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1:水中花の夜
梅雨が終わり、夏の始まりへのエアポケットのような、
妙に中途半端な週末だった。 その年の長梅雨を引きずるような、纏わり付くような湿気と、 これから訪れる盛夏の気配を、両方感じさせるような、 微妙に居心地の悪い、ねっとりとした夕刻だった。 何度洗面所で顔を洗っても、 すぐにべたついた油のような不快感が、皮膚に蘇えってくる。 身体も、引かない微かな汗の皮膜に包まれているようで、 早く帰宅して、熱いシャワーを浴びて洗い流したい・・・。 そう思っていたのだけれど・・・。 「なんか蒸し暑くて気持ち悪いね、ちょっと冷たいの、飲んでいかない?」 同僚の誘いに、私は逡巡した。 早くこの、不快な皮膜を取り去りたい気持ちも強かったけれど、 冷凍庫で凍らせたジョッキになみなみと満たされた、 黄金色の飲み物もまた、魅力的だったのだ。 「どうしようかな・・・。」 悩む私に、同僚がたたみかけた。 「どうせ予定無いんでしょ?たまには女二人でクダ巻こうよ!行こう!」 帰り支度を済ませると、私は同僚と並んで職場の玄関を出た。 駅の手前を右に折れると、 幾つかの店名を掲げた、錆付いた小さなゲートをくぐる小路がある。 すでに退社時間をまわり、飲み屋の前には照明を灯した看板が出され、 なんとなく私を浮ついた気分にさせた。 同僚と、馴染みというほどではないが、いつも決めている店の暖簾をくぐる。 カウンターと小上りが5卓ほどの、小さな居酒屋。 まだ開店間もない店は空いていて、 私達は一番奥のテーブルに通された。 運ばれてきた付き出しと、お待ちかねのジョッキで、女二人のささやかな宴が始ま る。 喉越しの幸せを感じて、私はようやくシャワーへの未練を振り切ることができた。 ほどなく、二人の男性客が店に入ってきた。 目が合い、お互いちょっと驚いた様子・・・。 取引先の担当、よく知っている顔が一人と、 その仲間らしい、顔だけは知っている男の二人連れだった。 「よぉ!」 と声を掛けて、親しげにこちらに近付いてくると、 驚いた事にもう一人は、私の連れ立っていた同僚に、 「やぁ!」 と親しげに声を掛けた。 「知り合いなの?」 私が彼女に問い掛ける。 「うん、何度か取引先の宴に呼ばれてさー。」 ちょっと意味ありげに、小声で彼女は耳打ちした。 「でもあいつ、気をつけたほうがいいよ。。。」 何を気をつければいいのか、それを聞き出す前に、 彼らが私達のテーブルに上がりこんできた。 向かい合って飲んでいた私達の隣に一人ずつ、 私の隣には、担当の既知の男、 同僚の隣には、その「気をつけたほうがいい」男・・・。 確かに、ちょっと遊び慣れた男の匂いが感じられた。 何が、、、というわけではないのだが、 立ち振る舞いが、どことなくスマートで、しかも官能的だった。 腰を下ろし、上着を脱ぐ仕草、 煙草に火をつける仕草、 しなやかな箸さばき・・・。 いや、同僚が「あんな」ことを言うから、 余計意識してしまったのかもしれない。 なんとなく、引き込まれるように、 男の一挙一動に見とれていたらしかった。。。 「どうしたの?」と言うように、 男の目が自分を捕らえているのに気づいた時、 私は酷く狼狽し、顔を伏せてしまった。 耳の先端、毛細血管にまで、 自分の血潮が巡り詰めていくのが感じられる・・・。 様子を伺うように少し上目で確認しようとした時、、、 もう一度、男の目に捕らえられ、 そして彼は、瞳の中だけでニヤリと、確かに笑ったのだ。 店を出る頃には、 私はしたたかに酔いが回ってしまっていた。 完全に、男の術中に嵌っていたのだろう。 宴の間中、何度も、 テーブルの下で、男の伸ばしたつま先が、 私の膝頭に微かに触れた。 その度に私は、ハッと顔を上げ、 全く学習能力の無い子羊のように、何度も男の視線に捕われ、 そこから逃れるように、グラスを空けてしまったのだ。 同僚に肩を借りるようにして店を出る。 相変わらず不快な空気が、私の身体に纏わり付いて、 酒席での妙な緊張も手伝って、 自分の身体から、汗ばんだ、 なんともいやらしい匂いが立ち昇っているような気がしてならなかった。 見回すと、あの男が消えている。 「車取りに行ってるから。これじゃ電車乗って帰れないだろ。ヤツに送ってもらえ よ。」 担当の顔見知りの男は、 何の屈託も無く、そんなようなことを言っていた。 「大丈夫かなー、ねえ、1人で平気?」 私の同僚が、どこまで心配しているのかわからない声で告げる。 どうせ彼女も、こんな私を電車で抱きかかえて帰るのは気が進まないのだ。 そんな思いが伝わってきてしまったし、 第一、その時の私は、もう男の術中にあったのだ。 だから、、、 「いいよ、彼に送ってもらう。」 そう言いきったところに、 フルスモークのワゴン車が横付けになった。 助手席のドアを開け、転がり込むように車内に入ると、 見送りの二人の言葉を振り切るように、私はドアを閉めた。 男は・・・無言で車をスタートさせた。 地方の小さな都市、 少し走ると、車は山裾に行き当たる。 そこからは、ちょっと距離のある、九十九折の山道を越えて、 私の町へと抜けなければならない。 相変わらず、男は無言で、 しかし無駄の無い手さばきで、ステアリングを操作している。 性懲りもなく、そんなものに見とれていたからいけなかったのだ。 幾つものカーブに揺られ、無性に気分が悪くなってきた。 丁度、峠の頂付近で、 私はとうとう我慢できなくなって声を上げた。 「車、止めて!」 道路脇のちょっとした空き地に車が滑り込むや否や、 私は弾かれるようにドアを開いて飛び出し、口を押さえたまま、 最短距離の草叢に駆け込み、そして吐瀉した。 なかなか止まらぬ吐き気に、 うずくまってしばらく嗚咽していると、 いつの間にやってきたのか、 男の暖かい手が、背中を擦り始めてくれた。 「酔い覚ましに飲んでたのがあるから、これで口ゆすいで。」 男の手から、半分ほど残った、ペットボトルのお茶を受け取る。 口に含み、飲まずに、ゆすいで吐き出した。 一度、二度、三度・・・。 「もう大丈夫だろ?」 「うん、ありがとう。。。」 振り向きざま、・・・急に、 男の顔が被さってきた。 なんの準備もないまま、唇がふさがれた。 「抵抗」という概念さえ生まれないほどの、 唐突な始まりだった。 何が起きたのか、半ばわからぬまま、 吐いたあとの息苦しさから、酸素を求めて開いた口に、 ヌメヌメと生暖かい軟体生物のような、 男の舌が侵入してくる。 まるで残った吐瀉物を探るように、 口の中を蠢きまわり、味わっているようだった。 あたかも、自分にされている事ではないように、 私の脳は、半覚醒の状態でそれを受け止めていたのだが・・・。 男の手が、私の胸に触れた瞬間、 激しい電撃が、私を覚醒させた。 男のなすがままに、口内を蹂躙され、 今、胸に手を這わせられようとしている自分・・・。 「いや!!やめて!」 酔ってふらついているとは思えない力で、 男をはねのけようともがく私。 それを押さえ込もうと、男のほうにも力が入る。 力較べでは負けは決まっていた。 一瞬の瞬発力で男から逃れられなかった私に、 もうそれ以上、男を引き剥がすだけの余力は残されてはいなかった。 再び口の中に、舌が潜り込んでくる。 大きな手が、ブラウスの上から胸を包み、 ゆっくり、ゆっくりと揉みしだいていく。 もう・・・、 力が入らない、というより、抜けていく感じ・・・。 男の、居酒屋での官能的な動きが蘇えってきて、 「もう、、、いいや。」 と、もう一人の私が呟いた。。。 私が無抵抗になったのを確信すると、 男は私を抱きかかえるようにして、 再びワゴン車の車内へと押し込んだ。 ベンチシートの前席で、 私は横たわるような姿勢で、座席に投げ出された。 閉まった助手席側のドアに、背中をもたれるようにして、 脚を運転席側に投げ出すような姿勢にさせられる。 靴を脱がされ、その指先に男が口づけしてきた。 「・・・ひっ」 抵抗は無駄なのはわかっていても、 一日の終わりの汚れを纏った身体に、 舌を這わせられる感触に、 全身が総毛立った。 そのまま舌は、丁寧に足の汚れを舐め取るようにしながら、 少しずつ上に上がってくる。 自分の顎で、柔らかな夏物のスカート生地を押し上げながら、 舌がふくらはぎから膝へ、そして内腿へ・・・。 決して手を使おうとしなかった。 顔をスカートの中に潜り込ませるように進みながら、 舌が核心に迫ってくる。 淡い月明かりに見える、その光景が、 何故か私を激しく変化させた。 自ら脚を開き、 男の口を股間に迎え入れる。 舌が、下着のつけ根まで来ただけで、 一度目の絶頂が予感された。 気付かれないように、目を閉じ、歯を食いしばって、 その時を待つ・・・。 舌が布地越しに、その部分を捉えた瞬間。 私はピラーのアシストグリップを強く握り締め、 身体を痙攣させた。 「いっちゃったね。溢れてきてるよ。」 男の言葉が、羞恥心を燃え上がらせ、 私を暴走させる。 自ら下着のその部分を横にずらし、 男の顔を押さえ込んだ。 スカートが捲れ上り、 篭っていた、一日分のいやらしい匂いが車内に流れるのがわかる。 「気にするな、これがいいんだよ、きれいにしてあげる。。。」 男の言葉は、一々私を震え上がらせた。 すでに硬く腫れ上がり露出した核を、舌で執拗に弄り、 指をしとどに濡れそぼった「ソコ」に挿入し、 あの、官能的な動きで、私を蹂躙していく・・・。 幾度となく絶頂が訪れ、私は半ば、意識を失いかけていた。 ふと気付くと、男はステアリングの横から、 何かを外そうとしていた。 「ふふ・・・なんだかわかる?」 コラムのシフトノブだった。 純正ではなく、後付と思われるそれは、 クリスタルのような樹脂でできていて、 水中花のようなものが、その中に封じ込められている。 通常のノブより、 はるかに太く、そして長かった。 おそらくは捩じ込み式のそれをクルクルと外すと、 男は私を見て意地悪そうに笑った。 「これ、、、わかるよね。」 「これ、、、ほしい?」 ・・・欲しかった。 どう伝えればいいのか分からず、 戸惑う私を見透かすように、男は言う。 「じゃあ、言ってごらんよ」 「この太い棒を、私の○○○○に入れてください。。。ってさぁ。」 その言葉だけで、小さく私は果てた。 「い・・・いや、言えない。。。」 「じゃあ、入れてあげない。」 「・・・・・・。」 「言えよ。」 「・・・・・・。」 「言え!」 「私の・・・、・・・・に、、、入れてください・・・。」 「聞こえないよ!」 「ひっ、、」 「はっきりと、○○○○って、言えよ!」 「わ・た・し・の・・○・○・○・○・に、その太いのを、、、入れてくだ さ・・・ぃ。」 言い終わった瞬間、入口に、冷たく硬い感触が走ったかと思うと、 一気に貫かれた。 仰け反るような激しい絶頂感に貫かれ、 私は初めて、心の底からの叫びを上げ続けた。 そのあとは男の思うがままに、 いや、男の思うことが、私の望みであるかのように、 車内で二人、痴態の限りを尽くした。 汚れた男の股間に進んで顔を埋め、 その匂いに発情し、溢れた唾液を惜しげもなく塗りつけながら、 張りつめた男根を、喉の奥まで呑み込んだ。 全裸にさせられ、男のほうを向いて、 跨り、自分の中へ「ソレ」を導いた。 私のほうから腰を振り、 湿った、淫靡な音に身体を震わせ、 男の根元に流れ落ちるほどに、 自分の証しを放出し続けた。 親鳥から餌を求める雛のように口を開く男に、 今度は私の舌を深く挿入し、 男の唾液を吸い取るように、 音を立てて激しく求める。 男の迫る予感に、 自ら引き抜いて、手を沿え、舌を這いまわせながら、 己の顔に浴びるように、樹液の飛沫を受け取り、 塗りたくり、舐め取り、 その瞬間、男によってもう一度突き入れられたシフトノブで、 自らも恍惚の彼方へと、意識を飛ばしていった・・・。 その年の夏は、案の定、うんざりするほどの暑い日が続いた。 あの夜の出来事のあと、何度かの誘いを受けたけれど、 もう私は、その男と決して会うことはなかった。 そう、、、そう決めていたから、 私はあの夜、「牝」になれたのだから・・・。
2006/03/18 00:40:05(MbsdUGvX)
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