「あー……じゅるるる」
　朝食(オレンジジュース)を飲みながら教室に入った。
　さわやかな朝だが気持ちは沈んでいた。見かけのテンションは普段と変わら
ないと思うが、目の下にはひどい隈が出来ている。
　眠かった。
　理由は昨日の峰地からのメール。

　送信者：峰地
　sub:
　よろしくね
　パパ

　拝啓、お父さん、お母さん。史一はパパになりました。
「……はぁ」
　ちょっとした気の迷いから招いた人生を踏み外しかねない失態でクラスメイ
トの峰地に中だししてしまったのだ。
　9割9部嘘だとは思う。危険日に中だしされてあんなメールは送れないはず
だ。けれど、1％の確立で……。
「はぁ……」
　憂鬱だった。
　オレンジジュースを飲みながら若干うつむき加減で自分の席に向かう。
　机の上にかばんをほおり投げて席に座った。
　ブレザーから携帯を取り出し、昨日のメールを読み返す。

　送信者：峰地
　sub:
　よろしくね
　パパ

　昨日から何度も見間違いだと言い聞かせて開いてみた。しかし、何度見ても
文面は変わらずこれである。

　送信者：峰地
　sub:
　よろしくね
　パパ

　携帯を閉じてブレザーにしまった。
「……」

　送信者：峰地
　sub:
　よろしくね
　パパ

　希望を持ってもう一度確認したが文面に変化はなかった。
　正直、能力をフル活用して行方をくらますという方法もあったのだが、オレ
にはできなかった。
　本当に妊娠の可能性があるわけで、峰地の体にはオレの……

「フーくん」
「うおあ！？」
　名前(フミカズだからフーくん？)を呼ばれるのと同時に肩をたたかれた。い
や、べつにそれだけじゃ驚かないが声の主が……。
「み、峰地」
　恐る恐る振り返る。
「おはよう」
　そこには満面の笑みを浮かべた峰地の顔があった。
(あぁ……なんだ)
　どうやら取り越し苦労のようだ。あのメールは峰地のジョークで意味もなく
不安がっていただけなのだ。
　妊娠しているかもしれないというのにこんな笑顔出来るはずがない。
「おーい、秋子」
「あ、ゆっちゃん」
　峰地の友人である斉藤ユウが話しかけてきた。
「なに？　フーくんて」
　斉藤は峰地の不可解な発言を問う。
「そういや、なんなんだよ。それ。なんで、フーくん？」
　オレも先ほどの奇声を取り繕うように話に加わる。
「ん？　わたしとフーくんは付き合ってるんだよ？」
　……あ？
「……へ？」
　オレと斉藤、まったく同じリアクションで峰地を見た。
「え、え、え？　な、なに？　ハセって秋子と付き合ってるの？　いつか
ら？」
「つき……」
「昨日から」
　昨日？
　昨日だって？
「昨日から？　なになに？　どっちから告白したの？」
「んー、どっちからってわけじゃないけどそういう雰囲気になって」
「あ、もしかして昨日、保健室につれってって貰ったとき？」
「……ん」
「なになに～。そのリアクションは♪　いくところまでいっちゃったの？」
　峰地と斉藤が女子○生らしい会話をしてる最中、オレは放心状態だった。
　正確に言うと放心状態ではなく、今までにないくらい脳がフル回転してたわ
けでまったく空き時間がなかったわけで全体的に見ればつねに脳が活動してい
たわけで無限ループに入ったから結局は……。
　と、こんな感じだった。
「……っ」
　無限ループを脱した時にはオレと峰地を中心に人垣が出来ていた。
　中にはオレの友人も含まれていてオレは頭をどつかれたり、頬を張り倒され
たり、踏んだり蹴ったりだった。
　怒りもわいてきたがこいつらの行動も理解できないわけじゃない。
　こんな巨乳の彼女が友人にいたら同じことをしていると思う。
　というか、よく見るとかわいい。もしかして、寝たからか？
　それはともかく、こいつらも同じノリなのだろう。
　だが、こいつらが考えている以上にオレの状況は逼迫している。○校生にし
て父親なんて冗談じゃない。
　オレは能力を使い、とりあえず、この場をしのごうとした瞬間、峰地がオレ
の手を取った。
　そしてぐいっと手を引くと人垣を掻き分けて走り出していた。
「な、おい！」
　集中が途切れたため能力は不発に終わった。
「ちょっと、秋子！どこいくのよ！」
「早退する！私とフミのかばん隠しておいて！」
　と、あれよあれよと言う内に校外に連れ出された。

Tweet