再びイタリアに戻ることになった駿は、仕事を控えめにして、荷造りに追
われていた。この家と離れることに名残惜しみながら。
「駿くん、荷物だいたいまとまったみたいね」
「ええ。大きい荷物はねここに置いていきますから」
「じゃあ、最後の夕食にしましょうか」
「え？ちょっと大げさですよ！戻ってこないわけじゃないのに」
「あら、。いやだわ、わたしったら……」
　しかし、食事をしていても、二人は、黙って箸をのばすだけだった。
　食事を終えて、お風呂に入っていると、かおりが入ってきて、駿の背中を
洗い始めた。
「駿くん、せっかく戻ってきたのに、また、イタリアに帰っちゃうなんて…
さみしくなるわね」
　かおりは、涙ぐみながら、駿の背中を洗い流すと、
「じゃあ、湯冷めしないようにね」
　と、いって浴室から出て行った。

　自分が、この家を去ると、かおりと恭子は、また、二人きりになってしま
うのが、何かかわいそうで、寝付けない夜を、駿は過ごしていた。
　寝不足のまま、朝を迎えてしまい、少しふらふらしていた。
「駿くん、恭子には、黙ってていのね」
　かおりが、確かめるように駿にいった。
「ええ。お願いします。じゃ、いってきます」
「気をつけてね」
　かおりは、目に涙を浮かべながら、駿を見送った。
　駿が、イタリアに旅立った二日後、恭子が、合宿から帰ってきた。
「ただいまー、お母さん、どうしたの？」
「駿くんね、急にイタリアに行っちゃったのよ」
「ええ！ひどい！何でわたしに言ってくれなかったの！」
　恭子は、怒りとショックで、立ち直るのには、かなりの時間を要した。
　駿がねイタリアに戻って、二年が過ぎようとしていた。

「武田さーん！日本からエアメールが届いてますよ」
　日本人のスタッフから、メールを受け取り、差出人を見ると、
「坂口　恭子」
　と、書いてある。
　<おっ、恭子ちゃんから、初めての手紙だ>
　封を切って、手紙を読むと、いろいろと書き記してあった。
　　　　　　*　　　*　　　*　　　*　　　*
「拝啓…駿にいさん、お元気ですか？わたしも母も元気にすごしています。
　にいさんが、イタリアに戻って、もう二年がたとうとしています。
　わたしも、無事に高校を卒業して、旅行代理店に就職することができ、ツ
　アーコンダクターとして、日本中を駆け回っています。
　　　　　　　　　　　　　　　　・
　　　　　　　　　　　　　　　　・
　　　　　　　　　　　　　　　　・
　　　　　　　　　　　　　　　　・
　それと、にいさんが、イタリアに行ったあと、母はお付き合いしていた方
　と近く、結婚することになりましたので、ご報告するしだいです。

　ＰＳ　わたしも近々、イタリアに行く予定ですので、そのときはよろしく
　　　　お願いしますね

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　坂口　恭子
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　」
　
　<叔母さん、再婚するのか…ン？恭子ちゃんが、イタリアに来る？>

　その数週間後、恭子は、本当にイタリアのフィレンツェを訪れ、駿の店に
も顔を出しにきていた。
「ムッシュ、タケダ！　オキャクサンヨ！」
「メルシー！マダム」
　外に出てみると、少女の面影を全く残さず、大人の女性に変身した恭子
が、涙を滲ませながら立っていた。
「駿にいさん！！会いたかった！」
　恭子は、駿の胸に真っ直ぐに飛び込んでいった。
　駿は、恭子をしっかりと受け止めていった。
「ごめんな！恭子ちゃん…」
　駿は、黙ってイタリアに行ったことを、恭子に詫びた。
　恭子は、仕方がなかったらといって、首を横に振った。

　恭子は、ホテルをとらずに駿のアパートに泊まることになった。
「駿にいさん…お母さんに全部聞いたわ。わたしたちが、血の繋がりがない
ことも……」
「そうか…お母さんのいうとおりだよ。おれの亡くなった父と、君のお父さ
んは、学生時代からの親友だったんだ。両親が、亡くなったあと、身寄りの
ないおれを、君のお父さんが引き取ってくれて、従兄弟として君に紹介した
んだ。」
「じゃあ、これからは、駿さんって呼んでいいのね！」
「ああ、かまわないよ」
「駿さん！愛してるの！わたしを抱いて！」
「恭子！おれも愛してる」
　二人は、熱く濃厚なキスを重ねるとベッドで、狂ったように抱き合い、お
互いの愛の確認をした。
「ああ…！うれしい！ああっ．．．．．．！！」
「恭子！恭子！」
　二人は、大きな喘ぎ声を発し、熱く絡み合い、何度も何度も名前を呼び合
った。
　恭子の淫らに燃え上がった肢体は、色気を増し、駿を夢中にさせた。
　また、その透き通るような艶かしい悶え声が、二人を官能の渦に巻き込
み、いつまでも抱き合っていた。
　
「恭子、実は来年になったら日本に帰れるんだ」
「ええ！本当！よかった……」
「日本に帰ったら、君にプロポーズするよ！待っててくれるよね？」
　恭子は、うれしくて涙を流しながらうなずいた。駿と結婚することを小さ
な頃から憧れていたからだった。

　翌年、駿は、日本に帰国し、約束通り恭子にプロポーズをして、二人は、
結婚した。
　そして、今も、幸せに暮らしている。


　　　　　　　　　　　　　　　～～完～～

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