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本文は、レス内で~す。
2009/10/13 23:52:20(BmARU8u5)
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削除済
2009/10/13 23:53:16(*****)
薄い壁の向こうから、かすかに聞こえてくるのは、ボイラーの音。
シホの部屋。 セミダブルのちょっと大きめのベッドの中。 「シャワー浴びてくる・・・。」 夕べお風呂に入ってないから、恥ずかしいんだって。 「だめっ!」 そのまま、一緒に入ろうとしたら、コトリに追い出された。 何か思うところがあるらしい。 昼になってコトリは、無事に退院し、オレとコトリは、取りあえずアパート に帰ることに。 「ごめんなさい。もう一度戻らないといけないの。」 シホが送ってくれたが、会計の仕事が、思いのほか忙しいらしくて、彼女 は、もう一度病院へ戻っていった。 「退院したばかりなんだから、あまり、無茶はしないでね。」 部屋を出ようとしたところで、コトリに心配そうな目を向けながら、シホが そっと耳打ち。 お前は、なぜ、オレの腹の中を読む? 無茶? するよ! だって、コトリがイイって言うんだも~ん♪ げへへっ・・・。ほんとに、できんのかな? コトリが出てくるまでの暇な時間を、レンの作ってくれたファイルを眺めて いた。 すげぇ資料だな・・・・。まったく、アイツのオタクぶりには舌を巻く ぜ・・・。 主要な団体名、所在地域、活動範囲、勢力図、構成人数、主だった幹部の実 名まで書いてある。 そして、A4の薄いペーパーには、阿宗会の重い歴史が、綿々と記されてい た。 阿宗会。 牛蒡型の注連縄に「阿」の代紋。 下部組織20団体、構成員約2300名。準構成員を合わせれば5000名 を超える、東北地方の一大勢力。 元は、テキ屋同士の相互扶助団体であり、東北3大祭りを主な生業とする香 具師集団だった。 「秋田神農連合会」という名称で立ち上がった組織は、日本高度成長期の昭 和41年、初代会長となった宗形光昭によって、「阿宗会」と名称が変更さ れる。 名称変更の理由はいくつかあったが、その最も大きな理由のひとつに、同じ く東北一帯で活動する「本間会」の勢力拡大があった。 秋田神農連合会の独占に近かった祭事神事分野に、本間会が進出を図り、活 動圏の縮小を危惧した宗形は、それまでの協同組合型連合から、家長制度に よる徒弟制へと組織を移行させることを決断する。 家長への忠誠による帰属意識を高めることにより、組織の強化を図ったわけ だ。 宗形のカリスマ的存在感と、元々、徒弟制が強く根付いていた組織形態は、 新体制への移行をスムーズに行わせたらしい。 同地域に本間会という強敵がいたことも手伝って、阿宗会は、瞬く間に結束 力を強め、まさしく一枚岩の巨大な組織へと変貌していった。 強力な指導者の下、宗形体制は20年以上の長きにわたり続いて、その間も 離合集散を繰り返したが、その勢力が衰えることはなかった。 昭和の終わりとともに、宗形は、その役目を果たし終えたかのように引退を 表明する。 現会長は4代目。 しかし、宗形が引退した直後から、阿宗会は、大きく変質していくことにな る。 宗形により跡目に指名された2代目が、襲名してすぐに本間会によって暗殺 されると、入れ札により3代目となった芽室優樹は、阿宗会を、武装路線の 武闘派集団へと体質を大きく変化させていく。 また、それまでのテキ屋を中心とした小売業主体の事業形態から、恐喝、賭 博、売春、人身売買、ヤミ金融など、ありとあらゆる非合法的経済活動にも 手を染めるようになり、まさしく暴力団としての顔を前面に押し出すように なった。 芽室が就任してから7年後、阿宗会の中でも生え抜きの経済ヤクザとして、 芽室からの信任が厚かった速見尚人は、その芽室の推薦によって4代目会長 の座に就くと、すぐに、辣腕ぶりを発揮して、さらに企業舎弟による合法的 経済活動の活発化を推し進めていく。 金融、土木関係、港湾関連の荷役作業は元より、特に公共事業への参入を画 策して、県政、市政への食い込みを図り、それは、まんまと成功する。 東北一帯とまではいかないまでも、日本海側の主要な県に影響力を及ぼすま でに至り、阿宗会の地位は、もはや盤石のものと成りつつあった。 しかし、火種がないわけでもなかった。 実は、4代目会長の指名には、入れ札を求める声が多かった。 元は、テキ屋の相互扶助団体として立ち上がった組織である。 江戸時代よりも古くから、神事祭事による生業を是としてきた集団には、今 の組織の体質を快く思わない者も多い。 初代宗形の影響力を求める声も根強く、入り札による決着では、宗形閥が有 利かと思われていた。 だが、3代目会長芽室は、その声を血の粛清により封じ込めた。 そして、後継者として自分の右腕である速見を、会長の座に据えることに成 功するのである。 阿宗会は、その当初の理念を離れて、まったく違う組織になった。 芽室、速見による恐怖支配は、確固たるものとなり、もはや揺るぎようがな い。 しかし、現体制に反骨する者がいないわけでもなかった。 如月和磨。 旧宗形閥の雄。 武闘派として名高い阿宗会にあって、さらに最強の組を作りあげた男。 Years Ago・・・ 青森市内。 品格を思わせるイルミネーションが、ひときわ目を惹く重厚な建造物。 青森シェラトンホテル。 地下の駐車場から、ロビーに向かうと、約束通り男は待っていた。 全身黒のスーツに、胸には赤いネッカチーフ。 長身痩躯の優男。 甘いマスクに光る銀縁眼鏡。 今日で、この男に会うのは3回目。 男が気づいて、すぐに立ち上がる。 こちらを振り向くなり、鋭い視線で睨みつけてきた。 けっ!相変わらず虫の好かねえ野郎だ・・・。 トリヤマは、胸の中で毒づいた。 腰まで高さのあるトランクケースを後ろに引いている。 中には、注文のブツ。 「先生様は、上かい?」 男は、じろりと睨んだだけで、答えようともしない。 すぐに、踵を返すと、ついてこいと言わんばかりに、エレベーターへと向か って歩いていく。 時間は、深夜になるところ。 すでにロビーの大半の灯りは落とされ、わずかにフロント近くの灯りがつい ているだけでしかない。 人目は少ないが、フロントには、ふたりのスタッフがまだ残っている。 ときおり、ひとりが、こちらにチラチラと目を向けていた。 こんなところで、トランクのやりとりをするわけにはいかない。 渋々、トリヤマも後について行った。 「さっさと渡してもらおうか。」 エレベーターに乗り込むなり、すぐに男が口を開いた。 銀縁眼鏡の奥から放たれる冷たい眼差し。 瞳に中に浮かぶのは、軽蔑の色。 やっぱり、コイツは気にいらねぇ・・・。 とっさにケツからナイフを取り出すと、トリヤマは、飛び出させた刃先を男 の喉元に突きつけた。 「あんまり、エラそうにすんなよ。 てめぇなんざ、ただの木っ葉に過ぎねえんだ。 先生様ってわけじゃねえんだから、口の利き方には気をつけろ!」 精一杯脅したつもりだが、男は顔色ひとつも変えはしない。 「けっ!」 しばらく無言のままに睨みあったが、冷たい眼の迫力に気押されたのは、結 局トリヤマの方だった。 「ほらっ!」 乱暴にトランクの取っ手を相手に渡して、自分は適当な階のボタンを押す。 最上階の12階に辿り着くと、男は、何も言わずトランクを引いて、出て行 った。 「先生様に、よろしく言ってくんな!」 捨てゼリフを男の背中に向かって吐き捨てた。 深夜のホテルは、死んだように静まりかえっている。 そんなことを大声で叫べば、自分たちの命取りになりかねない。 だが、言わずにはおれなかった。 エレベーターが下がり始めて、すぐに停まる。 トリヤマは、エレベーターを出て、非常階段に向かうと、その足で地下の駐 車場へと降りていった。 指定された部屋は1203号室。 あの男によって、ブツはそこに運び込まれる。 そして、先生様の手に渡る。 だが、トリヤマは知らなかった。 その部屋に辿り着く前に、あの男がトランクを開けていたことを・・・。 男は、静かにトランクを引いていった。 1203号室の前で立ち止まる。 スーツの裾のポケットからキーを取り出した。 だが、1203号室のものではない。 1203号室には、すでに住人が待っている。 ドアをノックすれば、それですむ。 キーを使う必要はない。 真向かいのドアに、そのキーを差し込んだ。 部屋に入ってすぐに、トランクを開けた。 「ツグミ!!」 叱るような声。 男はトランクの中身を睨みつけた。 トランクの中で、小さく丸まった可愛らしい少女が、男を見上げて、悪戯っ ぽい目を向けていた。 「うまくいったかトリ?」 「へえ・・・まあ・・・。」 車に戻るなり、トリヤマは不機嫌そうな声を出す。 「何かあったのか?」 「いや、別にたいしたことじゃねえんですが・・・あの、秘書の野郎 が・・。」 「ああ、アイツか・・・。」 和磨は、男の顔を思い浮かべて笑った。 「どうにも、気にいらねえ野郎でして、たかが秘書のくせしやがっ て・・・。」 「アイツは、秘書じゃねえよ。」 「えっ!?違うんですかい?」 「ああ、アイツは、ただの県の役人だ。」 「県の役人?それが、またどうして?・・・。」 「アイツは、キレ者だからな。あの先生が目を付けたんだろう・・・。 こういった汚れ仕事もこなせる。 ゆくゆくは、あの先生の後押しで、政治家にでもなるんじゃねえか。」 「オジキ、あいつを知ってるんですかい?」 「ああ、よく知ってるよ。」 「だったら、あいつも仲間に引き込んで、いっそ他の先生方も取り込んじま えば・・。」 気にいらねえが、そんだけの切れモンなら使えそうだ。 「無理だな。」 「どうしてですかい?」 「アイツは、汚れ仕事は出来るが、外道にはなれねえ。正義感が強いんだ よ。」 そうだ・・・アイツは、昔からそういう奴だった・・・。 「そうですかい・・・。 じゃあ、仲間にならねえんなら、いっそのこと痛めつけてやりますか い。」 「やめとけ・・・。お前じゃ、アイツにかなわねえよ。」 「オジキが言うほど、強え野郎なんですか?」 「ああ、俺とタメ張れんのは、アイツぐらいだ。」 「そんなに強いんですか!?」 「まあな。アイツに棒っ切れ持たせたら、まず、かなう奴はいない。 俺でもアブねえかもな・・・。」 「はあ・・・・。」 道理で、肝っ玉がすわってるはずだぜ。 そんなに強えんなら、さっきヤバかったのは俺の方じゃねえか。 「ところで、ツグミの方は大丈夫か?」 「へぇ、今日は、入札価格の下限と、今んところの参入希望社を聞いてくる ように言い含めてあります。」 「そうか・・・。」 まったくバカなブタ野郎だ。 ツグミがガキだと思って、何でもペラペラ喋りやがる。 もっとも、ツグミは見た目だけなら、ただのガキにしか見えないからな。 おかげで、こっちもうまい汁が吸えるってもんだ。 あの子の記憶力を知ったら、あのブタ野郎、どんな顔をする事やら。 「しかし、オジキ・・・今回は、さすがにヤバくないですか?」 「なにがだ?」 「何が・・・って・・・。 いや、この話はうちのオヤジにも通ってないですし、 それにあの先生は、本間会の・・・・。」 オジキが、組の再興を狙って、焦ってるのはわかる。 だが、うちのオヤジがこれを知ったら、横槍を入れてくるのは目に見えてい る。 それに、あの先生は、本間会のヒモ付きだ。 事がうまく運んだとしても、それを知った本間会が黙っているたあ思えな い。 「なんで俺が、あのクソ野郎にわざわざエサを運んでやらなきゃならん。 それに本間会にしたところで、たとえこのカラクリがわかったとしても、 ウチには簡単に手を出せん。」 確かにオジキのところは、命知らずの猛者が集まったおっかねえ組だ。 それは本間会も知っている。 オジキに惚れ込んで集まってきた奴らは、オジキのためなら簡単に命だって 張る。 怖えのは、こういった自分のためじゃなく、人のために死んじまおうとする 奴らだ。 オジキのところは、そんなのばっかりが集まりやがる。 でも、そりゃ、オジキの男気に惚れてるからだ。 もしオジキが裏で、こんな腐れ外道な商売に手を染めてるなんて知れた日に ゃ、あいつ等だって、どう動くもんだか。 だからこそ、オジキは俺なんぞに声を掛けたんだろうに・・・。 「心配すんなトリ・・・。」 心配すんなって、言われたって・・・。 「俺は必ずやり遂げる。 そして、あのクソ野郎をぶっ殺して昔の組を取り戻す。 そんときゃトリ・・・お前は、うちの若衆頭だ・・・。」 「へへっ・・・オジキが組長で、俺が若衆頭ですか・・・。 へへっ、そりゃ面白そうだ。今のうちに杯、返しちまいますかい?」 「おお、やれやれ。」 ははっ・・・そんなこたあ、出来るわけがねえ・・・。 でも、このオジキに期待しちまうのは、なぜなんだ? あの頃は、良かった・・・。 今みたいに世知辛くなくて、みんな何にもねえのに、バカみてえに笑って た。 この人だって、こんな腐れ外道じゃなかった。 義理人情に厚くて、まさしく任侠の漢だった。 みんながこの人を慕ってた。 先代のオヤジだって、このオジキに期待してたんだ。 必ず組を守ってくれるって・・・。 それが・・・。 みんな、あの日から・・・変わっちまった・・・。 3代目芽室による、血の粛清が始まったのは、突然のことだった。 まず、阿宗会20団体の主だった組長が、一堂に集められた。 目的は、次期後継者選び。 誰もが、入り札による投票によって4代目は選ばれるのだと思っていた。 だが、芽室は突如として、速見の4代目襲名をその場で発表する。 これには、宗形閥の組長たちも、さすがに驚いた。 突然の暴挙としか言いようがない。 当然のごとく、宗形閥の組長たちは猛反発して、喧々囂々(けんけんごうご う)の言い争いとなった。 宗形閥の急先鋒は、青森市内で古くからテキ屋をまとめていた老舗の香具師 集団「円組」の組長、織笠実である。 織笠は、まだ四十にもならない若き組長であったが、その人徳には定評があ り、厚い人望によって、宗形閥が推す次期4代目候補でもあった。 織笠は若いだけに、4代目ともなれば、長期政権になるのは、まず間違いな い。 芽室は、なんとしても、それだけは避けたかった。 まだ引退するつもりもなかったが、長年患っていた糖尿により、もはや、体 は言うことをきかなかった。 ならば、まだ影響力のあるうちに自分の手で後継者を決めておきたい。 それが、芽室の腹の内だった。 シナリオは、最初から用意してあった。 もちろん、その為の準備も抜かりなくしてあった。 あとは、その時を、待つばかりだった。 結局、話し合いは物別れに終わり、業を煮やした織笠は、もはやこれまで と、阿宗会からの脱会を、その場で宣言する。 織笠は、立ち上がり、仁王立ちになって、かつての盟友、そして、これから は骨肉の争いをするであろう敵手、芽室を見下ろした。 「命運を分かち合うのも、もはやここまで! 我は天に背かず! 我を信じ、我に従い付いてくる者たちと共に、我が道を行く!」 威風堂々たるしたものだった。 阿宗会の中でも一番若い組長であったろうに、数いる組長を押しのけて、そ の場で、もっとも威厳を保っていたのは、紛れもなくこの織笠だった。 宗形閥の組長たちは、この若き領袖の勇ましい姿に、明るい未来像を期待し たかも知れない。 誰もが、次に起こる事態など、予想もしていなかった。 織笠が、脱会宣言するのを待ち構えていたかのように、突如、凶刃が織笠を 襲う。 黒い影が、背後から猛然と織笠に突進し、織笠の身体がぐらりと揺れた。 あまりにも突発的な一瞬の出来事に、皆、何事が起こったのかわからなかっ た。 織笠の目が見開かれ、口元から断末魔のうめき声が洩れた。 口の端から、だらりと血が溢れだし、織笠は何かを掴むように、腕を宙に突 き出すと、そのまま力尽きたように倒れた。 織笠のいなくなった空間に立っていた男。 血まみれのドスを握りしめ、ハアハア、と肩で息を継いでいた。 その男の顔をはっきりと確かめて、皆、息を呑んだ。 なんと、織笠を背後から刺し貫いた刃を握っていたのは、それまで織笠の後 ろで、じっと事の成り行きを見守っていた円組の若衆頭、黒滝英次だったの である。 「あ、阿宗会に・・・弓引く者は・・す、すべて敵だ・・。」 黒滝の声は震えていた。 声だけではなく、血塗れのドスを握る手も、畳を踏ん張っている両足も、身 体のすべてを震わせながら、黒滝は呆然とした顔でその場に立ち竦んでい た。 「おどりゃあ!!!」 たちまち黒滝の体に、若衆たちが群がった。 皆、手にはドスを握りしめていた。 衆人環視の中で、親殺しの大罪を犯したのである。 どんな、言い逃れもしようがなかった。 若衆が離れると、黒滝の体には、まるでドスが生えたように、何本も突き刺 さっていた。 黒滝は、その場で絶命した。 宗形閥の組長たちは、その光景に恐れおののいた。 それが最初から仕組まれた茶番であることなど、百も承知していた。 会場に入る前に厳密なボディチェックがされていた。 だから、この場に刃物を持ち込めるわけがない。 にも関わらず、黒滝のドスは、ボディチェックをすり抜けた。 若衆たちは、当たり前のように、懐からドスを取り出した。 誰かが、彼らにドスを与えたのだ。 それは、言わずとも知れていた。 明日は、我が身・・・。 その場にいた組長たちの脳裏にあったのは、その言葉だけだったろう。 誰もが声を失っていた。 芽室は、勢いに乗って、次の手に打って出た。 「織笠組長には、大変気の毒なことをした。 しかし!この円組の若衆頭が義憤に立ち上がったのも無理のない話であ る。 阿宗会は、平和共存のうちに、ここまでの繁栄を培ってきた。 しかるに!個人的怨嗟によって組を割って出るなど言語道断である。 織笠組長は、阿宗会からの脱会を宣言した! これは、阿宗会に仇なす行為に等しい。 だが!この命をかけた勇気ある若者の意を汲み取って、 黒札による破門だけは許してやりたいと思う。 今後の円組の処遇は、この速見に一任したいと思うが、 皆の衆に反対の者はあるか?」 白々しい詭弁でしかなかった。 円組に対する懲罰の決定権を速見に与える。 それは、すなわち4代目を承認したことになる。 しかし、血の海の中で事切れた織笠と、そこに折り重なるように倒れる黒滝 の死体を目の前にして、誰に何が言えただろう。 ふたりが、呆気なく殺されたのは、紛れもない事実だった。 この場において芽室に対し、異を唱えることは、自分の将来が目の前の光景 と、まったく同じになることを物語っていた。 皆、声を殺していた。 怒りに拳を握りしめながらも、俯かせた顔を上げた者は、ひとりもいなかっ た。 ここに、仁義は死んだのだ。 こうして、芽室は最大の難局を乗り切った。 芽室に反発する者は、まだ確かにいただろう。 しかし、その声を封じ込めることには、成功したのである。 円組に対する速見の行動は、実に素早かった。 その日のうちに、速見は、芽室が作りあげた血の軍団を円組のシマに送り込 むと、たちまちの内に、円組の主だった組を制圧していった。 ただ、ひとつだけ計算外だったのは、如月組を甘く見ていたことである。 和磨の若衆たちは、血の軍団と呼ばれる芽室の殺人集団に臆することなく戦 った。 一騎当千の戦いぶりで、ことごとく押し寄せる敵を撃破していき、最後まで 如月組を守り抜いた。 あの如月和磨が、その場にいなかった、にも関わらずである。 その頃、和磨は義理掛け事で、関西に出向いていた。 突然の凶報に、慌てて戻ったときには、和磨の組を除いた、他の組のほとん どが、速見の手に落ちていた。 もし和磨が、このとき地元に残っていれば、もう少しマシな結果になってい たのかも知れない。 類い希な戦闘力を持った男だった。 そして、絶大な信頼と求心力もあった。 だから、和磨がその場に居さえすれば、これほど、無惨な敗北には終わらな かったに違いない。 だが、すべてが、後の祭りだった。 わずか二日間で円組はバラバラに解体された。 主だった幹部連中は破門か除籍され、恭順の意を示した者だけが、円組に残 ることを許された。 そして、残った組長には、織笠の杯を返すよう命じ、新たな杯を受けるよう 指示が出た。 速見の辛辣さを極めたのは、ここからだった。 新しい親子杯を交わす相手。 それは、あろう事か、織笠を殺した黒滝の率いる倖田組の若頭、三隅だった のである。 織笠が親子杯を交杯した直系組長は、全部で12名。 当然、円組の若衆頭だった黒滝は直系組長だが、その倖田組の若頭でしかな かった三隅に、織笠との親子関係はない。 その三隅と残った直系若衆である各組長たちが、親子杯を交わさなければな らないである。 つまり、親分格であった者達が、乾分から交杯されるのだ。 そんな馬鹿な杯事は聞いたことがない。 しかし、速見はあえて、その杯事を強行した。 完膚無きまでに円組の幹部たちに打撃を与え、円組を根こそぎ骨抜きにして しまう腹づもりだったのである。 黒滝を影で操っていたのは三隅に違いなかった。 無論、その背後に芽室と速見がいたのは、間違いないだろう。 奴らがどんな手を使って黒滝をハメたのか、わからない。 だが、今さらそれがわかったところでどうしようもなかった。 三隅は、速見との親子杯を交わし、本家の直系若衆となって、一挙に円組の 頂点に立ってしまった。 もはや織笠はいなかった。 頼みの綱の若衆頭は、親殺しの大罪で殺され、絶縁された。 従うしかなかった。 生き延びるためには、かつての乾分を組長として崇めなければならなかっ た。 だが、その中にあって、ただひとりだけ、頑なに自分の道を貫く男がいた。 それが、如月和磨だった。 和磨は、破門を覚悟していたが、なぜか三隅は和磨を破門にしなかった。 代わりに、三隅の杯を受けるように再三迫った。 和磨は、殺された黒滝と兄弟分だった。 下足番から始まって、共に苦労をし、泣き笑いながら、一緒にここまで上り 詰めた仲だった。 ましてや、和磨の恋女房、美羽は、黒滝の妹だったのである。 和磨と黒滝は、そういった意味でも、まさしく義兄弟だった。 その兄弟を三隅は無惨に殺した。 証拠はない。 だが、和磨には確信できる。 そんな男の杯など受けるはずがない。 和磨は、ひとり気を吐いた。 織笠の杯は返してない。 たとえ故人となっても、新たな親子杯を受けない限り、和磨は織笠の子であ った。 それはつまり、和磨には、まだ円組を再興し、自分が親分となる権利がある ことを物語っている。 たったひとりになっても、やるつもりだった。 それが、義兄弟である黒滝への弔いだと信じていた。 「トリ・・・車を出せ・・・。」 「へい。」 ベンツAMGの重厚なノイズが駐車場に響き渡る。 真っ黒な車体が、滑るように静かに動き出した。 あとは、ツグミがうまくやってくれる。 それにアイツもいることだから、心配する必要もねえだろう・・・。 まったく皮肉な話しだ。 アイツと、こんな形で会うことになろうとはな・・・。 だが、これも運命だな。 今頃、ツグミに説教でもしてんのか? ツグミから聞いたよ。 俺から逃げるように、吹き込んでるらしいじゃねえか。 だが、無駄なことだ。 ツグミは、俺から離れねえ。 離れられねえ身体にしてやった。 オメエは女がわかっちゃいねえよ。 あいつ等は、男を破滅させるためだけに生まれてくる。 だから、容赦なんかする必要はねえ。 徹底的に痛めつけて、君臨してやれば、それでいいんだ。 愛だの恋だの、そんな戯言を信じてるうちは、オメエにツグミは動かせねえ よ。 もっと女を勉強しろ。 なあ、重丸・・・。 同時刻。 青森シェラトンホテル。 1212号室。 「ツグミ!!どうしてお前にはわからないんだ!?」 「どいて・・・。」 まったく取りつく島もなかった。 「こんなことをしたところで、何も変わらないんだぞ!」 「あなたには、関係ないわ・・・。」 幾つにもカールされた、長い巻き髪。 まるでフランス人形のような青い瞳。 「どうして、もっと自分を大事にしないんだ!?」 ゴシック調の短いドレス。 足にはリボンの付いたニーソックス。 「大事に?・・・大事にしてるつもりよ。あの人が可愛がってくれるも の。」 「お前は、間違ってる!」 小柄な身体だった。 「間違っててもいいわ。あの人のそばにいられるなら・・・。」 ツグミは、冷たい眼だけを残して、そのまま部屋を出て行こうとする。 「待て、もう少し話を聞いてくれ。」 「離して。大声で叫ぶわよ。騒ぎになると、あなたの先生が困るんじゃな い?」 ツグミの耳には、何も届かない。 ドアノブに手をかけた。 「あの子は・・・あの子は、どうするんだ?・・・。」 わずかにツグミの動きが止まる。 だが、彼女は振り返らなかった。 すぐにドアを開けると、そのまま部屋を出て行った。 向かいの部屋をノックする音が聞こえてくる。 「おお!!やっと来たか!」 感嘆の声。 バタンとドアの閉まる音がして、あとは何も聞こえなくなった。 いったい、どうすりゃいいんだ?・・・。 ベッドに座り込んで、頭を抱えた。 まさかこんな形で、また、あの子に会うことになろうとは、夢にも思っても いなかった。 なんてこった・・・。 シコリのような徒労感だけが、ずっしりと重く身体にのしかかる。 和磨・・・このバカ野郎・・・・。 かつての友の名を、重丸は胸の裡で罵った・・・。 和磨は、バックミラーに映る景色を見つめていた。 シェラトンホテルが、小さな窓の中で、どんどん遠ざかっていく。 明日の朝までは、あの先生がべったりだ。 朝になったら、ツグミを迎えに行きゃあいい。 うまいこと狂ってくれたぜ。 見事なくらい、狂ってくれた。 あの女は、男を狂わせる。 まったく、母親にそっくりだな・・・。 和磨は、ぼんやりとバックミラーに映る影を見つめつづけた。 闇夜の空を背景に浮かぶ巨大な影は、すぐに、あのマンションを思い起こさ せた。 あのマンションも、こんな風に夜空に向かって、誇らしげにそびえ立ってい た。 (あの野郎は誰でもねえ、オメエを恐れたんだよ・・・。) 耳朶に蘇る呪いの言霊。 和磨は、バックミラーを覗きながら、口惜しげにギリッと奥歯を噛み締め た・・・。 あの兄妹に出会ったときのことは、今でもはっきりと覚えている。 まだ織笠のオヤジが、自分の組を立ち上げたばかりの頃だった。 俺は、組に入ったばかりで下足番。 オヤジのお供で、本町界隈をブラッとしてたときのことだ。 怒号に振り返ると、あの野郎、血塗れになって、いきなり角から飛び出して 来やがった。 ほんとに、腕っ節だけは、からっきしだったな。 相手は、本間会のチンピラども。 アイツだけだったら、オヤジも俺も、そのまま、素通りしたかも知れねぇ。 オヤジもまだ組を立ち上げたばかりで、本間会への挨拶回りも済んじゃいな かった。 敵同士なのに、挨拶回りってのも変だよな。 だが、オヤジは、そんなことでもキチッとする人だった。 だから、みんなに慕われたんだろうが・・・。 見過ごせねぇ理由があった。 アイツの足に必至にしがみついていた女の子。 小汚ねぇ服来て、顔もすすけていやがったっけ。 美羽さえ見つけなきゃ、俺もオヤジも、あの兄妹に関わることはなかったの かもしれねえ。 突き飛ばされて、すっ転ばされ、美羽は大声で泣いていた。 そんなのを見て、あのオヤジが黙ってられるはずがねぇ。 俺だって、そうだ。 オヤジが顎をしゃくったときには、野に放たれた猟犬みてえに猛然と突っ込 んでたわ。 ガキの頃から、泣きながら親父に鍛えられたおかげで、腕っ節にだけは自信 があった。 ずっと連んでたツレが、強かったってのも、俺が強くなった理由だがな。 あのバカとは、結局引き分けのままだ。 すぐに棒っ切れ振り回しやがるんだから、汚ねえ野郎だよ。 勝負は、5分とかかりゃしなかった。 ひとりは、死んだんじゃねえかってくらい、豪快に吹っ飛んだ。 オヤジから、しばらくケンカを御法度にされてただけに、あの時はスカッと したぜ。 英次は、立てねえくらいフラフラになっていた。 だが、どう見てもケガはたいしたことはねえ。 「メシを食ってねえのか?」 オヤジもよしゃあいいのに、すぐに仏心を出しやがった。 あの時、ふたりをそのまま放っておきゃあ、オヤジも死ぬことはなかった。 俺だって、ここまで落ちぶれることは、なかった・・・。 いきなり三隅が、組の事務所に現れたときには、さすがの和磨も驚いた。 三隅は、このとき45才。 和磨たちよりも、はるかに年長者の渡世人だった。 「もういい加減、杯を受ける気になったかい?」 後ろに、ふたりの手下を引き連れていた。 芽室にふたりを殺されて、まだ10日も経っていなかった。 「テメエ、殺されにきたのか?・・・」 この時期に、敵中に乗り込んでくるなど、正気の沙汰じゃない。 和磨の組には、この男を殺したがっている血に飢えた野良犬どもが、溢れて いるのだ。 だが三隅には、まったくと言っていいほど、恐れがなかった。 恐れどころか、どこか勝ち誇ったような薄ら笑いさえ浮かべていた。 「まあ、そういきり立つなよ。 何もケンカをしに来たわけじゃねえんだ。 そろそろ、オメエにもこの茶番劇のカラクリを教えてやろうかと思って よ。」 「なに?・・・」 「俺も、もう、うんざりなんだよ。 テメエなんざ、さっさと破門にしちまえばいいのに、 本家がどうしても首を縦に振らねえんだ。 どういうつもりなんだろうねえ。 それでだ・・・ こっちとしてもテメエみてえな狂犬が、 いつまでものさばってるのは目障りだからよ、 さっさと引導でも渡してやろうかって気になったのさ。」 「テメエ、なに吹いてやがる・・・。」 「まあ、興味があるなら、今夜8時に黒滝の野郎のマンションに来い。 そこで、洗いざらいテメエに教えてやる。」 かつての親分の名を呼び捨てだ。 それも和磨の義兄弟をだ。 こんな外道は、殺しちまってもいい。 怒りに、我を忘れて和磨は、襲いかかりそうになっていた。 「ああ、そうだ・・・女房は元気かよ?」 「なんだと?・・」 不意に美羽のことを口に出されて、和磨の動きが止まった。 「へへっ・・・俺がよろしく言ってたって、女房に伝えといてくれや。」 そう言った三隅は、不敵な笑いを残して、事務所を出て行った。 あの女は、魔物だ・・・。 英次だって、あの女の本性に気づいていたかどうか・・・。 織笠のオヤジが英次を拾った頃、美羽は、まだ11才の胸もほとんどねえガ キだった。 小汚ねえカッコをした、すすけた顔の下に、あれほど可愛い顔が隠れていた と知ったときには、さすがの俺も驚いたぜ。 野に咲く一輪の花じゃねえが、手折ることさえ躊躇うほどに、あどけない顔 をした娘だった。 そのくせ、驚くほどの長い睫毛の向こうから、でかい目ん玉で、じっと見つ められたりすると、ガキとは思えねえ、妙な色っぽさがあった。 英次とコンビを組むようになってからは、しょっちゅう、アイツらのアパー トへ転がり込んだ。 無論、英次と連んでたから、ってのが大きな理由だったが、美羽に会いたか ったってのも嘘じゃねえ。 美羽は甘えて、よく俺の膝の上に乗ってきた。 柔らけえ身体を押しつけて、あの舌っ足らずな可愛い声で、いろんなモノを ねだりやがった。 だが、アイツが一番欲しがったのは、飾りでも食い物でもねえ。 俺だった。 あんな胸もほとんどねえ、小僧みてえな身体したガキが、男を欲しがったん だ。 「美羽のこと、嫌い?」 英次が、ちょいと買い物に出た、わずかな時間だった。 美羽は、そう言って俺にすり寄ってきた。 ひどく、可愛らしい声だった。 身体はガキだったが、俺を誘う表情は、紛れもなく女だった。 アイツは、俺のモノを当たり前みてえに掴み出して、口にした。 そして、俺を跨いで、しがみつくと、テメエからケツを落としていったん だ。 呆気なく、アイツの中に呑み込まれた。 あの歳で、すでに男を知っていたことに、さすが驚きもしたが、今どきのガ キなら、さほど珍しいことでもねえ。 世の中には、色んなことがありやがる。 そんな些末なことをグジグジ言うほど、俺も野暮じゃなかった。 アイツに取り憑かれんのに、そんなに時間は掛からなかった。 英次の目を盗んじゃ、狂ったように美羽を抱きつづけた。 さすがに英次にゃ言えなかった。 あんなションベン臭い娘を、ましてや、アイツの妹だ。 しばらくは、英次の顔をまともに見ることも出来なかったっけ。 従順な女だった。 ガキのくせに、たまらねえ声で泣きやがった。 でもな、英次・・・。 オメエは、知ってたんだろう? 俺が美羽に何をしてたのか? 知らねえ訳は、ねえよな・・・。 星は、なかった。 どんよりとした雲だけが、見渡す限り空一面に広がっていた。 闇夜に向かって、往々しくそびえ立つ四角いビルは、まるで英次を弔う、大 きな墓石のようにも見えた。 そんな風に思えたのは、もう、英次がこの世にいなかったからかも知れな い。 さびしい場所だった。 郊外にあるニュータウン。 まだ、インフラも完全に終わってない、この新しい高層住宅街のマンション に、英次は独りで住んでいた。 「伴侶をめとって、男は、初めて一人前だ。」 責任を持て、ってことだったんだろう。 織笠のオヤジは、いつまでも独りモンの英次に向かって、事ある毎に、そん なことばかり言ってたっけ。 「美羽さえ、幸せになればいいのさ・・・。」 アイツの答えは、いつもそれだった。 「和磨・・・美羽を頼んだぞ・・・。」 そう言った英次の顔は、決まっていつも寂しそうだった。 和磨が、美羽を女房にしたのは、美羽が17のとき。 以来、子宝にも恵まれて、仲睦まじく暮らしている。 英次・・・・美羽のことは心配すんな・・・・。 和磨は、ひとり佇んで、かつて義兄弟が暮らしていたマンションを見上げて いた。 もう、ここに住んでいた男は、この世にいない・・・。 若い衆は反対した。 だが、和磨は、ひとりでやってきた。 なぜか命の危険を感じなかった。 むしろ、それ以外の何か得体の知れない嫌な予感に、胸がざわついてならな かった。 時間は、もうすぐ8時になるところ。 恐れはなかった。 和磨は、咥えていたタバコを指で弾いて投げ捨てると、待ち構えているかの ように、ポッカリと口を開けたマンションの入り口に向かって、歩き始め た。
09/10/13 23:56
(BmARU8u5)
俺たちゃ、最高のコンビだった。 「如月の百倍返し」とあだ名されるほど、徹底的に相手を叩き潰そうとする 俺を宥めて、抑えんのが英次の役目。 思慮深く、イライラするくらい慎重で、いつまでも動こうとしねえ、英次の ケツを引っぱたくのが俺の仕事だった。 まったく、俺たちゃいいコンビだったぜ。 「何かあったら、俺がカチ込んでやる。 だから、テメエは安心して銭稼げ。」 経済ヤクザじゃねえが、大学まで入ったことのある英次は、組のシノギをう まく回すことで、利ザヤを稼ぎ、組に莫大な利益をもたらしたことによっ て、金バッチになった。 何か揉め事が起こる度に、出張って、時には力でねじ伏せながら、ケツから 英次をバックアップしつづけた俺も、同じ頃にオヤジから直杯を受けた。 組じゃ、一番若い舎弟だった。 それを、面白く思わなかった奴もいただろう。 あの三隅の野郎が、そうだ。 俺は、舎弟になって、すぐに自分の組を起こしたが、英次はそうじゃなかっ た。 「倖田組ぃ!?」 「ああ、そこの代紋を継げとさ。」 倖田組の組長は、円組の中でも最長老の組長だった。 近々引退するって、話しは、俺たちの耳にも届いていた。 本来なら、よほどのことがねえ限り、組の代替わりは、直近のナンバー2で ある若頭に継承される。 そして、織笠のオヤジから杯を卸してもらって、直系の若衆になる。 世襲でもねえ限り、それが俺たちの渡世のしきたりだ。 倖田組の若頭は、長年、渡世人として組を仕切ってきた三隅。 だから、本当なら三隅が代を受け継ぐはずだった。 だが、織笠のオヤジは、敢えて、そうはしなかった。 その頃から、芽室たちとの確執が表面化し始めていた。 何かと、うちのシマに粉をかけて来やがっているのも承知していた。 オヤジは、三隅に不穏な動きがあるのを、いち早く察知してたんだろう。 それで、子飼いの中でも穏健派であり、最も信用できる英次に、白羽の矢を 立てたわけだ。 「大丈夫かよ?」 「ああ、自信はねえが、まあ・・・オヤジもあそこまで言ってくださるん だ。 やるだけ、やってみるわ・・・。」 まったく、あの野郎はいつもそうだった。 ちったあ、景気のイイことでも言えばいいのに、いつも自信なさげに喋りや がる。 おかげで、こっちは毎度ヒヤヒヤさせられたぜ。 それでも、何とかしちまうのが英次のすげえところだった。 だからこそ、織笠のオヤジも英次を頼ったに違いねえ。 そして、オヤジの目は間違っちゃいなかった。 英次は、立派に倖田組を引き継いで、名実ともに円組の中でもナンバー2の 組織に押し上げた。 あんな若けえ身空で、たいした奴だ。 だが、その若さを妬んだ野郎がいる。 そして、その野郎が・・・・英次をハメやがったんだ・・・。 まだ時間は、8時を少し過ぎたばかりだった。 どこかで見ているのかも知れねえ。 和磨は、辺りを注意深く探りながら、寂しい廊下を歩いていた。 かなり、でかいマンションだった。 そのくせ、人の住んでる気配は、ほとんどなかった。 隣のビルを見ても、灯りのついている窓は、少ししかない。 バブルが吹っ飛んで、いきなり景気が冷え込んだ。 構想時には、予約が期待できたマンションも、この景気の冷え込みには勝て なかったらしい。 懐かしいドアを前にして、和磨は立ち止まった。 英次が死んでから、ここにやってくるのは2度目。 美羽とふたりで、英次の遺品を整理して以来、ここにやってきたことはな い。 二度と来ることはないと思っていた。 この部屋を手放すつもりはなかった。 英次は、ここに眠っているだけだ。 和磨は、そう思い込みたかった。 ドアノブに手をかけると、すぐにドアは開いた。 なんで、あの野郎が鍵を持ってやがる・・・。 倖田組には、まだ英次の遺品が残されていた。 そこで、手に入れたのかも知れない。 深くは、考えなかった。 中に入ると、灯りはついていなかった。 ゆっくりと、歩を進めた。 リビングに入ったところで、不意に灯りがついた。 「よう、遅かったじゃねえか・・・。」 こちらを向いて応接用のソファに、三隅が座っていた。 後ろに、ふたりの男が立っている。 情けねえ野郎だ。用心棒なしじゃ、何も出来ねえかい? 後ろに立つ、ふたりの男のうち、ひとりのスーツの胸が不自然に膨らんでい るのに気がついた。 はっ!こんな狭いところじゃ、ハジキは役に立たねえよ。 狭い家屋内の接近戦では、鍛え上げた拳にかなう武器がないことを、和磨は 知っていた。 「ひとりか?」 三隅が訊ねた。 「ふっ・・テメエとは、違う・・・。」 落ち着き払った声だった。 「まったく、小憎らしい野郎だな。 黒滝と言い、テメエと言い、まったく目障りでしょうがねえ。 だが、黒滝の野郎は無様にくたばった。 ざまあみろってもんだ。 バカが、こっちの狙い通りに踊ってくれたよ。 テメエも、すぐにでも、ここであの世に送ってやってもいいんだが、 それじゃあ、死んでも死にきれめえ。 せめてもの情けだ。 どうして、あのバカが死ぬことになったのか、今から教えてやるよ。」 和磨は、挑発に乗らなかった。 三隅の後ろに立つふたりに、目を向けていた。 どちらから、先に倒すか。 それだけを、考えていた。 「なあ、如月・・・黒滝の野郎は、なんであんなバカなマネをしたんだと思 う?」 「知るか。」 目は、後ろのふたりに向けたままだった。 英次が凶行に及んだ理由は、いまだに謎のままだ。 倖田組の残った組員たちに聞いても、理由がわからないと言っている。 「おかしいとは思わねえか? あれだけ、織笠のオヤジに黒滝は可愛がられてたんだ。 それが、なんであんなバカなマネをした?」 「テメエ等が、何か仕組みやがったんだろうが。」 じゃなきゃあ、あの英次が、オヤジに刃物なんざ向けるわけがねえ。 「本当に、そう思うのか?」 「なに?」 和磨は、三隅に目を向けた。 「黒滝の野郎は頭がキレる。それは俺も認める。 だが、そんな頭のキレる野郎が、 簡単に俺たちの手に乗ったりすると思うか?」 「何が言いてえんだ!?」 「黒滝は、俺たちが考えるような罠にハマるほどバカじゃねえ。 だから、俺だって、ずっとアイツの下で、煮え湯を飲まされてたんだ。 だがな・・・ ありゃあ、偶然だったんだ。 たまたまだったんだよ。 俺は、見つけちまったんだ。 すげえ、面白えもんを見つけちまったんだよ。」 三隅は、愉快でたまらないといった顔をしていた。 何を言わんとしているのか、和磨には、わからなかった。 「アレを見たときは、笑いが出たぜ。 これで、黒滝を抑えることが出来る。 アイツを使って、倖田組を牛耳ることだって夢じゃねえ、ってな。 だが、話しは、もっと面白え方に進んでったよ。 さすがは、速見の親分さんだ。 頭のキレが俺たちなんかたあ、訳が違う。 倖田組どころか、円組そのものを乗っ取っちまうんだからな。」 「何を見たって、言いてえんだ・・・・。」 「まあ、慌てんなよ。 それは、これからたっぷりと見せてやるからよ。 その前に聞きてえんだが、お前と黒滝ってのは義兄弟だったよな?」 「ああ、それがどうした?・・・・。」 「義兄弟ってのは、穴兄弟ってことなのか?」 「なにぃ・・・・。」 「けけっ・・・まったく、テメエは、目出てえ野郎だよ。」 「なんだと、コラッ!!」 「粋がるんじゃねえよ。 時間は、たっぷりとあるんだ。 その前に、もうひとつ俺に教えてくれや。 黒滝の野郎が、この世で一番恐れてたモノって、なんだ?」 「そんなもん知るか!」 「けっ!義兄弟のくせにそんなことも知らねえのかよ。 なら、俺が教えてやるぜ。 黒滝は、意気地がねえように見えたが、意外と芯は強え野郎だった。 ここ一番って時の決断力もあったわ。 さすがに織笠のオヤジが見込んだだけのことはある。 あのまま生きてりゃ、さぞイイ親分になったろうよ。 見かけによらず、肝っ玉はデカかったんだ。 どんな敵だろうが、あの野郎は、負けるたあ思っちゃいなかった。 だが、そんなアイツが、たったひとつだけ恐れるモノがあった。 それはな・・・」 三隅が、不敵な笑いを浮かべた。 和磨は、じっと三隅を睨みつけていた。 三隅の口元が歪んだように吊り上がる。 満を持したように口を開いた。 「くくっ・・・それはな・・オメエだよ。 あの野郎は誰でもねえ、オメエを恐れたんだよ!!」 それは、たまたま偶然だった。 三隅は、集金のトラブルで、黒滝を捜し回っていた。 銀行が閉まる前までに、黒滝の判断を仰がなければならない事態が起きた。 ヘタをすれば、数千万単位の金を失うことになる。 そうなれば、指を詰めるどころでは済まされない。 何度もケータイを鳴らしたが、空しくコール音を響かせるだけだった。 やむなく、三隅は、黒滝のこのマンションを訪れた。 黒滝は、いた。 「ああ、ケータイは、夕べ飲み屋に置いてきちまったんだ。」 黒滝は、電話に出なかった理由を教えてくれた。 上半身は、裸だった。 いかにも慌てたように、ズボンのベルトは締めてもいなかった。 女か・・・。 三隅には、すぐに察しがついた。 集金のトラブルは、黒滝の判断で事なきを得た。 だが、ほっとした途端に、腹がしぶり始めた。 夕べ食った牡蠣が悪かったらしく、朝から腹の調子が良くなかった。 「すいませんが、便所を貸してもらえやせんか?」 親のところに突然押しかけてきて、挙げ句に、便所まで貸せとは厚かましい にもほどがある。 だが、三隅は、この若い組長にあまり敬意を払っていなかった。 厚顔の為せる技だったろう。 「ちょっと、ごめんなすって。」 「おい!ちょっと待て!」 進入を拒もうとする黒滝を押しのけて、三隅は便所へと走り込んだ。 そして、そこで見たのだ。 わずかに開いていた、寝室の扉。 ベッドの上から、白い肌を露わにして、不安げにこちらを覗いていた女の顔 を。 なにっ!?あれは・・・。 見覚えのある顔だった。 三隅も何度か会ったことがある。 便所の中でしゃがみながら、三隅は頭を巡らせた。 初めは、驚きしかなかった。 だが、次に、不思議な笑いが込みあげてきた。 三隅は、何食わぬ顔で便所を出ると、黒滝に頭を下げて、玄関を出た。 エレベーターに乗り込み、ドアが閉まると、もう、笑いは止まらなかった。 「おい・・・」 三隅が、顎をしゃくると、背後のふたりが動き出した。 「如月・・・テメエに面白えもんを見せてやる。」 残忍な笑みだった。 初めから用意されていたのか、窓際の壁に大きなスクリーンが広げられる。 もうひとりは、三隅の座るソファの前のテーブルの下からプロジェクターを 取り出すと、それを、テーブルの上へと置いていった。 「感謝しろよ。わざわざテメエのために、こんなでけえスクリーンで特別上 映してやるんだ。」 三隅は、卑下た笑いを浮かべた。 すぐに、部屋の灯りが落とされた。 和磨は、身構えた。 耳をそばだてて、気配を探った。 あのふたりは、動いていない。 プロジェクターのレンズから、強烈な光がスクリーンに向かって放たれた。 まぶしいくらいに部屋の一隅が照らされ、和磨の正面に3人の姿が浮かび上 がる。 三隅は、ソファにふんぞり返って、足を組んでいた。 手にリモコンらしきものを持っていた。 まだ、和磨はスクリーンを見ていなかった。 この状況下で、奴らから意識を放せば、間違いなくやられる。 しかし、スクリーンに映し出される影は、目の端で捉えていた。 「ああっ!!・・・・。」 突如として聞き覚えのある声が、スピーカーから大音量で流れだした。 なにっ!? それまで、奴らに向けていた意識が、たちまち切れた。 思わずスクリーンに目を向けていた。 聞き覚えのある声。 スクリーンの中で絡み合っていたふたつの裸体。 背筋を冷たいものが駆け抜けた。 心臓が凍りついた。 「美羽・・・・。」 唸るように、声に出していた・・・。 思えば、おかしなことだらけだった。 初めは、俺も札入れの総会に出席する予定だった。 直前になって、英次から義理事を頼まれた。 わざわざ、俺が出張るほどの用事でもねえ。 そんなことよりも、オヤジと英次だけで、札入れに向かわせる方が心配だっ た。 英次は、拝むように頼んでいた。 おかしかったのは、家に帰ると、美羽までが、英次から義理事を頼まれたの を知っていたことだ。 「おみやげは、生八つ橋でいいからね。」 美羽は、鼻から俺が行くものと決めてかかっていやがった。 義理事の場所まで知っていやがった。 仕事の話しを、家でしたことはねえ。 それは、英次も同じだ。 決して人様に胸張れる仕事じゃあ、なかった。 だから、美羽の前では、仕事の話しをしねえのが、俺と英次の暗黙の決め事 だった。 「だめよ、お兄ちゃんのお願いなんだから、行ってあげて。」 美羽は、渋る俺をなんとか行かせたがった。 「お願い・・・ねっ!」 可愛い顔でねだりもした。 どうするか考えてたところに、あのオヤジの言葉だ。 「オメエは、敵が多い。 今回は、大人しく英次の言うとおり、義理掛けに行ってこい。」 おそらく英次が、オヤジを説得したに違いねえ。 オヤジにまで言われちゃ、さすがに俺も断れねえ。 仕方なしだったが、札入れの前日、俺は関西に飛ばざるを得なかった。 オヤジたちが、罠にハメられてたなんて、気付きもしねえで。 おかしな事は、まだあった。 組が襲われて、俺が若い奴から連絡を受けたのは、襲撃から二日も経ったあ とだった。 「なんで、すぐに知らせなかった!!」 「く、黒滝のオジキから言われてたんです! オヤジは、密命を受けて動いてるから、絶対に連絡を取るなって!!」 小突いた若けえ奴は、泣きそうな顔をしながらそう言った。 それでも、おかしいとは思ったんだろう。 三日目になって、やっと連絡してきやがった。 俺は、オヤジや英次が殺されて、組が一大事ってときに、馬鹿面カマしなが ら、物見遊山で祇園巡りなんかしてたわけだ。 なんで、英次がそんなことを言ったのか、解せなかった。 だが、そんときの俺には、そんな事を考える余裕すらなかった。 組の無事を確かめて、慌てて家に戻れば、美羽の姿はなかった。 てっきり掠われたんだと、思っていた。 だが、美羽は、夜になって帰ってきた。 まるで、幽霊みたいな面だった。 無理もねえ。 たったひとりの兄貴が殺されたんだ。 美羽は、俺の顔を見ても、泣きもしなかった。 魂が抜けたみてえになって、ぼんやりと座り込んでいただけだった。 声を掛けてやる事さえも出来やしなかった。 そして、それからだ・・・美羽の俺を見る目がおかしくなったのは・・。 膝が震えて止まらなかった。 三隅たちが、目の前にいる事さえ忘れかけていた。 覚えのある背中。 美羽によく似た顔の、千手観音菩薩。 白い手が、その千手観音菩薩を掴んでいく。 「お兄ちゃん!!・・・・お兄ちゃん!!・・・。」 足を拡げきっていた。 浅黒い肌に、必至になってしがみついていた。 英次のケツが、やたらと艶めかしく動いているのが、ひどく悲しくてならな かった。 見覚えのある部屋だった。 それは、すぐ目の前にあった。 「どうだ?・・なかなかの迫力だろう?」 卑下た笑い。 薄闇に野郎の顔は、はっきりとは見えなかった。 だが、きっと、腐れたブタみたいな顔で薄笑いを浮かべていたに違いねえ。 どうしてだ・・・・。 それしか、頭にゃなかった。 英次の寝室を、斜め上から映していた。 ベッドが正面から丸写しになっていた。 女が体位を入れ替えた。 四つん這いになって、カメラの方を向いた。 美羽・・・。 乱れた長い髪から覗く、あどけない顔。 マッチ棒が2本も乗るって、自慢してた長い睫毛。 「ああっ!!・・・お兄ちゃん!気持ちいいっ!!気持ちいい!!」 英次が、尻を掴んで腰を叩きつけ始めると、美羽は狂ったように叫びだし た。 まだ、幼さが抜けきらねえ声。 和磨は、この声が、好きだった。 「まさか、あの黒滝にこんな趣味があるとはな。 まさしく、犬畜生にも劣る奴らだぜ。 だが、おかげで、俺様にも運が巡ってきたんだから、文句も言えねえか。 黒滝の野郎、このビデオを見せたら、顔を青くして震えてやがったぜ。 よっぽど、オメエが怖かったらしいな。 泣きながら、勘弁してくれって、土下座までしやがった。 あんときゃ、ほんとに気持ちよかったぜ。 あとは、オメエが察する通りさ。 あのバカ野郎、あれほど可愛がってくれたオヤジを、 オメエ怖さに簡単に刺しちまいやがった。 まったく、あきれた野郎だぜ。」 そうかい・・・そういう訳かい。 これをネタに英次を脅しやがったのかい・・・。 この・・・くされ外道ども!! 後先なんざ考えなかった。 ただ、目の前の三隅を、ぶっ殺してやりたかった。 「おっと、見せんのは、これだけじゃねえんだ。」 気配を察した三隅が、慌てて和磨を止めにかかる。 後ろのふたりが、わずかに身構えた。 「まあ、そう慌てんなよ。まだ、面白えもんがあるんだからよ。 おい・・・。」 三隅が顎をしゃくると、手下のひとりが、プレーヤーのディスクを入れ替え た。 「テメエには、とことん地獄を見せてやるよ。」 勝ち誇ったような笑み。 すぐにスクリーンに、映像が映し出される。 うっ! 息を呑んだ。 三隅がスクリーンの中に映っていた。 あの椅子は・・・この部屋じゃねえか!? 三隅は、今と同じように目の前のソファに座っていた。 裸だった。 開いた足の間に、女が跪いていた。 女の頭は、しきりに上下している。 水の跳ねるような、クチュクチュといやらしい音が、スピーカーから聞こえ てくる。 女は、縛られていた。 両手を後ろ手に縛られ、胸に縄を掛けられいた。 三隅が、女の髪を掴んだ。 股の間に埋めていた顔を引き起こした。 美羽!! 美羽は、トロンとした目で三隅を見上げていた。 口のまわりが、いやらしく濡れ光っていた。 やっぱり捕まってたのか! とっさにそう思った。 和磨が慌てて戻ったとき、美羽は家にいなかった。 夜になって、やっと帰ってきた。 組が襲撃されて、三日間の空白がある。 その間に、美羽は、三隅に掠われていたのだ。 和磨は、そう思い込んだ。 そう思いたかった。 だが・・・・そうじゃなかった。 「明日になりゃあ、ぜんぶ終わる。」 くぐもった声だった。 それは、スピーカーから聞こえてきた。 「約束通り、お兄ちゃんは、助けてくれるんでしょう?」 すがるような美羽の声。 「ああ、オメエがちゃんと、如月の野郎を関西に行かせりゃあ、約束通り、 兄貴は助けてやる・・・。」 なん!?・・・。 「そこで、あの人は死ぬのね。親分さんが殺してくれるのね。」 「ああ、その通りだ。」 スクリーンの中の三隅は笑っていた。 「そうなったら、お兄ちゃんが組を継げるんでしょう? 親分さんのあとに、お兄ちゃんが組長になるんでしょう!?」 「ああ・・・だが、如月の野郎が生きてる限り、 オメエの兄貴は組を継げねえ。 織笠のオヤジが死んだとしても、如月が黙っちゃいねえからな。 それどころか、オメエの兄貴は如月に消されるかも知れねえ。 いや、きっと殺すな。 如月にとっちゃ、オメエの兄貴は目の上のたんこぶなんだ。」 「嫌!!お兄ちゃんが、死ぬなんて絶対に嫌!! ちゃんと言う事をきくわ! だから、お兄ちゃんを助けて!」 悲痛な叫び声が、部屋の中に響いた。 「オメエ次第だ・・・。オメエが頑張りさえすりゃ、兄貴は助かる。」 「何でもする!どんな事でもする!!」 「なら、如月を殺せるか?」 三隅が、カメラに向かって、にやけた笑みを浮かべた。 三隅は、カメラの位置を知っていた。 和磨に、見せつけようとしたのだ。 「殺せる・・・。」 小さな声だったが、美羽は、はっきりと、そう答えた。 その声を聞いたとき、和磨の中で、何かが壊れた。 「そうか。なら、兄貴は殺さねえでやる。 その代わり、オメエは、これから俺に従うんだ。」 三隅が、美羽のアゴを掴んだ。 「はい・・・。」 美羽は、小さく頷いた。 「立て・・・。」 三隅に言われて、美羽が立った。 「自分で挿れるんだ・・・。」 美羽は、縛られた不自由な身体のまま、カメラの方を向きながら、ゆっくり と尻を沈めていった。 三隅が指を添えた。 「ああっ・・・」 「いい道具だ・・・これからは、俺がたっぷりと可愛がってやる。 たまには、兄貴に会う事も許してやる。 だが、もうオメエは俺のもんだ。 俺の奴隷だ。 わかったな・・・。」 「ああっ・・・奴隷になります・・・親分さんに・・・尽くす奴隷になりま す・・・。」 美羽は、自分から尻をくねらせた。 「ああっ!・・・いいっ!!・・親分様!!気持ちいいっ!!・・・・」 中腰の不自由な姿勢のまま、妖しく尻をくねらせながら、我を忘れたよう に、悶えつづけた。 自分から、欲しがっているのが、ありありとわかった。 「へへっ・・・バカな女だ。 オメエがいなくなりゃ、兄貴が円組を継げると、 本気で信じ込んでやがった。 もっとも、そう思い込ませたのは、俺たちだがな。 本当なら、オメエにも消えてもらいたかったんだが、 うまい材料が見つからなかった。 消すのは諦めて、どこかに消えててもらう事にしたのさ。 オメエがいりゃあ、何かとやりづらいからな。 オメエの女房が手伝ってくれたおかげで、 うまい具合に事は運んでくれたよ。 こっちの思惑通りだ。 これほど見事にハマるたあ、オレも思っちゃいなかった。 これも、黒滝の野郎が、全部ひとりでひっかぶってくれたおかげだな。」 もう、和磨の耳には、何も聞こえてなかった。 立っている事さえも、出来なかった。 膝が抜けたように、和磨はその場にへたり込んだ。 美羽は・・・俺が死ぬものだと思い込んでいた。 いや・・・俺が死ぬのを期待したんだ・・・。 英次を助けるために・・・。 三隅にハメられたのは事実だったかもしれない。 だが、美羽は選んだのだ。 和磨が死ぬ事を・・・。 「ついでだから教えてやる。 どうしてあのふたりが家を出なきゃならなかったのかをな。 美羽がしゃべってくれたよ。 黒滝の野郎、まだガキだったあの女に突っ込んだんだとよ。 それが、親にバレて、家にいられなくなったらしいわ。 で、家を飛び出したところを、織笠に拾われたって訳だ。 テメエも間抜けだよな。 美羽は、鼻から黒滝の女だったんだよ。 テメエと所帯を持つ前から、あのふたりは出来てたんだ。 そしてな、テメエと所帯を持ってからも、 あのふたりは、やりまくってたわけだ。 まったく目出てえ野郎だよな。 マメ泥棒は、オメエの目の前にいたって訳だ。 いいや、マメ泥棒はオメエの方か?」 三隅は、声を出して笑った。 部屋中に響き渡るほど、派手な大声で笑った。 それは、高らかな勝利宣言だった。 「テメエのガキも、ほんとにテメエのタネなのかね? まあ、いい。 オメエも聞いたろう。 美羽は、もう俺のもんだ。 今頃、荷物まとめて、家を出てる頃だろうよ。 笑っちまうよな。 兄貴が死んで、散々泣きわめいてたが、一生面倒見てやるって言ったら、 すぐに寝返りやがった。 落ち目んなったオメエに未練はねえとよ。 一生贅沢させてくれんなら、俺に尽くすとさ。 まったく、女ってなあ、魔物だわ。 まあ、なんだな・・・ オメエも黒滝も、あの女に破滅させられたみてえなもんだな。」 三隅が立ち上がった。 勝ち誇った笑みを浮かべて、和磨に近づいてきた。 「女を見る目がなかったテメエを恨みな。」 手に、拳銃を握っていた。 銃口が、和磨の頭に向けられる。 和磨は、うなだれていた。 魂を無くしたかのように、ただ俯いて床に目を向けているだけだった。 激鉄が上げられる。 三隅が、引き金に指をかけた。 和磨は、動かない。 死んだように、動かない・・・。 不意に銃口が下げられた。 「とっととぶっ殺しちまおうと思ったが・・・やめた。 テメエのその腑抜けたツラ見てたら、考えが変わったよ。 テメエは、殺さねえでおいてやる。 そのまま無様に生き延びてやがれ。」 三隅は、拳銃をケツにしまうと、部屋を出て行こうとした。 だが、何かを思い出したように、また戻ってくると、和磨の耳元で囁いた。 「オメエのあの可愛いガキも、まとめて面倒見てやるよ。 ガキでも突っ込めるってのは、美羽で証明済みだからな。 ふたり並べてやってやる。 ビデオが出来たら、オメエにも送ってやるよ。」 三隅が声を出して笑う。 和磨は、ぼんやりとした意識の中で、その笑い声を聞いていた。 どこを、どう通って帰ったのか覚えていない。 ようやく家にたどり着いた頃には、夜中になっていた。 三隅が言ったとおり、家の中に美羽の姿はなかった。 はじめから予想していたから、驚きもしなかった。 子供部屋のドアを開けると、そこには穏やかな顔をして眠る娘の姿があっ た。 美羽は、娘だけは連れて行く気にならなかったらしい。 それとも、後から連れて行くつもりなのか・・・。 (ふたり並べて、やってやる。) 脳裏に、三隅の股の間に跪く、ふたりの姿があった。 和磨は、娘の寝ているベッドに歩み寄った。 美羽によく似た顔だった。 目の中に入れても痛くないほどに、可愛がっていた娘だった。 お前も、いずれ俺を裏切るのか?・・・。 英次と美羽は、和磨を裏切っていた。 ふたりで、通じ合い、影で和磨をあざ笑っていた。 あれほど愛していた美羽は、和磨を殺すとまで言ってのけた。 あっさりと裏切って、三隅の元へはしった。 もう、なにも信じられなかった。 (テメエのガキも、ほんとにテメエのタネなのかね?) そうなのかよ・・・ツグミ・・・。 静かに布団をめくりあげた。 痛々しいほどに、幼い肢体が目の前にあった。 拾ったばかりの頃は、美羽もこんな身体だった。 あの身体で美羽は、男を知っていた。 英次の女だったのだ。 ツグミは、あの頃の美羽よりも、まだ幼い。 だが、すぐにあの女と同じ年頃になる。 お前は、誰にも渡さねえよ・・・。 寝ている娘を、両腕に抱え上げた。 「パパ?・・・」 大きな瞳が眠たげに開かれる。 和磨は、何も言わなかった。 静かに部屋を出た。 そして、ふたりの姿は、その夜から、消えるのだった。 俺を殺さなかった事を後悔させてやるよ・・・。 復讐に執念を燃やした和磨が、また渡世の世界に戻ってくるのは、それから 2年後である。 和磨は、如月組の代紋を、再び同じ地に掲げた。 若い者は、すぐに集まった。 殺されたとばかり思っていた和磨が、再び戻ってきたことで、それまで行き 場を失い、やむなく他の組に身を預けていた、かつての身内も、組を捨て て、続々と和磨の元に集結した。 如月組であったという理由だけで、散々冷や飯を食わされた。 だから、もう彼らには未練などなかった。 正義は、和磨にあった。 若い者達は、それを知っていた。 和磨が鍛え上げた若者たちだった。 和磨の男気に惚れて、一緒に戦った命知らずの猛者たちだった。 和磨は、不思議と潤沢な資金を抱えていた。 如月組は、たちどころにかつての勢いを取り戻した。 慌てたのは、三隅だ。 幾度となく如月組に攻勢をかけたが、ことごとく返り討ちにあった。 如月組の若者たちは命など惜しんでいなかった。 もはや、彼らには如月組だけがすがるべき、よすがなのだ。 ここを失えば、彼らには帰るところがない。 命を惜しまない若者たちに、かなうはずなどなかった。 三隅は、なんとか状況を打開しようとしたが、どうにもならなかった。 血で血を洗う抗争になりかけたところで、ようやく手打ちが入った。 同じ組同士で争うなど、愚にもならない。 円組が疲弊していくのを虎視眈々と狙う本間会が、同じ地にいるのだ。 如月組の戦闘力は侮れない。 ならば、いっそのこと取り込んだ方がいい。 速見は、得意のソロバンを弾いて、その答えを導き出した。 手打ちに望んで、和磨が出した条件はふたつあった。 ひとつは、元の縄張りを返すこと。 もうひとつは、織笠の杯をそのままにすること。 速見にしてみれば、そのどちらもたいしたことではなかった。 三隅に代替わりしてから、円組の支配力は激減した。 三隅は、無能な男だ。 組をまとめていくだけの求心力もない。 しかし、本間会がこの地で隆盛を極めていくのは防ぎたかった。 防波堤代わりになりゃ、いい・・・。 如月は、かつての円組を復活させる腹づもりだろう。 その為には、必至に円組の縄張りを守ろうとするはずだ。 ならば、こっちはそれを利用すりゃあいい・・・。 もはや速見体制は、盤石のものとなり揺るぎようがなかった。 和磨ひとりが孤軍奮闘したところで、阿宗会にヒビが入るとは思わなかっ た。 速見は、その条件を呑んだ。 しかし、速見も条件を出した。 円組に対し、上納金を課したのだ。 組織に属する以上、上納金は、当たり前の話しだ。 まったくのフリーでは、組織に示しがつかない。 それすらも拒むようならば、阿宗会の全力を持って叩き潰すつもりだった。 和磨は、その条件を呑んだ。 法外な歩合であったが、あっさりとそれを受け入れた。 こうして、三隅との間に、手打ちの儀が執り行われた。 三隅は、あの時、和磨を殺さなかったことを後悔していた。 苦渋の選択だったが、速見には逆らえなかった。 「へっ!やっぱり、あん時テメエを、ぶっ殺しておけば良かったぜ。 もう、今さら後の祭りだがな。 だが、上納金だけは、しっかり治めてもらうぞ。 シノギの45%だ。 これだけは、きっちり払ってもらう。 誤魔化そうとなんかすんなよ。 テメエんところの台所は、しっかり押さえてんだ。 もし、誤魔化したり、足りなかったりしたら即戦争だ。 それだけは、忘れんな!」 シノギの45%と言えば、組を運営して行くにはギリギリのラインだ。 まったく実入りがないに等しい。 速見は、しっかりと如月組がこれ以上肥大しないように、予防線を張ったわ けだ。 「いらねえ心配すんな。 金は、きっちり払ってやる。」 和磨は、不敵な笑みを浮かべていた。 まったくと言っていいほど、三隅を恐れていなかった。 あざ笑うかのような視線を、三隅に向けていた。 「へへっ・・・美羽は、相変わらずいい声で泣きやがるぜ。」 それは、三隅にできた精一杯の虚勢だったのかもしれない。 「そうかい。去年、娘も生まれたらしいじゃねえか。」 「な、なんで、それを・・・。」 フン、バカ野郎、テメエのことなんざ、こっちはすべてお見通しだよ。 「テメエも盛んなことだな。 正妻に3人も産ませて、さらにイロの美羽にまでガキを作ったのかい。 まあ、せいぜいどっちも母子共々、可愛がってやんな。」 もう、美羽になどに、未練はなかった。 今、美羽は27才。 あと、10年もした頃は、しっかりと脂も乗ってることだろうぜ。 娘の方もな。 だが、その前に・・・。 「いいか、金の件だけは、忘れんじゃねえぞ!」 手打ちの儀が終わっての別れ際、三隅は、しつこいほどに和磨に言い放って いた。 それで勝ったつもりなんだろうが、そこが、テメエの浅はかさだよ。 金は、払ってやるさ。 もっとも、稼ぐのは俺じゃねえがな。 それから一週間後、三隅の正妻と末娘が、消えた・・・。
09/10/14 00:00
(CowKi3lP)
和磨が、如月組を再興させる、半年ほど前。 青森市の郊外にあるラブホテル街に、一件の新しいホテルがオープンした。 名は「THRUSH」 和名で、ツグミ。 地上4階建て。 総客室数は22部屋。 北欧風の外観がひときわ目を惹く、中高層建造物。 地下に駐車場があり、そこから部屋を選んで、各階へと向かう疑似フロント 型のラブホテル。 窓の配置から見る限りは、4階建てにしか見えない。 エレベーターのボタンも4階までしかない。 さらに上の階層に部屋があるのを知っているのは、このホテルを造った業者 と、ごく一部の者だけ。 しかし、業者は5階建てと聞いていた。 図面の青写真は、4階まで。 消防局の立ち入り検査も、4階で終わった。 黒のベンツが、地下駐車場に滑り込んでくる。 男が、ひとり降りてきた。 エレベーターは2基。 左のエレベーターへと入る。 階を知らせるボタンは押さずに、緊急停止用の小窓を開ける。 中には2つのボタン。 赤くて大きなボタンは、まさしく緊急停止用。 男は、なんの表示もない、遠慮がちに小さく作られたボタンを押した。 エレベーターが動き出す。 階数を表示するデジタルが、ひとつずつ繰り上がる。 4階に到達する。 エレベーターは止まらなかった。 ふわりとエレベーターが止まったのは、その数秒後。 扉が開くと、そこは赤い照明に彩られた、小さな恋人たちの待つ魅惑のハー レム。 エレベーターの出口からすぐ右の奥に「Staff Only」と、洒落の 効いたドアがある。 ドアを開けて、中に入った。 十数面のモニター画面の前に、可愛らしい少女が座っている。 「パパ、お帰りなさい。」 「ツグミ、客の入りはどうだ?」 白黒のモニター画面の中で、影が動いているのは7つ。 「もうちょっとしたら、あとひとり来るみたい。」 そう答えたツグミの姿は、ほとんど半裸。 頭には、フリルのついたナイトキャップ。 首には、黒のチョーカー やはり、大きめのフリルが目立つカフスが、両腕にひとつずつ。 右の足にだけ付けられたキャットガーターがワンポイント。 そして、わずかに前だけしか隠していないトライアングルショーツは、ささ やかな羞じらいをツグミの中に見せているかのよう。 それが彼女たちのスタンダードユニフォーム。 無論、要望があれば、どんなスタイルにでも変身する。 噂をしたところで、地下のエレベーター入り口に隠した、監視カメラの前に 立つ黒い影。 男は、まるでそこにカメラがあるのを知っているかのように、じっとこちら を見つめている。 「押野さんが来たみたい。」 ツグミは、モニターの前にあるコンソールから、ボタンをひとつ選んで、そ れを押すと、目の前にあるマイクに向かって、話しかけた。 「ミカちゃん、来たわよ。」 モニターの中で、小さな影が慌てたように動き出す。 小型の監視カメラは、エレベーターの出口にもある。 そこに、ミカと呼ばれた少女が跪くのを確かめてから、ツグミは、エレベー ターを操作するボタンを押した。 押野と呼ばれた男がエレベーターに乗り込み、上がってくる。 カメラはエレベーターの中にもあった。 この階にやってくる人間の行動は、すべてが、この部屋から監視できる。 エレベーターの扉が開いて、押野が姿を見せると、ミカは、深々と頭を下げ て出迎えた。 そして、彼の腕をとって、さっきまで自分がいた部屋へと連れて行く。 部屋に入って、スーツの上着を脱ぐなり、押野は、美佳に襲いかかる。 珍しい光景ではない。 ここでは、ほとんどの男が同じようなことをする。 慌て勇んで、押野がズボンを脱ぎ、ミカに挿入しようとしたところで、ツグ ミが再びマイクに向かって話しかける。 「押野さ~ん、ちゃんとローション使ってくださいね~。」 彼女たちの性器は、まだ幼気なものでしかない。 決して、無茶はきかないのだ。 裂傷でも負えば、しばらくは使いものにならなくなる。 ツグミの声を聞いて、押野の動きが止まる。 まだ弛めてもいなかったネクタイの結び目に触り、何かをぶつぶつと言いな がら、ミカの身体から離れていく。 これで、安心だな。 いいタイミングだぜ・・・。 やっぱり、ツグミはわかってやがる。 これで影が動いていたモニターは、すべてふたつの影が動くようになった。 「全部、泊まりか?」 「うん。サナちゃんの相手なんて、今日で三日目だよ。」 つうことは、60万か・・・。 全部合わせりゃ200に届くってところか。 ぼろい儲けだぜ。 「お前には、客はいねえのか?」 こいつは、特別高く売れる。 「うん・・・なんか、お腹が痛くて・・・。」 バシッ!! 答えると同時に、和磨の平手が、ツグミの頬に飛んだ。 ツグミは、椅子から転げ落ちて、床の上に倒れ込んだ。 「舐めたこと言ってんじゃねえ!テメエの嘘なんざ、すぐわかるんだぞ!」 ツグミは、顔を青ざめさせた。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ちゃんと、イイ子になります!だから、怒 らないで!」 必至にズボンを掴んで、すがるような目を向ける。 つぶらな瞳から、涙があふれ出した。 「来い・・・。」 和磨は、椅子に座ると、倒れ込むツグミを呼んだ。 ツグミは、這うように四つん這いのまま、和磨の足下にすり寄ってくる。 「濡らせ・・・。」 和磨のズボンのベルトを弛めた。 まだ、力のない肉塊を口にする。 唇で締めていくと、口の中でみるみる肉塊が膨れあがっていった。 口が裂けそうになるほどの大きさがあった。 ツグミは丹念に舐めた。 何度もジュルジュルと、卑猥な音を響かせた。 「立て・・・。」 十分に濡れた頃、和磨はツグミを立たせた。 トライアングルショーツのヒモを無造作に引き千切り、ツグミの股間を露わ にする。 脇の下に手を入れて、持ち上げた。 そのまま、ツグミの足を開かせて、腰の上に乗せていく。 ゆっくりと下ろしていくと、ツグミは、自分で指を添えてあてがった。 「ウウッ・・・。」 巨大な肉塊がツグミの中にめり込んでいく。 和磨は、ツグミの尻を掴んだ。 ツグミは、根本まで呑み込んでいった。 「アアァ・・・パパ・・・。」 「いいかツグミ・・・俺は、こんなにお前を大事に想ってるんだ。だから、 お前も、俺を大事にするんだ。俺の言ったことは、ちゃんとやるんだ。」 「はい・・・。」 「ほら・・・お前をこんなに欲しがってる。わかるだろう・・・。」 「ああ・・・はい・・・。」 「お前は、俺のものなんだからな。」 「はい・・・。」 「お前は、パパの大事な宝物なんだ・・・。」 「ああっ・・・パパ、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」 「ちゃんと、わかればいいんだ。殴ったところは痛くないか?」 和磨は、赤く張れたツグミの頬に口づけた。 「ああ・・・パパ・・・気持ちいい・・・気持ちいいよ・・・。」 「ああ、もっと気持ちよくしてやるぞ。ほら・・・。」 和磨が腰の動きを早めていく。 ツグミが一心不乱に尻を振り始める。 「アアッ!!パパ!!もっと!!もっと!!!」 まだ、胸もなかった。 痛々しいほどに、細い手足だった。 「お前は、俺のものだからな・・・・。」 和磨は、ツグミの華奢な背中を抱きしめながら、ずっと耳元で囁き続けた。 ふん、だいぶイイ声で泣くようになったじゃねえか。 モニターのひとつを眺めていた。 モニターに映る影は6つ。 白黒のモニターでも、わかる浅黒い肌。 それが四つ。 そして、白い肌がふたつ。 白い肌のひとつは、小さい。 トリの野郎、だいぶ入れ込んでやがるな・・・。 無理もねえ。 元は、姉御だ。 そして、その娘だ。 奴らにしてみりゃ、殿上人だ。 下克上の炎ってやつかい? ここにふたりを連れ込んでから2週間。 毎日が性交だ。 寝ても覚めても、誰かが、ふたりに跨ってやがる。 ほとんど狂いかけていた。 もしかしたら、もう、娘の方は狂ってるかも知れねえ。 三隅、もうしばらくしたら、コイツらを返してやるよ。 もっとも、すっかり壊してからだがな。 男たちは、倖田組の若衆。 トリヤマは、若頭。 元は、黒滝の舎弟。 黒滝の死の真実は、もはや倖田組の中では、公然とした噂になっていた。 事実を知って、三隅を快く思わない者は多い。 トリヤマも、そのひとりだ。 「腹心の舎弟を3人集めろ。」 そして、トリヤマが連れてきた男たちが、この3人。 舎弟は4人が一番動きやすい。 それに、俺の好きな数字だ。 なんつったって、「三」の上だからな。 あの三隅のクソ野郎の上に立ってやる。 必ず・・・。 Present day 「タカぁ・・・お待たせぇ・・・あれ?」 ベッドの中は、空。 「タカぁ、どこに行ったのぉ?」 部屋の中を見回しても、どこにもいない。 「タカァ!」 しーん。 返事は、返ってこない。 コトリは、バスタオルを身体に巻いただけ。 今日は、念入りに髪も洗って、頭にもタオルを巻いている。 結構気合い入れたつもりが、空回り。 「どこ行ったの、タカぁ・・・。」 泣きそうな顔。 ベッドの上で、寂しそうに待っていた。 やがて聞こえてきた、階段を駆け上がる足音。 ものすごい勢いで階段を上がってくる。 聞き覚えのある足音。 キッチンの小窓を一瞬で横切る影。 ガチャガチャと、忙しなく玄関の鍵を開けようとする。 ガバッっと、ドアが大きく開かれると、そこには、泣きたいくらい待ってい た顔。 「タカぁ!!!!」 コトリは、タカに向かって一目散。 バスタオルずれまくり。 素っ裸。 そのままタカに向かってダイビング。 「おっと!」 受け止める太い腕。 「どこ行ってたの!!」 ふくれっ面。 「あ、ああ・・・これ、買いに行ってた。」 手には白いビニール袋。 印字された文字は、近くにあるドラッグストアの名前。 「なにそれ?」 「へへ・・・ローション。」 「ローション?」 「そっ、ヌルヌルするヤツ。」 「なんで、そんなものを?」 「ん?だって、少しでも痛くないようにしてあげようと思ってさ。」 にやっと笑うと、口元からこぼれた白い歯。 「タカぁ・・・。」 やさしい気遣いにコトリは、うっとり。 もう、どうにでもして状態。 しがみついて唇を押しつける。 「ん?」 でも、すごく汗臭い。 全身、汗びっしょり。 相当、猛ダッシュしたらしい。 あのお店、意外と遠いもんね。 タカは、やる気満々。 そのまま、ベッドに連れてかれそうになった。 不意にタカの顔に押しつけられた小さな手のひら。 「タカ。」 「ん?」 「シャワー浴びといで。」 はい・・・・。
09/10/14 00:03
(CowKi3lP)
最初のレスから間違ってやんの
No2のレスはオレでーす。 すいません・・・。 また謝っておきます。 仁義なき戦いになっちゃいました・・・。 おまけに、ふざけんな!ってくらい長文です。 もう、ケータイ小説は、あきらめました。 そんなん、できません・・・。 でも、聞いてください。 初めは、ちゃんと、やったんです。 えっちぃシーンも、いっぱい入れて、タカとコトリは、めでたく結ばれちゃ ったりしたんです。 でも、このバカは、よせばいいのに読み返したりしちゃうんです。 で、「つまんね」とか、思ったりしちゃうんです。 で、また一から書き直したりするわけです。 で、「こんなん出来ました♪」ってわけで、うpしちゃいました。 申し訳ありません。また、エロ少ないです・・・。 ノーNoの出だしがこれじゃあねえ。 みんなが引いていく姿が見える・・・。 あ!それと、レスん中にぶっ込んでから気がつきました。 毎度お馴染みだった冒頭の、「全部表示」の技がもう使えません。 でも、ちょっとだけ、ほっ・・・。
09/10/14 00:07
(CowKi3lP)
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