしのそばにいたいんでしょ?」
「あ、はい!それはもちろん…」
「なら、あんたは今日からあたしのペットだ。あたしは今日、セックスを覚えちゃったから、近い内にまたしたくなるかも知れない。その時、相手をしてもらう。それだけ。それでもいいなら…」
「はい!それでいいです!ペットなら、いつも近くにいてもいいですよね?」
「あたしがしたくなった時だけだよ?あんたがしたくても、ダメ。それでいいの?」
「もちろんです!よ、よろしくおねがいします!」
彼は嬉しそうに、ペコリと頭を下げた。
次の日から、真人は通学電車で私を見つけると、そばに寄ってきた。
最初は挨拶だけで、あとはニコニコと隣に立っているだけだったが、そのうち少しずつ話しかけて来るようになった。
お互いの家族のこと。趣味や好きな音楽の話。見たい映画のこと…
そんな他愛ない話ばかりだったが、私たちは少しずつ親しくなって行った。
私は朝は、ほぼ毎日決まった電車に乗るが、帰りは部活が長引いて、遅くなることがある。
だが真人は、私がどれほど遅くなっても、校門の所でじっと待っていた。
私が姿を表すと、嬉しそうに近づいてくる。
そんな彼を私は
『忠犬ハチ公みたいなやつだな』
と心の中で苦笑していた。
初めての日から1か月以上、私は彼に身体を許さなかった。
セフレとして付き合うようなことを言ったものの、彼の気持ちを知っている以上、その気もないのに何度も身体を重ねることなんてできない。
だが、1か月の間彼は、全く態度を変えなかった。
したいと思ったこともあったはずなのに、それも態度に出さなかった。
私は次第に、惚れるというより『情がわく』といった感じで、『この子ならいいかな』と思うようになって行った。
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