毎日俺はほとんど体がだるくベッドから出ることが出来なかった。
そしていつの間にか、昏睡状態になり、目覚めると
あの遺伝子操作の日から約一ヶ月がたっていた。
ケータイには何通ものメールと着信が履歴に残っていて
その昏睡の長かったことが実感できた。

まず眠気覚ましにシャワーを浴びよう。
トランクスを脱いでバスルースに入り蛇口を開いた。
俺の体は何かの老廃物でべとべとしていてシャワーは
とても気持ちがよく、しばらくそのままお湯を浴びていた。

べとべとが流されてお湯は俺の体からはじけるように
下に流れていった。
「おやっ」なんかいつものと感覚が違う。
湯気で曇ったバスルームで今までシャワーに向けて上を向いていた顔を
下の方に目をやると白い大きく膨らんだバストが目に入った。
「なんだ？」
もう一度確かめてもこれは女の乳房だ。
まさかと思って股に手をやった。そこには男性のシンボルは影も形もなかった。
さらに股を指で探ると、完璧なバギナが出来ていて
指が奥深く中に入っていった。
どうしてなんだ？これはまだ夢の出来事なのか？

とかく研究所に連絡を取らなくては、携帯でかけてみるが
携帯はほとんどバッテリーがない状態でつながらない。
とにかく研究所に行かなくては、いつもの服装を着たが
スーツはだぶだぶでどう見てもおかしい格好だ。

スエットに着替えて、体にあった服を買いに行かなくては
近くの専門店が入ったスーパーに出かけた。
「何をお探しですか？」
「えっ」思いもしなかったかわいい声が出た。
「仕事先に着て行くものを何か・・」
「そうですねー、このスーツなんかどうですか？」
「えっ、こんなの？」
「まだお若いから、フレッシュな感じがいいですよ」
店員の出してきたのは、女子大生が着て行くようなリクルートスーツだ。
俺には女の服なんてわからないから店員の言うとおりにした。

そうだ下着も買わなくてはと、今まで前を通るのも恥ずかしかった
下着売り場に向かった。俺のサイズは何もわからない。
しかたなく店員に「正確なサイズを測り直そうと思うのですが・・」
店員と一緒に小部屋に入っていった。ただ恥ずかしかったのが
男物のトランクスを履いてしまっていた。
俺は店員の全身を確認しながら、何が要るの頭の中でシュミレーションした。
靴が要る。靴売り場では、暇な店員が俺にうるさくつきまとい、
結局ヒール３足とミュールとかいう物を買わされた・

家に帰り、ショーツをはいてブラジャーを着けようとした。
しかし後ろでホックをちゃんとはめるのには時間がかかった。
スーツに付いていたブラウスを着て、スカートをはいてジャケットを着た。
髪の毛も抜き変わったのか、細く女らしい髪の毛だがとてもショートだった。
最近はショートの女の子も多いから不自然ではなかった。

スカートとヒールは歩きにくく、ぎこちなく不自然に見えただろう。

研究所のある敷地に入るには、セキュリティーを通らないと行けない。
警備員が不審そうに俺の動きを監視している。
俺は自分のＩＤカードをリーダーに通してパスワードを打ち込んだ。
グリーンのランプがつき自動ドアがさっと開いた。
警備員はやっと俺から目を離した。

研究所のドアを開けて、「博士っ！！」俺は叫んだ。
「博士は今アメリカに出かけています」と弘子が丁寧に答えた。
「おいっ、弘子！何をしやがったっ！」
言葉は男言葉だが、その声は甲高く女の声だった。
「あのー、どなたでしょうか？」
「弘子、俺だよ、石坂だよ、明だよ」
「すごいわ、博士の研究は・・」
「女になっちまったぜ、どうしてくれるんだ」

そういうと低温金庫に行き、中の遺伝子を確かめた。
残っているのは「ＭＡＬＥ」で、当然俺に注入されたのは
「ＦＥＭＡＬＥ」だ。しかしなぜだ。
博士も俺も確認したのは「ＭＡＬＥ」だった。
廃棄ボックスからあの時のケースを探し出してみても
そこには「ＭＡＬＥ」と特殊テプラが貼られていた。
弘子が勝ち誇ったように近づいてきた、指の先を見せた。
「ＦＥ」のテプラの切れ端だった。
そうか、すべでが弘子の策略だったのか。

いいだろう、博士がアメリカから戻ってきたらすべてがうまくいき、元に戻れるだ
ろう。
俺はこれ以上弘子に何を言っても無駄だとそのまま家に帰った。

しかし二日後にケータイにかかってきた電話で俺は、絶望した。

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