今から10年前、私は22歳で横浜で寮暮らしでした。
田舎に帰り、隣の家の夏希ちゃんと4年ぶりに会いました。
当時7歳だった夏希ちゃんとは、親同士が家族ぐるみの付き合いなのもあり、夏希ちゃんが生まれてから横浜に出るまでいつも一緒に遊んでいました。両家とも農家だから子守りですね。
で、将来は私と夏希ちゃんが夫婦になってくれればと変な期待もされてました。
夏希ちゃんは、将来たっくん(私)の奥さんになるんだから浮気しちゃダメ~と言ってました。
そんな私は田舎から出たくて横浜に。
泣きわめく夏希ちゃんを押さえつけ、若いんだから自分の好きな生き方をしなさいと夏希ちゃんの両親。
私の両親はほとんど無視。最後に安定するまで帰ってくるなといいました。
4年間、電話もしなかった。
何故、帰ったかと言うと夏希ちゃんのお父さんが癌で長くないと母から連絡ありました。死ぬ前に私に会いたいって毎日話していると。
急いで帰り、実家を通りすぎて夏希ちゃんの家に行きました。
夏希ちゃんの両親を私は宗郎さん凛子さんと呼んでました。私の両親より若かったので。
で、凛子さんが出てきてビックリしながら私に抱きついてきました。
「よく帰ってきたね~元気そうで良かった~連絡くらいしなさい!みんな心配なんだから!」と言われて涙する私。
宗郎さんは?と聞くと畑に出てると言われてビックリ。
何でも残りの命は好きにしたいと言ってるらしい。
私は宗郎さんの畑に行くと収穫間近の野菜を眺めながらお茶をのんでいる宗郎さんがいました。
体格の良い憧れのお兄さん的な存在だった面影はなく、ふたまわりは小さくなった痩せ細った宗郎さん。
私に気付くと「なんだ立派な男になったなぁ~夏希が惚れ直すなぁ~」
私は宗郎さんの手を握り連絡もなくごめんなさいと謝ると
「男が決めて行動したなら責めるのはおかしいだろ?みんなそうやって経験を積んで大人になるから胸を張ればいいんだ!」
あの頃好きだったカッコいい笑顔。
「彼女はいるのか?」と聞かれ
3ヶ月前に別れたと言うと
「夏希には彼女いたこと言うなよな~あいつ今でもお前さんが好きすぎみたいだから」
私は夏希ちゃんになんて謝ればいいのかと言うと
「あいつに言葉はいらねえなぁ~昔のことをいまだに信じてお前を待ってるからなぁ」
なんとも懐かしいあの頃の癒やされる時間でした。
私はこんな家族のことが大好きでした。
「夏希なぁ~べっぴんさんにそだってるぞ~俺達夫婦の娘だからなぁ~」
確かに美男美女夫婦だと思う。
さっき凛子さんが抱きついてきたと言うと
「バカ野郎!夏希はいいけど凛子はダメだぞ~」
夏希ちゃんいいのかよ~と私。
「もしなんの不満もなくてよ~夏希でいいと思うなら…ちょっと本気で一緒になること考えてはくれないか?俺はもうダメだけど夏希の相手がお前なら心残りなく安心できる。」
そんな事言わないでと私。
真剣な顔で「夏希を頼む!」と頭を下げる宗郎さんに私は
夏希ちゃんと凛子さんは任せて下さいと言ったら
「凛子はダメだぞ!!」と言われ二人大笑い。
色々話ながら帰ると凛子さんと両親が話してました。
「実家より宗郎が大事か!」と父が。
当たり前だろ?と私。
そこに夏希ちゃんが帰ってきました。
私を見る夏希ちゃんはみるみる涙が溢れてきて
「どちらさまですか?」とニッコリ言う。
私は「夏希さんの未来の夫が夏希さんの大切な家族を安心させにきました。」と言うと
「遅いぞバカ!もう離れないし」と抱きついてきました。
私も夏希ちゃんを抱きしめて、本当に俺でいいの?と聞くと
「たっくん以外誰がいるのよバカ!」
正直、子供の発言とは思えない夏希ちゃん。
ずっと私のことを真剣に考えていて、父親のこともあり大人びてきたらしい。
私がトイレに行くからと夏希に言うとこのまま私も行く。と離れません。
これはちょっと厄介なことになりそうな予感がありました。