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1:国境
冬の夕刻。
頼りない夕陽は、たちまち西の空に没して、 茜色の空は、みるみる紫がかった闇に侵食されていく。 僕を乗せた新幹線「たにがわ」は、 そんな冷えた夕闇を、暴力的なビームライトで切り裂くように、 北へ向かって疾走していた。 その女は熊谷から乗車してきた。 車内は50%くらいの乗車率か? 各座席には一人ずつが座り、 空いているボックスは無いが、空席が目立つ状態だった。 僕は進行方向のデッキから一列目、 目の前が仕切りの3人掛け、その一番窓側に座っていた。 隣2席は空席の状態。 デッキのドアが開き、入ってきたその女は、 立ち止まり、車内を見渡した。 20代の後半か、30そこそこといった年頃。 肉付きのいいと思われる肢体を、品のいいコートが包んでいた。 遠くまで投げた視線を、一番手前まで戻してくる。 気になってその女を見ていた僕と、、、 目が合った。 なんの躊躇も無いように、女は僕の隣に滑り込んでくる。 3人掛けなのに、一席空けずに、僕の隣に座った。 大人びた、ランコムの香りが僕を擽る。 彼女は、僕のゴルチェを感じただろうか。 その場所だけ、官能的な香りが混ざり合い、 二人を包んで匂い立つ・・・。 列車は、無機質な連続音を低く響かせながら、 関東平野の北の果てに向かって突き進んでいく。 女はコートを脱がずに座っていた。 少しだけ膝が割れたとき、黒いストッキングに包まれた、 煽情的な太腿が垣間見えた。 女の、、、視線を感じる。 窓の外を凝視しているだけなのか。 すっかり日も落ちて、色を失い、 窓の外を後方に飛んでいく、冬枯れの景色。 前方から迫ってくる、真っ黒な影となった山なみ。 それを、僕越しに見ているのか、 それとも、僕そのものを見ているのか、 気になるのに、僕のほうから視線を向けて、 確認するのが躊躇われた。 なんとなく、、、 見てはいけない気がしたのだ。 だから・・・というわけでもなかったのだが、 僕は声を発した。 「席を換わりましょうか?」 突然の提案に、女は動じることなく、 軽く会釈をして腰を浮かす。 僕も立ち上がり、女と身体を入れ換える。 座席の前の狭いスペースで、 僕と女の脚が絡み合った。 そのとき、女が小さな吐息を漏らすのを、 僕は見逃さなかった。 間もなく列車は速度を落とし、 高崎のホームに滑り込む。 新潟へ直通しないこの列車、 しかも、スキー客もいない、中途半端な夕刻の時間、 車内はこの駅で、殆んど人のいない状態になってしまう。 「お邪魔なら、席を移りましょうか?」 女は眠ってしまったのか、目を閉じ、窓ガラスに頭をもたれて沈黙している。 発車ベルの電子音が響き、ドアが閉まる。 列車はゆっくりと加速を始め、 再び車窓は闇に包まれた。 僕は、一度座りなおすようにして、 少しだけ女のほうへ身を寄せてみた。 女が、動いた。 少しだけ眉を顰め、寝返りを打つように、 こちらに体重を預けてきた。 女の体温と、柔らかな感触が伝わってくる。 膝が割れ、コートの前が開く。 中の、タイトなミニが・・・捲れ上がっていた。 黒いストッキングは、太腿の途中で途切れ、 鮮やかな紅色のガーターが、それを吊っていた。 「いらっしゃい・・・」 「そこ」が「そう」誘っていた。 ゆっくりと、コートの上から手を這わせ、 やがて、コートの割目から、 誘いに導かれるように侵入していく・・・。 女がピクリと震えた。 ざらついたストッキングと、その先にむっちりと僕を待つ太腿、 その感触を楽しむように、ゆっくりと責め上がる。 女は時々脚を閉じるようにして、 もどかしい快感を反芻していく。 たぶん・・・その度に・・・、 女の奥から湧き出したものが、 下着に染み溢れていったに違いない。 指がそこに達した時、 もう、その生地はしとどに濡れて、 僕の指を滑らかにすべらせるほどだった。 列車が国境のトンネルに突っ込む。 「ダンッ」という衝撃とともに、 気密が保たれた車内でも、少しだけ耳がツンとする。 それを合図に・・・、 下着ごと押し込んだ。 女の身体が跳ねる。 一段と強まる匂い。 僕の手が、肉付きのいい太腿に挟まれて、動けなくなる。 その強い圧力を解除すべく、 僕の指は下着の縁を潜る。 女の口が開き、何かを飲み込むような音がした。 そのまま・・・かき混ぜる。 断続的な痙攣が女を襲う。 文豪が、この国境を書いた半世紀以上前、 人々は、薄暗い白熱球の車内灯の下で、 長い長いトンネル内の煤煙に耐えて、旅を続けたはずだ。 そして、今、 窓の外、時速250キロで後ろへと飛び去っていく、 トンネル内の連続灯に照らされて、 女の表情が、コマ落しのフィルムのように変化する。 大きく充血した核を、 じっくりと、弄り上げるように蹂躙する。 たまらず・・・、 女が僕の手を掴む。 押し込む。 指が、熱いトンネルに入るのと、 列車の車窓が、月明かりの銀世界に放り出されたのは、 ほぼ同時だった。 耐えに耐えた快楽が、一気に解放されたのか、 その瞬間、僕の指は激しい収縮に包まれ、 おびただしい何かを浴びせられた。 列車が減速する。 ナイターゲレンデの灯りが、暖かな光を山肌に投げかけている。 女は僕の手を抜き、 何も言わずに身支度を始めた。 誰よりも先に立ち上がり、 僕の前を通って通路に出ようとする。 僕は脚をひねり、女を通す。 その、すり抜けざまに、 女は僕に何かを渡した。 あっけにとられている僕を振り切るように、 女は通路に出る。 そして、ゲームの終わりを告げるように、 反対側のデッキに向かって遠ざかっていった。 僕の手の中には、折り畳まれた小さな紙が・・・。 そこには、女のメールアドレスと、 そして名前が・・・。 『駒子』
2005/12/30 11:36:08(ooKw6mLd)
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