「鈴木さん！」
　絶頂の直前に、彼女が絶叫した。その名は、私の名で、ない。
　私は愕然として、動きを止めた。その一瞬で、彼女に、他の男がいること
は、容易に察せられた。そいつと、そうした行為に及んで、今のように、絶
頂に至っているであろうことも。
　嫉妬は言うまでもなく、烈火の如く怒りがこみ上げてきたので、彼女をは
ったおして、
「鈴木とは、誰だ！」
　と言おうとしたのだが、そうする前のほんの一瞬、ふと、その鈴木と、彼
女とのセックスの光景が脳裏に浮かんで、すると、それに連関して、次から
次へと止めどもなくその場面が私の思考の中を、浮かんでは流れ、流れては
浮かんできた。

　彼女は、私が仕事をしている間に、鈴木とやらと会う。食事とか、映画と
か、普通のデートらしいこともするかも知れないが、最終的な目的は、ひと
つ。それのために、どこかのホテルか、鈴木の部屋かに行く。
　部屋に着くなり、２人は抱き合って、互いに唇をむさぼる。口を離したら
唾液が糸を引くくらい、激しく舌を絡ませる。特に、彼女の求め方は凄い。
飢えている。私とするときには見せないような目つきで、自分から舌を鈴木
の口へ入れる。そうしている間に、互いは互いの体を愛撫している。鈴木は
彼女の背中、腰、尻などを撫で回す。私は、彼女の体を我が物のように思っ
ていたが、こうなっては鈴木のものだ。彼女もそれに応じ、鈴木の体を撫
で、よほど飢えているのか、すでに股間をさすっている。
　ベッドに移動すると、彼女はさっさと服を脱ぎ捨てて、全裸になってしま
う。そうして鈴木のものを自分で取り出して、口にくわえる。私とするとき
は、こんなに積極的なことはない。私が一枚一枚脱がせていくし、口でし
ろ、と言わなければしない。しかも、あまり良い顔をしてはやらない。鈴木
のものは、微笑さえ浮かべて、美味しそうに頬張っている。根元から先、裏
側まで、丹念になめ回し、音を立てて吸う。あまりの激しい刺激に、鈴木は
たまりかねて、ここで一発射精。彼女は、口の中にたっぷり放出された精液
を、口を開けて鈴木に見せて、鈴木を喜ばせると、躊躇わずに飲み込む。そ
うして、笑顔。私の精液は絶対に飲まない。
　体を入れ替えて、今度は鈴木が彼女の股間を責める。何もしていなくても
すでにいくらか濡れている。鈴木はそこを、指や舌を使って刺激し、彼女
は、指先までぴくぴくさせながら、大きく喘ぐ。私がしても、あいまいな反
応しかしないが、鈴木にされると、すさまじく敏感に反応し、全身で快楽を
享受している様子だ。そうして、早々と一回、いってしまう。
　鈴木はいやらしい笑みを浮かべ、言葉で彼女を責める。
「欲しいのか？」
　彼女は恍惚としながら応える。
「ほしいの。たまらないの」
　もはや、動物。
　私とするときは、いつも眉間にしわが寄っていて、感じているのだか苦し
んでいるのだか判然としないが、鈴木とは、笑っている。セックスを楽しん
でいる。気兼ね無く、大声で喘いでいる。鈴木に合わせて、腰を動かしてい
る。体位を変えて、彼女が上になったときなど、すさまじい。これでもかと
いうくらい、腰を振る。ぱんぱん音がするほどうちつける。根元まで自らに
差し込んで、うねうねとうごめき、より一層の快感を求めている。先からし
つこいが、私とするときは、そこまでしない。
　行為は続き、鈴木はともかく、彼女はもう、本当に、犬か猿か馬か牛か豚
かくらいの有様になって、セックスとか性交とか情交とかいうよりも、交尾
という言葉のほうが適切であると思われるくらいの体たらくになって、いよ
いよフィニッシュ。
「どこに出す？」
　と鈴木が問えば、
「お口に出して」
　私とするときは、以下略。
　二回目であるから、量はそれほどでないが、その日二度目の口内射精。彼
女はやはり飲み干し、にこりと笑って、使用済みの鈴木のものをお口でお掃
除。

　だいたい以上のような空想が、鈴木さん！と彼女が叫んで、私が、え、ま
さか、でも、いや！こいつ！殴る！などと思った後の一瞬の隙に、濁流の如
く私の脳髄をめぐりめぐった。その妄想によって、嫉妬、憤怒の他に、いつ
も以上の異様な興奮を覚え、はっと我に返ると、私は、彼女の体内にありっ
たけ射精していた。あるいは、鈴木になりきっていたのかもしれない。


　如何なる嘲笑も甘んじて受けるぞ！

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