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1:義姉と本当の夫婦となるために。
投稿者:
ヨシト
『初めまして、中野ひろみと言います。』
そう言って、僕と母に頭を下げた彼女。母は『よろしくねぇ。』と答えていましたが、僕はただ頭を下げるしか出来ません。 その女性の隣には兄の姿。生まれて32年、兄が初めてうちに連れて来た女性がひろみさんでした。 もちろん、来ることは知っていました。兄が結婚をすれば、僕の義姉さんになる方です。どんな人なのかと想像もしてしまいます。 そして、初めて見た彼女の顔。それは、僕の想像とは少し違っていました。 『おばさんっぽい人…。』 それが第一印象でした。兄のよりも3つ年上の彼女は、僕にはそう見えたのです。 そばかすの目立つ丸い顔、笑うと無くなる細い目、着る服も地味で、何より35歳なのに全体からはおばさん臭が漂っています。 聞けば、小学校の先生もしていたこともあるらしく、真面目そうでしっかりとした雰囲気があるのは、そのためでしょうか。 紹介をされた後、僕は席を外し、母と3人で話がされていました。そこで話されたのは、結婚までの日取り。 二人は急いでいたのです。ひろみさんのお腹の中には、もう新しい命が芽生えていたのですから。 二人の結婚式は、大急ぎで取り行われました。地味な二人らしい、地味な結婚式。それでも、もう二人は夫婦となります。 女遊びなんか、絶対にやらないであろう兄。それは弟の僕が一番分かります。 そして、姉さん女房となるひろみさん。彼女のたたずまいから、こちらも男性問題には無縁でしょう。 ある意味、似た者同士のカップルに、『これは、絶対に上手く行くわ。』と弟の僕も太鼓判を押すのでした。 しかし、この夫婦の幸せは長くは続かなかったのです…。 『喪主さま、』 係の方から、そう声を掛けられた女性。その言葉に、張っていたはずの糸が切れてしまいました。 葬儀中、顔色を無くしながらも気丈に振る舞っていたのに、ここに来て心が悲鳴をあげてしまったのです。 隣にいた実の母親に支えられなければ、もう立っていることもままなりません。 『いやぁ~!いやぁ~!』、泣き叫ぶ彼女から聞き取れたのはこれだけ。あとはもう、言葉にはなっていません。 係の方から求められたのは、着火のためのボタン。押せば故人の肉体が消えるため、その女性は手を掛けることも出来ませんでした。 受け入れられないのは、僕も母も同じ。数日前まで元気だった兄が、突然この世から去ったのです。 それだけではありません。肉体の損傷は激しく、その姿を見ることは拒まれました。 つまり、家族親戚一同は棺の中の兄を誰も見てはいないのです。 その場で泣き崩れてしまった、義姉のひろみさん。喪主とは言え、もう今の彼女に何かを求めることは無理そうです。 その時、『私がやります。』と名乗り出たのは、顔を真っ赤に腫らした母だった。ひろみさん以上に泣いて、酷い顔をしている。 係の人に促され、歩を進めようとした母だったが、それをひろみさんの両手が止めます。 『押さんとってぇ~!…、押さんとってぇ~!…、』 葬祭場に響き渡る彼女の声。地面でスカートを汚しながらも、母の足にすがりついて離しません。 普段おとなしい彼女からは想像も出来ない姿です。しかし、母は泣きながらも、それを一蹴をします。 『もう諦めて…、ひろみちゃん、もう諦めて…。この子は私の子供だから…。』 母にしか言えない言葉だった。ひろみさんの願いを一蹴出来たのも、それは兄を産んだ彼女だからこそに違いない。
2021/05/21 13:19:57(kv9yhas6)
投稿者:
ヨシト
日曜の午後、我が家に響く2つの足音。靴下も履いてない足で、ドタドタと床を踏みつけながら走っている。
その音だけでわかる。義姉のひろみさんが、孫の顔を見せにやっていたのだ。 呼ばれた僕は、二人の子供の相手をします。彼らは叔父の僕を、『ヨシ兄』と呼ぶのです。 それを教えたのは、ひろみさんでした。『叔父さん』と呼ばせるには、僕がまだ若かったからです。 『ヨシ兄さん、お仕事忙しいですか?』 そんな僕に、ひろみさんが聞いてくれます。返事をしますが、それは二人の子供とじゃれあっているから。 子供達がいなければ、僕がどこか緊張をして、微妙な空気にもなってしまいます。 兄が結婚をして6年。ひろみさんとは義姉弟の関係となったのですが、しっくりは来てはいないのです。 真面目でしっかりものの彼女と、ちゃらんぽらんに生きている僕。そんな二人の気が合うはずもありません。 それに彼女は41歳。年下ながらも、一人立ちをしていた兄を選びました。その点、僕は兄とは違い、母親任せの出来の悪い次男坊。 彼女とは13歳の年の差もあって、義姉というより、おばさんにしか見えてないのです。 一通り子供達と遊び、僕は部屋へと戻りました。『あとは母の役目。』、そう思い、せっかくやって来てくれた彼女たちと別れます。 真面目過ぎるひろみさんといると、どこか息苦しいのです。 僕がその場を去り、走り回る下の娘をひろみさんが掴まえました。娘を膝に置き、髪に頬を寄せるのです。 そんな彼女に、母は『逃げたわ。』と声掛けます。それはもちろん、僕のことでした。 ひろみさんは、『お義母さん、大丈夫、大丈夫~。ヨシ兄さんにだって、やることあるんだから~。』と母を諭すのです。 やること?部屋でゲームを始めていた僕には、そんな二人の会話が耳に入ることはありません。 そして、ある計画がぼんやりと進行を始めたことにも気づくはずはないのです。 それは6年前に兄を失い、未亡人となっていたひろみさんの再婚話。その相手は、両手にゲームコントローラーを持つこの僕でした。
21/05/21 13:58
(kv9yhas6)
投稿者:
ヨシト
『あんた、ひろみちゃんのお婿さんにならん?』
それは、突然母から伝えられたこと。急に呼ばれ、母の真面目な顔を見て、ただ事ではないとは思っていたが、それ以上でした。 いつものような感じで、『そんなアホな?』という顔をしますが、母は真面目に話を続けます。 その話は僕が思うよりも進んでいるようで、うちの母、向こうの母、そしてひろみさん自身も『NO。』ではないようです。 つまり、僕の返事待ちとなっているということでした。 母の言葉は良いことばかりを並べました。もちろん、僕もいろんな言葉を使い、この話から逃げようとします。 兄の奥さんであること、子供がいるということ。年が離れていること。最後には、41歳になる彼女の容姿にまで触れていました。 結局、その場をうやむやにして終わらせたのは僕でした。YESともNOとも言わず、いつものように適当に逃げたのです。 しかし、それは母にしては好都合の結果。彼女と合わせれば、自分の意見を言えなくなる僕を知っているからです。 日曜日のお昼。ひろみさんが二人の子供を連れて、我が家へとやって来ます。 僕もすぐに呼ばれ、子供をあやし始めますが、やはりいつものようにはいきません。 母や義姉から、どんな話をされるのか気が気でないのです。 しかし、二人からは何もありません。僕に構うこともなく、いつものように義母と義娘の会話を楽しんでいます。 それは、主婦同士の会話でした。28歳にもなって、母離れの出来ない僕には大人の会話に聞こえます。 そして、見たのソファーに座って母と会話をするひろみさんの姿でした。 初めて会ったのが6年前。当時彼女は35歳でした。『おばさん。』、第一印象がそれの、老け顔だった彼女。 しかし、41歳になり、その顔も年齢に追いついてきた感じがします。そして、少しふくよかになった体型と胸。 それは彼女が、母親になった証拠。知らない間に、兄の奥さんではなく、二人の子供を持つ母親になっていたのです。 僕は、遊んでいる兄の子を見ていました。そしてその先には、僕の妻となったひろみさんの姿が見える気がします。 子供達は視界から消え、彼女一人が残ります。その妻を僕は抱き締める、そんなイメージまでしてしまうのでした。 その日、二人から何かが語られることはありませんでした。いつものように帰っていく家族を見送りますが、見ていたのは彼女だけ。 運転席に座り、後部座席の子供達を気にかけているひろみさんを僕は見ていたのです。 『よく見れば、きれいな人…。』と、都合よく書き換えられていくのでした。
21/05/21 14:38
(kv9yhas6)
投稿者:
(無名)
続きお願いします
21/05/21 14:57
(LtKhc..8)
投稿者:
(無名)
なんで子供2人なんですか?双子?
21/05/21 15:03
(IioKuX5b)
投稿者:
ヨシト
招かれた彼女の家、そしてひろみさんの実家。つまり、この家で暮らしていた兄はマスオさん状態だったのが分かる。
なのに断らなかったのは、もうどこかひろみさんを意識しているに違いない。 女性経験の少ない僕なので、そんな感情が簡単に芽生えてしまうのは仕方がないのだろう。 そこには、ひろみさんの実の母親がいました。僕もお会いするのは数年間ぶりで、高齢で足を少し悪くしているようです。 テーブルには夕食が並びました。初めて目にする、兄家族の料理です。席を見渡せば、馴染みの薄いメンバー。 僕はすぐに萎縮をしてしまうのです。 食事が終わり、広いリビングで子供達と遊びます。久し振りに訪れた叔父の僕に、子供達のテンションが上がります。 そんな僕は、チラッと台所を見ました。ほんの数秒です。そこではひろみさんとお母さんがコソコソと話をしています。 その僅な動きだけで、僕は何かを感じとりました。話されているのは、僕のこと。やはり、招かれたのには何かあるんです。 お風呂を済ませた子供達に、もう僕は不要なようです。彼らが気になるのはゲーム。ヒゲをはやした兄弟、任天堂のあのキャラです。 そこに、ひろみさんが現れました。『子供、うるさいでしょー?疲れるねぇ~。』と言って、飲み物が手渡されます。 そして、そのまま同じソファーへと座ってくるので、僕も緊張をします。彼女とこんなに接近したことなどなかったからです。 見渡したキッチン。もうそこには、彼女の母親の姿はありません。そして、目の前で遊ぶ子供達も僕らになど目もくれません。 おかげで、僕とひろみさんの空間がそこにありました。子供の方を向いてはいますが、彼女の気持ちは、今どこにあるのでしょうか。 『ヨシ兄さん?あの話、もう聞いてます?』 突然、いや満を持しての質問だったのかも知れない。ひろみさんは、ずっとこのチャンスを探していたのです。 彼女が聞きたいのは、YESとかNOではなく、僕の気持ち。『当事者なのに勝手に進められて、迷惑をしていないのか?』だった。 『ああ、あの話でしょ?』と言ったが、『二人の、』とは言えなかった。これ以上、ひろみさんに近づくのが怖かったのです。 『迷惑よねぇ~?弟さんだし。』 呟くように言った彼女は、この話にそれ以上は触れたくはなく、締めてくれようとします。 『ヨシ兄さん、もう深く考えんとって。これ以上、私も迷惑は掛けたくないので。』と言ってくれるのでした。 その言葉はどこか残念でもあり、やっと開放をされたような感じでもありました。 肩の荷がおりた僕は、固まっていた身体を解そうとソファーのお尻の位置を変えようとします。 その瞬間、僕の指が、隣に座るひろみさんの指と微かに触れあいました。他人の指です、すぐに手を引きます。 しかし、僕の手はもう一度その指に触れていました。それにはひろみさんも気はがついたはず。 それでも、彼女の手は逃げようとはしないのです。 軽く触れあい、重なった手と手。握り合う訳でもないのに、離れようともしませんでした。 『あ~あ~、死んだぁ~。』と言ってゲームをしている二人の子供を見ながら、僕とひろみさんとの時間は過ぎて行くのです。
21/05/21 15:25
(kv9yhas6)
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