今住んでいる町に越してきて20日目の先週木曜日、近所のお風呂屋さんに行きました。
スーパー銭湯ではなく、住宅街にある昔ながらの銭湯です。
その日は仕事がすごく忙しくて疲れたので、マンションのユニットバスではなく、広い浴槽にゆったり浸かって疲れを取ろうと、夕食を済ませて夜の8時半過ぎに出かけました。
マンションから徒歩で僅か数十メートルの距離なので、夜はノーブラで歩けます。

先月まで住んでいた町でも、私は心身のリフレッシュのために週末には自転車で2キロぐらい離れたお風呂屋さんに通っていました。
そのお店は、入り口が男女共通のフロント形式で洗い場も広く、三つの浴槽のほかにサウナと水風呂が完備していました。
木曜日に行ったお店は、入り口が男女別々で番台のある古いつくりですが、脱衣場も洗い場もお掃除がよく行き届いています。
浴槽のお湯は少し熱いのですが、ガマンして入っていると疲労が取れて、入浴後はとても爽快な気分を味わえます。
今月2日に越してきて以来、これまで週末に二度利用していました。

その二度とも番台はお婆さんだったのに、木曜日は行った時間が少し遅かったせいか、番台にはお爺さんが座っているではありませんか。
私がお風呂屋さんに通うようになったのは、生まれ故郷の大学を卒業し、首都圏に就職して一人暮らしを始めてからのことです。
しかも、先月まで二年間利用していたのはフロント形式のお店でした。
ただでさえ番台形式のお店にはまだ不慣れだというのに、その番台にお爺さんとはいえ男の人が座っているのです。
「エー、この人の前で裸になるの！」と思うと、一瞬、頭の中が真っ白になりました。

Uターンして帰ろうかとも思ったのですが、「毛嫌いしているみたいで、何だか悪いなー」という気持ちの方が勝り、「今日は広い浴槽に浸かりたかったんでしょう？男の人とはいっても、お爺さんじゃないの！」と自分で自分に言い聞かせながら、中に入りました。
脱衣場は私一人でした。
番台からはなるべく離れた位置のロッカーを選びましたが、男の人の前で服を脱ぐという経験は初めてだったので、すごく緊張しました。
Tシャツとパンティを脱いで全裸になるときは、心臓がドキドキしました。

気恥ずかしいので番台の方には目をやりませんでしたが、お爺さんにずっと見られているような気がして、そそくさと洗い場に向かいました。
洗い場には二人の先客がいました。
一人は小さな女の子を連れた30歳くらいで、いかにも水商売風の色の黒い方。
もう一人は40歳代に見える、とても綺麗な方。
綺麗な上に、胸も大きく胴も括れていて、「自分も20年後には、こんな人でありたい！」と思わせるような方でした。

カラダを擦って顔と髪を洗い、熱めのお湯を湛えた広い浴槽に二度ゆったり浸かって疲れを取ると、もう脱衣場に上がる時間です。
「ひょっとしたら、お婆さんと交代してるかもしれない」という一縷の望みをもって番台の様子を窺ってみたのですが、依然としてお爺さんが座っています。
仕方がありません、覚悟を決めて洗い場のガラス戸を開けました。
タオルで前を隠すべきかどうかで少し迷いましたが、そんな真似をすればお爺さんを異性として意識しているというメッセージを送ることになりかねないと考え、そのまま脱衣場に出ました。

脱衣場に出たとき、番台のお爺さんと目が合いました。
お爺さんは一瞬ですが、全裸の私をジロッと見ました。
思春期以降、男の人に裸を見られた経験がない私には凄いショックでした。
「やっぱり、タオルで前を隠しておくべきだった」と反省しましたが、今さら手遅れです。
俯き加減にロッカーまで進むと、バスタオルを取り出してカラダに纏い、ドライヤーで濡れた髪の毛を乾かし始めました。

ふと前方に目をやると、利用客が荷物を置いたり腰を下ろしたりするための広い台が番台の前に設置されています。
そこに、私より先に上がっていた水商売風の方が座っていることに気が付きました。
番台のすぐ前だというのに、その方はバスタオルをカラダに纏うことなく素っ裸で座っているのです。
連れの女の子も、素っ裸で脱衣場をウロウロしていました。
そこに、私より少し遅れて綺麗な方が上がってきたのですが、やはりタオルで前を隠したりはしていません。

その方は、番台に比較的近いロッカーからバスタオルを取り出すと、お爺さんの方を向いたまま濡れたカラダを拭っています。
お爺さんは柔和な表情で、その様子を番台から見守っています。
お二人のあっけらかんとした態度を近くで見ていると、「お風呂屋さんでは女も素っ裸が自然で、自分だけが自意識過剰だったのかな？」とも思えてきました。
それでも、番台の方を向いてバスタオルを外したり、パンティを穿いたりするような真似は恥ずかしくてとてもできませんでした。

綺麗な方は私とほぼ同じタイミングでお店を出て、一足先に出て待っておられたご主人と一緒に車で帰っていきました。
「あんな綺麗な奥様の裸を番台のお爺さんに見られて、ご主人はイヤじゃないのかしら？」と不思議に感じました。
私たちがお店を出るときも、水商売風の方は相変わらず素っ裸で台に座ったままでした。

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今お付き合いしている彼にも見せたことがない自分の裸を、お風呂屋さんとはいえ番台の男の人に見られるのはイヤですし、何か納得がいきません。
それでも、ご一緒したお二人のあけっぴろげな態度を拝見して、色々考えさせられました。
この日曜日は、前々回と同じ夕方の6時頃にお風呂屋さんに行きました。
女湯の引き戸を開けて番台を見上げると、お婆さんだったのでホッとしました。

日曜日のせいか、それともお婆さんが番台に座っている時間帯だったせいか、前回と違って割と人が多かったですね。
お風呂上りに、お婆さんが番台に座る時間帯を思い切って尋ねてみました。
やはり女性客からは同様の質問が多いのか、「私はね、夕方の5時半から夜の8時半まで。それ以外はウチのオジサンね」と親切に答えてくれました。
だとすれば、開店の4時から5時半までと、8時半から閉店の10時までが私にとって鬼門の時間帯ということになります。

お風呂屋さんはどこも家族経営で、他人を雇えるような余裕がないことは承知していますし、「番台の爺さんがイヤだったら、行かなきゃいい」という声もあるでしょう。
それでもサービス業である以上は、女性の利用客に精神的圧迫を加えない程度の配慮はお願いしたいところです。
先日ご一緒したお二人とて、外見上は平然としていても、「お爺さんだから仕方ないよね」という諦めにも近い気持ちではないでしょうか？
どこに落としどころを見出すかの判断は、それぞれのお店が置かれた状況で異なるでしょうが、結果的にその方が利用客を増やして経営的にも潤うことになると思います。

お恥ずかしい話ですが、私は24歳になった今でも男性経験がありません。
学生時代に付き合っていた彼氏からは何度も求められましたが、それに応える勇気がないまま、他の女性に乗り換えられてしまいました。
今お付き合いしている方ともデート中に手をつなぐくらいで、キスをしたことさえありません。

そんな私が、近所のお風呂屋さんで番台に座っているお爺さんを目にしたときや、一瞬とはいえ、そのお爺さんに裸をジロッと見られたときに受けたショックは相当なものでした。
たしかに、私が男性との肉体関係を経験していれば、そのときの感情や態度は違ったものであったかもしれませんが、どう違ったかは想像できません。
偶然ご一緒したお二人のように、少なくとも外見上は平然としていられたかも全く分かりません。

マンションからも見える、すぐご近所のお風呂屋さんですから、これからも定期的に利用することになるかと思います。
土日祝日は基本的に仕事が休みなので鬼門の時間帯は避けられますが、帰りが夜の7時半～8時になる平日が問題です。
これから夏場にかけては汗をかく上に身体が疲れるので、週末以外に平日も週に一度は広い浴槽に浸かってゆったりしたいのですが、夕食を摂らないで出かけても、入浴を終えるのは、番台がお婆さんからお爺さんに交代する8時半を過ぎてしまいます。

番台形式をフロント形式に改造していただけると、時間帯を気にすることなく何時でも利用できるので非常に助かるのですが、それだけでもリフォーム代が数百万円はかかるようです。
お年寄り二人だけで経営していて継承者もいない衰退産業のお風呂屋さんに、そんな設備投資の費用はかけられませんよね。
そう考えると、私自身が変わるのがベストなんでしょうが、それが一体いつになることやら（笑）。
これからは平日、広い浴槽にゆったり浸かりたいときは、お爺さんが番台に座っている鬼門の時間帯でも嫌がらずに利用して、徐々に自分を慣らしていきたいと考えてはいるのですが…