私は山前さんに「話がある。」と言われ、彼の自宅を訪ねた。
山前さんは、映像プロデューサーを肩書きとしている人で、最近の作品で話題になったのは、「歌姫伝説」と言うＡＶビデオがある。
主演は倉本麻衣、監督　山前五十洋、判りやすく言うと、あの倉木パパだ。
‘日本一の迷惑パパ”としてその名を知られている。私は彼のアシスタントとして色んな仕事を手伝っていた。
彼はビールを片手に「歌姫伝説は、話題性だけだったなあ。あれだけバッシングをされたんだから、もうちょっと金になってもいいのに。」と、愚痴とも取れる話をはじめた。差し止めになった実の娘、倉木麻衣の幼少の頃のビデオの事から、そっくりサンとして売り出している、倉本麻衣の写真集の事まで、愚痴はしばらく続いて、私は‘愚痴を言う為に私を呼んだのか！”と少し呆れ始めていた頃、山前さんは本題に入っていった。
「あのビデオ、そっくりサンて言ってもあんまり似てなかったから売れなかったんじゃないか？」
「・・・そうですねぇ。インパクトはありましたけど・・」
「あれさ、もっと麻衣に似てたら売れるかな？」
「どうですかね？二番煎じじゃ売れないでしょう。」
「・・・例えば、本人なら？」
私は思わず、ナイスジョークと思い、「そりゃ凄い！ヌード写真集をすっ飛ばしてＡＶ出演ですか！そりゃ莫大儲かるでしょう。」と笑いながら言った。
「冗談じゃなくて、麻衣を使って企画物やろうかと思ってるんだが・・」と山前さんはまじめな顔をして言ってきた。
私は本気にしていなかった。「撮れたら日本中がひっくり返るほど話題になるでしょうけど・・絶対に無理です！！」
「・・無理かどうかなんて聞いてない！売れるかどうかをきいてるんだ。」山前さんは真剣な目で私に言いながらビールを飲み干した。
私は彼が本気で言っているのかどうか半信半疑ながらも、「・・長戸と中島が黙ってませんよ。」と真剣に答えた。
「・・フン、あいつ等にとっても麻衣はドル箱だろう、簡単に認めないさ。」
と、山前さんは小声で言った。
長戸と中島とは、倉木麻衣が所属している事務所、ＧＩＺＡの総本山ビーイング・グループの代表、中島正雄氏と９４年に引退したもののその力は今なお絶大と言われる、長戸大幸氏の事だ。様々な問題で山前さんとはかなり確執がある。
山前さんは、「出演させるのは麻衣本人だが、名前を新・倉本麻衣とか、倉木麻紀とかに変える、どんなにマスコミが本人じゃないか？と騒いでもこっちはソックリサンです！と言い張れば，長戸も中島も人気を落とすわけにはいかないから、別人です、としか言えないだろう。」と、計画を語りだした。
私が「・・でも、麻衣さんが絶対断りますよ。」と決定的な事を言ったつもりだった。しかし山前さんは、ニヤリと笑って、「・・当たり前の事、言うな。麻衣に言ったら嫌だと言うにきまってるだろ！」と軽く言ってのけた。
私は理解した。「まさか・・・。」私の言葉に、山前さんは軽く頷いて、「こっちサイドも向こうサイドも認めなければ、被害者はいないだろ！俺たちが罪に問われる事もない！」彼は声を低くしてそう語った。
私は、「麻衣さんが告発したら？」との問いに、「・・・あの娘は小さい時から歌が好きでね、今の立場を捨てる事は出来ない・・。」と、確信に目の奥を光らせていた。
私は心の中で、「酷い父親だ、考えられない・・。」と思った、しかし考えてみれば、自分の娘のソックリサンで名前を一字違いにしＡＶを撮るような人だ、禁断の一歩を踏み出す事は、この人にとっては容易いのかもしれない、そう思い直し私なりに冷静に考えてみた。
１９歳の現役人気シンガーが、ＡＶに出演するなど本来ありえる訳がない、過去にもそんな事例はない、別人とはするものの出演は実際本人であれば、真偽を巡ってマスコミは大騒ぎになるだろう。当たり前に話題性は充分、宣伝費は必要ない。信じて購入する者も、激似として購入する者もかなりいる筈だ、それだけに倉木麻衣も迂闊に告発など出来ないかもしれない。
そうこう考えている私の顔を、まるで心の中を読んでいる様にニヤニヤして見つめる山前さんがいた。
「どういった企画で撮る？」との問いに私と山前さんは企画の打ち合わせに入っていった。

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