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紅梅無惨 1
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1:紅梅無惨 1
投稿者: 司馬 名和人
「これがその問題の同人誌ですか、、、、熊谷警部補、、、、、、、」

 東京地方裁判所検事局の検事である武井政彦はその手に下小冊子をパラパラと捲りながら自分の目の前に立ついかにもいかつい顔をした男の姿を見つめるのである。
  「そうです、、、これがその先ほど、本官が申し上げた誠にけしからん雑誌です、、、、、、」

 そのようにいかにもたたき上げらしいこの代々木警察署の特高係り主任を務めている警部補は意気込みながら返事を返すのである。その政彦が座っている執務机の前にどっかとその両腕を下ろしている熊谷警部補はそのただでさえもいかつい顔を更に険しくしながら吠えるように言うのである。
 時は昭和十二年[1937年]の秋もたけなわの十月末の事である。
 この年の七月に北京郊外の盧溝橋での軍事衝突に端を発した日中戦争の戦果はたちまちの内に、上海に飛び火して、すさまじい激戦の内に何とか日本軍が上海を占領したのである。そして更に日本陸軍は更に中国の奥地に向かって進軍を続けて、やがて、中華民国政府の首都である南京に向かってひたすら行軍を続けていた。そしてその間、日本内地では新聞、ラジオなどによって連日に渡って、日本軍の連戦連勝の報がなされた為に日本内地は脇に沸いていたのである。
 そのような状況の中で先述したように東京地裁検事である政彦の許に警視庁・代々木警察署の熊谷警部補が訪れたのである。 そして熊谷警部補は政彦に会うなり挨拶もそこそこにあの小冊子を政彦の面前に示したのである。

 その小冊子[パンフレット]はその表題が紅梅文芸と題されて、更にその題字のすぐ下に次のような記述がなされていた。紅梅高等女学校・文芸倶楽部政策とである。
  「警部補、、、これは見たところ、、、女学校の文芸部で制作された冊子の様ですね、、、、、、、」

 政彦が記憶している限りでは確か紅梅高等女学校は代々木にある良妻賢母となるべき助勢を教育する事を目的とした東京府内でも有数の私立の名門の女学校の筈である。その通う女生徒には所謂両家の子女が多いとも聞いているのである。  
  「そうです、、、、その雑誌はその女学校の生徒や教師更に同校の卒業生らが投稿していて、更にそれらの者らに配られている雑誌です」

 その熊谷警部補の言葉を聴いた限りでは単なる平凡な女学校の文芸部が制作している小さな同人誌に過ぎないのである。それに政彦がパラパラと捲って目を通した限りではやはり普通の文芸同人誌のように短歌、俳句、また随筆、あるいは小説などが投稿されているだけである。その小説もちらりと読んだ限りでは単なる学校での出来事を物語風に綴ったものであるらしく、さほど、過激な物とは政彦には感じられないのである。そのような他愛も無い女学校の同人誌を何故この特高係りの主任警部補が剥きになって問題にするのか、その真意を測りかねたのである。
  「熊谷さん、、、この雑誌のどこが問題だと言うのですか、、、僕には単なる女学校の同人誌に過ぎないとおもいますが、、、ましてや特高警察が問題にするようなアカ、共産主義の文書・出版物とも思えないのですがね、、、、、、、」

 それに対して、熊谷警部補はそのいかつい顔を更に政彦の方に近づけながら次のように言うのである。

  「お言葉をお返しするようで誠に失礼とは存じますが、、、検事殿、、、、、、我々、特高警察の任務は単に共産党とそのシンパであるアカの手先だけを取り締まる物ではありませんぞ、、、、、、」

  「それは、、、、また、、、、、、」

 「このような事は天下の司法官たる検事殿にはまさに釈迦に説法とは存じますが、、、、我々、特別高等警察の任務はただ単に共産主義思想の取締だけでなく、、、そのほかの誠に我が国体を危うくする様々な危険思想の取締にあります、、、、そうでしょう」

  「それは、、、、まあ、、、、そうでしょうね、、、、、、」

  「それらの危険気回る思想の中には所謂反戦思想とか厭戦思想とか言う物も含まれている筈でしょう、、、、、」

  「何ですと、、、、反戦思想、厭戦思想ですか?」

  「今年に入ってからの大陸における我が皇軍の栄光ある戦いに善良なる全ての帝国臣民がこぞって、陸海軍に支援を惜しまずに、また銃後の守りに専心する決意でいる時に、、、、それを背後から密かに危うくするような反戦・厭戦思想は断固として取り締まりをしなければいけません、、、、、、、 そうでございましょう、、、、検事殿、、、、、、」

  「それは、、、まあ、、、当然の事です。しかし、、、熊谷警部補、この同人誌・小冊子のどこにその反戦・厭戦思想の記述がなされているのです、、、僕が一通り拝見した限りではそのような記述は見当たりませんが、、、、」
 

 その政彦の問いかけの言葉を聞いていた熊谷警部補は再びその同人誌を政彦の手から取り上げると、そのページを捲って次のように言うのである。
  「恐れ入りますが、、、検事殿にはここに印がついているところを良く読んで頂きたいのですが、、、、、」

 それから政彦は再び熊谷警部補からその雑誌を受け取って、その指示されたヶ所を覗くのである。何とそこはその小冊子の冒頭の目次に当たるところであり、その目次に記されているある二か所になるほど傍線が引かれているのである。そして政彦はその傍線で引かれた部分を読みながら自分の首を捻りながら次のように熊谷警部補に問いなおすのである。

  「警部補、、、、この二か所は所謂読書感想文を綴った随筆の類でしょう、、、、」

  「そうです、、、、所謂読書感想文を綴った文章とそれに対するその文芸倶楽部の顧問である女性教員の評価を記した物です」

  「警部補、、、これらの文章が問題だと、、、貴方は言われるのですか?」

  「検事殿、、、、ともかく、、、お読みください」

  「ふむ、、、この目次に記された内容で判断する限りでは一つは帝政時代のロシアの文豪であるかのトルストイの有名な戦争と平和に対する感想文ですな。そしてもう一つは、今から数年前に出版されたドイツの作家であるラマルクが著した西部戦線異状なしに対する感想文ですな、、、、、、」
  「ここの二編の読書感想文・随筆が問題だと、、、、熊谷警部補、、、、、貴方は言われるのですか?」

  「その通りです、、、とにかく、、、検事殿、、、その二編の随筆を熟読してください」
 その熊谷警部補の熱心な言葉に政彦は黙って頷くとやがて徐にその二編の所謂読書感想文に眼を通すのである。
 それからおよそ、三十分ぐらいの時間を掛けて政彦はその同人誌に掲載された二編読書感想文とそれに対する文芸倶楽部の顧問である女性教師が記述した批評を読み終わるのである。そして少し自分の顎に手を掛けて何事かを考えてからやがて再び、目の前の熊谷警部補の方を振り返りながら次のように声を掛けるのである。

  「熊谷警部補、、、、貴方はこの二編の随筆が所謂反戦思想及び厭戦思想の類の文章だと言われるのですか?」

  「そうです、、、、この二編の随筆はいかにもわざとらしく必要以上に戦争及び戦場での悲惨さをより強調しているでしょう、、、、、」

  「それはまあ、、、取りようによってはそう取れないことも無いですがね、、、しかし、、、熊谷さん、、、、元々、トルストイの戦争と平和にしろ、、、ラマルクの西部戦線異状なしにせよ、、、これらの小説は戦争の空しさをテーマ・主題に下小説ですからね、、、、、、これらの作品を主題に感想文を書くとすれば必然的にこのようになりませんか?」

  「しかし、、、、検事殿、、、このような戦時下で、、、それはまさに不穏当な考え方ではりませんか?」


  「そのように言われても、、、、僕が記憶している限りでは今の所、トルストイやラマルクの作品が当局によって発禁にされていると言う話も聞かないが、、、、、、」

  「それは、、、そうですが、、、しかし、検事殿、、、本官が記憶している限りでは、ロシアのトルストイはともかくとして、、、ドイツのラマルクはドイツ当局によって国外追放になっている筈ですが、、、、、」

  「いや、、、あれは正確に言えばラマルクは国外追放になったのでなくて、ラマルク自身が米国に亡命したのですよ、、、何しろ、、彼はユダヤ系ですからね、、、ナチス政権下のドイツでは何かと住みにくいでしょうから、、、、、、、」
  「まあ、、、、いずれにしてもですよ、、、、トルストイかラマルクはどうか判りませんがね、、、この戦時下の非常時に全国民が一丸となって大陸での聖戦完遂を願っている中でこのように反戦、厭戦を煽るような文章を我々、特高警察として見過ごしには出来ませんよ」
  「ふむ、、、、それで警部補、、、ちと話が代わりますがね、、、、、この二編の随筆の作者は何れも紅梅高等女学校の生徒ですか、、、、、」


  「そうです。白木葉子、谷崎冬子、共に紅梅高等女学校の五年生で白木が文芸倶楽部の部長、谷崎が副部長を務めています。  そしてその二編の随筆を批評を書いているのが、同倶楽部の顧問である根本志保子と言う女性教師です。そしてその根元と言う女教師がこの紅梅文芸の編集責任者でもあります、、、、、、」

  「ふむ、、、、それでまた話が変わりますが、、、、熊谷さん、、、、貴方がこの同人誌の件を知ったのはどう言う経緯からですかな?」

  「はあ、、、、その事なんですがね、、、、実はその紅梅高等女学校の文芸倶楽部の女性との不敬に一人の陸軍中佐がおりまして、、、、、、」

  「エエエエエエ、、、、、父兄の中に陸軍の中佐がいるのですか?」

  「ああはい、、、、この紅梅高等女学校はあの代々木練兵場のすぐ近くにある子とも会って、、、、同校の女生徒の中には多くの陸軍将校の子女がおりまして、、、、、、」

  「なるほど、、、、、それで、、、、、」

  「それは、、、まあ早い話が、、、、その中佐殿が自分の娘さんがたまたま持っていたこの同人誌に眼を通す機会が有りまして、、、、、、」

  「なるほど、、、、その中佐殿が問題にしたのですね、、、、、」

  「えええ、、、その中佐殿を通じて代々木憲兵分隊から憲兵注意殿がうちの署に直々に見えられて、、、、警察はこのような不穏当な文書を野放しにするのかと、、、、」

  「捻じ込まれたと言う事ですか?」

  「まあ、、、、そう言う事です。それで検事殿、、、どうでしょうか、、、、取りあえず、、、内偵だけでも進めても構わないでしょう、、、、、、、」

  「まあ、、、憲兵隊から話が来ているので無視もできないですね、、、、しかし、、、、とにかく事を慎重に進めてください、、、、、根本と言う女教師はともかく、、、この二編の随筆の作者である白木と谷崎は共に未成年なんですから、、、、、、」


  「はあ、、、それは十二分に心得ております、、、、、」

  「うむ、、、それで白木と谷崎はどのような家庭の出身なのです、、、、」

  「はあ、白木の父親は開業医です。谷崎の父親は大江戸自動車と言う円タクいえ、タクシー会社の重役を務めています、、、、、」

 ふむ、その二人とも、所謂中流家庭の子女と言う事ですね。それで根本と言う女教師の家庭の状況は?」

  「ああはい。根本志保子の父親は長野県で中等学校の校長をしております。本人は東京に出てきて東京高等女子師範学校を卒業してすぐにこの紅梅高等女学校に国語教師として奉職しております、、、、」

  「ふむ、、、なるほど、、、、そうですか、、、まあ何れに城、、、熊谷警部補、、、、何度でも申し上げますが、、、、事は慎重に進めてくださいよ、、、」

  「はい、、、判りました。本官にお任せください、、、検事殿、、、」

 熊谷警部補はそのように答えながら政彦に敬礼を送るのであった。



 それから、およそ、十日後の事である。
 この日の夕方、午後五時過ぎの頃、東京・代々木の紅梅高等女学校の正門を出て葉もよりの国電・代々木駅の報に歩いている二人のセーラー服姿の女学生の姿があった。彼女らはともにその長い黒髪をいかにも典型的な昨今の女学生らしく三つ編みにしている少女であったが、その内、一人はすらりと背が高く、その顔だちもやや大人びた美人であった。そしてもう一人は小柄で美人と言うよりかは可愛い顔だちをした少女でどうやら近眼らしく大きな黒い丸眼鏡を掛けている少女であった。
 そして、背が高い方の女学生が白木葉子と言う名前の紅梅高等女学校の五年生で同校の文芸倶楽部の部長を務めている少女であった。そしてもう一人の小柄で眼鏡をかけた少女は谷崎冬子と言う名前のやはり紅梅高等女学校の五年生で同校・文芸倶楽部の副部長を務めている少女であった。
 この二人の少女は数日後に迫った紅梅高等女学校の文化祭である紅梅祭の準備の為にこの夕刻の時間まで学校に居残ってから、共に家に帰るべく連れ立って校門を出たのである。

 既既に季節は十一月も半ばになろうとしており、夕方の五時過ぎともなるともう辺りも暗くなり、更に気温も下がり気味であった。そのような中で白木、谷崎ともに駅までの道を急ぐのであった。

 そのようにして、その二人の女学生が駅までの帰路を急ごうと歩いていて、その代々木駅が目前と言う時の事である。その二人の女学生の前にある一つの人影がぬうと現れたのである。

 その怪しげな人影に驚いた白木と谷崎が共に身構えて立ち止まると、やがてその人影は次第にその姿を現したのである。そしてそれは年のころは四十近いと思われるやや小柄ではあるがいかにもがっしりとした体躯の男であった。その男はいかにも人のよさそうな愛想笑いを浮かべながら目の前の白木と谷崎に対していかにも気軽そうに次のように声を掛けるのである。


  「もしかしたら、、、、君たちはこの近くにある紅梅高等女学校の生徒さんかね?」

 それに対して、白木葉子は傍らにいる谷崎冬子とその互いの顔を見合わせてから「そうですが、、、、、」と小声で答えるのである。すると何時の間にかに彼女ら二人のすぐ背後に年の頃は二十代半ばと思われる大柄な体躯をしている二人の男が黙ってかにまるで寄り添うように来ているのであった。



  「一体、、、、、何なんですか、、、、、貴方たちは、、、、、、、、」

 そのように白木は怯えながらもキットしたように目の前の四十男を睨みながら尋ねるのである。

 それに対して、その四十男は尚更、穏やかな笑みを浮かべながら自分の両手を高く上げてから次のように答えるのである。

  「すまん、、、、すまん、、、、、別にわたしたちは怪しい者では無い。どうも君たちいやお嬢ちゃんたちを怖がらせたみたいだね、、、、実は我々はこう言う者だよ、、、、、、」

 その四十男はそのように笑顔を浮かべながら自分の着ている背広の襟元から何か黒い手帳のような物を取り出して、それを二人の少女に示すのである。何と、それは警察手帳であった。

  「エエエエエエ、、、、警察の人がどうして、、、、、、、」

 そのように白木は驚きの為にその目を見張るのである。それは傍らの谷崎も同様である。
 それに対して、その件の四十男は益々その顔に満面の笑みを浮かべながら更に次のように言うのである。

  「お嬢ちゃんたちは、、、もしかしたら、、白木葉子ちゃんと谷崎冬子ちゃんかね、、、、、」

 その突然いに名も知らない刑事から自分たちの名前を問われた二人は共に目を白黒させて再びその互いの顔を見合わせてから、白木葉子が頷きながら「そうですが、、、、何かわたしたちに御用でもあるのですか?」とさすがに警戒気味に問い直すのである。

  「いやああ、、、実はね、、、、とても些細な事なんだけどね、、、君たちにちとお伺いしたい事がるのですよ、、、、まあ、、、、このような時刻に何だけど、、、少し、、、小父さんたちと付き合って貰えないか、、、、、、、」

  「で、、、、でもこんな時刻だし、、、、それに帰りが何時もより遅いし、帰りが遅いと、、、、、、、」

 そのように白木が口ごもりながら答えるとその刑事は「そうか、、、、お家の報でお父さんやお母さんが心配すると、、、、」と問い直すのである。

 それに対して白木も谷崎も共に黙って頷くのである。

  「それでは君たちのお家の報には警察の方から連絡しておくよ、、、、それで帰りは警察の自動車で君たちのそれぞれの家にキチンと送り届けるよ、、、、」
 「でも、、、、何時まで掛かるのです、、、余り時間がかかるのは、、、、」

 それまで白木とは違って、ほとんど口を開かなかった谷崎がいかにも心細そうにそのように問いかけると、その四十がらみの小柄の刑事は更に満面の笑みをその口元に浮かべながら「そんなに時間はかからないよ、、、、君たちが我々にちゃんと協力して貰えれば、一時間も掛からないだろう」と言うのである。それから間もなく白木葉子、谷崎冬子の二人はその三人の刑事たちに連れられて行ったのである。そして先ほどまでその二人の少女に愛想を振りまいていた四十がらみの刑事は依然としてその顔に満面の笑みを浮かべていたが、しかし、その二つの眼は決して笑ってはいなかったのである。



 それから更に三時間後の、その日の午後八時過ぎの事である。

 この時に紅梅高等女学校の国語教師で同時に同校の文芸倶楽部の顧問でもある根本志保子は同校の裏門から外に出て帰宅の途についていた。今年二十三歳となるこの若い女教師が何故、この時刻まで学校に残って伊田かと言えば、やはりあの女生徒である白木葉子と谷崎冬子の時と同じように後、数日後に迫った紅梅祭りの準備の為である。特に彼女は先述したように文芸倶楽部の顧問であったが、、それと同時に若い時からと言うよりは幼い頃より、俗にカルタ取りと呼ばれる競技カルタの選手でもあり、たびたび色々なカルタの協議会に出場しては好成績を上げていた。それで近く行われる紅梅祭日でカルタ取りの協議会を実施する事なったので、その協議会の企画・運営を事実上任される事となった為で、その準備に時間が掛かったせいでもある。

 志保子は中肉中背の体ではあったがその容貌は所謂うりざね顔と呼ばれる見た目にも目元涼やかな女性であった。
 ここ最近は女教師も段々と洋装となっていたが、志保子はカルタ取りをしていたこともあって、昔ながらも所謂矢絣の着物に海老茶色の女袴と言う和装の身なりで授業に出ていたのである。そしてその長い黒髪は後ろに垂らしていたのである。 そして今今晩も志保子はその身形で手にカバン代わりの風呂敷包みを抱えながら女学校の正門を出ると近くに借りている下宿先に戻ろうとしたのである。

 その様な時の事である先ほどの白木葉子と谷崎冬子の時と同様に帰りを急ぐ志保子のすぐ前に怪しげな人影がぬうと現れたのである。
 それに対して志保子が身構えたのは当然の事であった。
  「何です、、、、、貴方は、、、、、、、、」

 そのいかにも緊張感に満ちた志保子の誰何の言葉に対してその人影は何も言わずに近づき、やがては徐にその姿を現したのである。それは今から三時間前にあの白木、谷崎の二人の女性と・少女らの前にその姿を現した例の四十男と同一人物である。 但し、、、その四十男は先ほど、あの二人の女性と・少女に向けた時の笑顔ではなく、いかにも厳しい表情で黙って志保子を睨んでいるのであった。
 それと同時に志保子は自分のすぐ背後に何か不穏な物を感じて思わず、背後を振り返るのである。すると先ほどと同様にあの年のころは二十代と思われる大柄な体躯の二人の背広姿の男が志保子のすぐ背後に迫るように来ていたのである。

  「ああ、、、、貴方は何なんですか?」

 その志保子の問いかけに対して、その件の四十男はニコリともせずに目の前の志保子の美しいそのう瓜実の顔をジロリと見つめながら低いが不気味な声で次のように言うのである。

  「紅梅高等女学校で国語の教師をしていると言う根本志保子とか言うのはお前さんの事だね、、、、、、、」

  「エエエエ、、、、確かにわたくしがその根本ですが、、、、、、貴方方は一体、、、誰なんですか?」

 そのように志保子は一旦、自分の背後を振り返っては例の大柄の二人の背広姿の男たちを見つめてから再び、正面を向き直り、、、、例の四十男に対して険しい表情を示しながらそのようにあらためて問いかけるのである。

  「ふん、、、、綺麗な顔をしながら、、、、いかにも小生意気な女先生だな、、、、、、こちとらはこう言う者だよ、、、、、」

 その四十男は志保子にそのような憎まれ口を聴きながら徐に自分の背広の懐から先ほどと同じように黒い警察手帳をだして、志保子のすぐ前に示すのである。

  「け、、、、警察の方ですか?」

  「ああ、本官は代々木警察署で特高係りの主任を務めている熊谷だ、、、、そして、、そちらの二人は本官の部下である本城刑事と大宮刑事だ」

  「エエエエエエ  警察の特高の刑事さん、、、、、、、」

その熊谷と名乗る刑事の素性には志保子は真底驚いたのである。 何しろ、泣く子も黙ると言われた特別高等警察は昭和に入って間もなく二度に渡って結成されたばかりの日本共産党に対するそれは厳しい取締でつとに有名を馳せていたからである。 しかしながら、、、これまでの生涯で全く左翼運動増しては共産党などの政治運動とは全く関わりが無い志保子に取って完全に無縁の存在とも言えたのである。それがなんと、この自分のすぐ前にその特高の刑事がふいにその姿を現したから志保子も驚くのは当然の事であった。

 そのように志保子がとまどっているとその熊谷と呼ばれた刑事が次のように志保子に声を掛けるのである。

  「ちょいと、、、お前さんに聴きたい事が有ってね、、、、、、、、本官らはずっとここでお前さんが来るのを待ち構えていたんだよ、、、、、」

  「そ、、、そんな、、、、わたくしは特高係りの刑事さんに調べられる謂れは有りません、、、、、、、、」

  「ふん、、、、、、女先生よ、、、、、、お前さんに無くても、、、、こっちにはいろいろと有るんだよ、、、、、ともかく、、、、つべこべ言わずにこれから本官らと共に一緒に来るんだよ、、、、、、」

  「そ、、、そんな、無茶な、、、、、、何の理由もなしにこのわたしを警察に連れて行こうと言われるのですか?」

 志保子がその美しい顔に柳眉を逆立てながら抗いの言葉を述べると、その熊谷と名乗った中年の刑事はやや苛立ちの様子を見せながら次のように言うのである。

  「本当に小うるさい女だな、、、、、まあ良い、、、ちと話が変わるが白木葉子と谷崎冬子とか言う娘の事は当然に知っているな、、、その二人ともにお前さんが顧問を務めている文芸倶楽部に属している女性戸田、、、、、」

 その熊谷と言う刑事が言った二人の女性との名前に志保子はさすがに驚きながら「白木さんと谷崎さんがどうしたと言われるのですか?」

  「ふむふむ、、、、実はな、、、その二人のお嬢ちゃんは共に我々警察の質問にいろいろと答えてくれたよ、、、、、、、かなり興味深いことを含めてね、、、、、、」

  「エエエエエ、、、、、、白木さんと谷崎さんが、、、、、それでは、、、、まさか、、、、あの二人は今、、、警察にいるのですか?」

  「アアアア、、、、、本官たちの報でそれは大事に預かっているよ、、、、、それでね、、、、、、、その二人が我々警察に供述してくれた諸々の事について、、、、、、、根本先生よ、、、、、、お前さんにいろいろと聞かせて貰いたい事が有るんだよ、、、、、、だから大人しく、、、、本官らと共に来るんだな、、、、、、」

  「そ、、、、、そんな、、、、、あの二人に一体、、、、貴方方は何をしたと言うのです、、、、、」

  「別に本官らはあのお嬢ちゃんたちに何もしてはいないよ、、、只々、、、、話を聴いただけだよ、、、、それにね、、、、、根本先生、、、、、お前さんが大人しく本官らに同道してくれればすぐにでもあのお嬢ちゃんたちを無事にそれぞれの家まで送り届けてやるよ、、、、、、」
  「それではわたくしが貴方方に従わなかったら、、、、、、、」

  「さあな、、、、その時はずっとあのお嬢ちゃんたちをこのまま警察の報でその身柄を預からせてもらう事に成るかもしれないな、、、、、、、」

  「そ、、、、、そんな無体な、、、、、、」

  「まあ、、、、とにかく、、、、つべこべ言わずにこれから大人しく本官らに同道するのだ、、、、、良いな、、、、、」

 その先ほど、、自ら熊谷と名乗った刑事がそのように言うや否や、すぐにそれまでずっと黙ったまま志保子の背後に立っていた二人の若い刑事の内、一人の方が突然に背後から志保子の身体を羽交い絞めにするのである。
  「な、、、、何をするのですか、、、、、止めてください、、、、、離して下さい、、、、、、」
 その志保子の必死の抗いの叫びを聴きながらその志保子が持っていたカバン代わりの風呂敷包みを巧みに志保子から受け取ったあの熊谷刑事が、更にもう一人の若い刑事に向かって次のように言うのである。

  「大宮君、、、本条君がこの女先生の身体を抑えている間に、、、、この女先生に手錠を掛けるんだよ、、、、、それに勿論、腰縄もつけてな、、、、、、」

 その熊谷刑事の言葉に頷いた大宮と呼ばれた刑事は黙って頷きながら徐に己の背広の懐から手錠を取り出すのである。そしてその手錠にはちょっとした長さの縄がつけられていた。
 それからその大宮と呼ばれた若い刑事は既に本庄と言うもう一人の若い刑事に取り押さえられて、全くその身動きが取れない志保子の背後に回るとその華奢な手首を強引に背後に捩じ上げるのである。

  「ウウウウウウウウウ、、、、、、、ら乱暴は止めて絵えええ、、、、、お願いいいいいいいい」

 その志保子のその悲痛に満ちた抗いの言葉にも関わらず、大宮刑事はその表情を変えずに、只々、志保子の耳元に次のように囁くのである。

  「別に手荒な事はしない、、、、只々お前さんに手錠を掛けるだけだ、、、、、だから大人しくしろよ」

 それから大宮刑事はその背後に捩じ上げた志保子の手首を更に上の方に引き上げてからその左右の手首を交差させてはついに手錠を嵌めるのであった。

  「キッチ」

 そのような不気味な金属音がしてついに志保子の背後に回された手首に非常な手錠が掛かるのであった。そして更にそれから大宮刑事はその手錠についている縄を志保子の腰に回して腰縄とするのである。
 その瞬間、志保子はいかにも無念そうに瞑目しながら押し黙るのであった。いずれにしても、こうして志保子は無惨にも後ろ手錠を施されたのである。

  「フフフフフフフフフフッフ、、、、、さすがにお前さんも観念したようだな、、、、そうそう、、、そのように神妙な態度をとれば良いんだよ、、、、、、女先生よお」

 熊谷刑事はそのような事を嘯きながらペタペタといかにも無念そうな表情の志保子の頬を軽く叩くのである。


「じゃああ、、、、行こうか、、、、、、、」

 熊谷刑事はそのように言ってから歩き出すのである。そしてそれに部下の本庄刑事と志保子の腰縄の縄尻を握った大宮刑事が続くのである。
 




 それから志保子は近くに止めてあった警察の自動車に載せられて、代々木警察署まで連行されたのである。 そのように志保子を検束した熊谷刑事の一行を乗せた自動車がそれから間もなく、五分程で代々木警察署の裏口に着くのである。

  「さあ、、、、、着いたぜ、、、、先生よ、、、、、さっさと降りるんだよ、、、、、、」

 その自動車から一足先に降りた熊谷刑事はそのように自動車の中に声を掛けて志保子にその自動車からすぐに出るように促すのである。やがて手錠・腰縄の縄尻を握っているあの大宮刑事に促される格好で志保子はその自動車から降りさせられたのである。

  「本庄君、、、、君は車庫に車を戻しておいてくれ、、、、、、」

 熊谷刑事は運転手を務めた本庄刑事にそのように声を掛けてから、既にその自動車の中から降りさせられている志保子の方を振り返りながら「さあ、、、、、、行こうか」と言って、その代々木警察署の裏口から中に入るように促すのである。

 それから程なくして、、、、、根本志保子はその代々木署の二階にある取調室に入らされたのである。志保子がその裏口から署に入って、この取調室に入らされるまでの間、、夜間にも関わらず、未だに署に居残っている制服・私服の警官・巡査たちがいかにも興味深々と言った様子で後ろ手錠に腰縄姿と言う余りにも惨めな志保子の姿をそれこそジロジロと見つめているのであった。その視線に耐えながら志保子はその顔を只々俯けながら、手錠・腰縄の縄尻を引く大宮刑事に促されるままに歩くのであった。


 それはともかくとして、その志保子が入れさせられた取調室はその広さが四畳半ぐらいであり、その中央に飾り気のない小さな電灯スタンド置かれただけの机がボツと置かれただけで、ン更にその狭い部屋の窓際に記録係りが座ると思われる机がくっつくように置かれただけであった。
  「さあ、、、、、入るんだよ、、、、、」

 熊谷刑事はそう言って志保子の背中を押して、その取調室に入らせると、その狭い取調室の中ほどに置かれた例のポツンと電燈スタンドが置かれただけの机の向かい側の席に志保子を座らせると自分自身はその手前の席に腰かけるのである。

 一方、それまでずっと志保子の手錠・腰縄の縄尻をずっと握っていたあの大宮と言う刑事は、その熊谷刑事が座った席の正面の席に志保子を座らせるとやがてそれまで志保子に施されていたあの手錠と腰縄を解こうとしたのであるが、すぐに熊谷刑事から次のように声を掛けられたのである。

  「大宮君、、、、この女先生の手錠と腰縄を解く必要は無いよ、、、、、、、、」

 その熊谷刑事の言葉に大宮刑事は驚いたように次のように聞き返すのである。

  「主任、、、、、本当に宜しいのですか?」

  「あああ、、、、、構わん、、、、構わん。そうだ。取りあえずはその椅子の脚にでも腰縄を繋いでおれば良いよ」
  「ああはい、、、、、、判りました、、、、、、」


 大宮刑事はそのように返事を返してから、すぐに志保子が座らされた椅子の脚に志保子の腰縄の末端の部分を括りつけるのであった。

 それから、大宮刑事は熊谷刑事に一礼してから記録係りとして補助席の方に腰を下ろすのであった。

2017/09/20 05:57:59(KL5s/o6i)
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