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1:雪菜8 ~【矢と稲妻の書】その1~
投稿者:
液男
◆p.LufJKJx.
「【旅人と砂粒の書】の反応が途絶えました。
おそらく、書自体が破壊されたものと思われます……これ以上、量子マップ での追跡は不可能です」 「そうか。あれを放出してから、まだ一ヵ月しか経ってないのにな……。 書を拾った奴が、自分の意思で始末したのか……それとも、あの書の能力に 勝てる魔法使いが出現したのか……? まあ、どちらにせよ、書そのものが無くなってしまったんじゃ、これ以上の 実験は無意味だな」 薄暗い部屋の中、男がふたり、テーブルを挟んで言葉を交わしていた。 まるで、何か邪なことを企んでいるかのように、声を潜めて、慎重に情報を やり取りしているようだった。 片方がささやく。 「しかし、【旅人と砂粒の書】のような強力な魔法書を使い捨てにしてよかっ たのですか? どのような遠大な目的があるにせよ、あなた自身があの書を使いさえすれ ば、一瞬で叶えられるはずでしょうに」 もう片方は答えた。 「残念ながら、その考え方は正しくない。あの書の能力は、願いを叶える時、 主観的な願いしか叶えられないという欠点がある。 例えば、そうだな。君に、病気の恋人がいたとしよう。不治の病にかかっ て、今にも死にそうな恋人だ。その恋人を助けるために、君があの【旅人と砂 粒の書】に願ったとしたら、何が起きるか? 次の瞬間には、君は病気が完治した恋人に出会えるだろう。主観的には、問 題は解決される……。 しかし、それは君自身が『恋人の病気が治っているパラレルワールド』に移 動しただけのことで、もともと君がいた世界には、治らない病気で苦しむ恋人 が取り残されることになる。客観的に見て、これは問題が解決されていること になるだろうか?」 「なりませんね」 「そうさ。結局のところ、あの書にできるのは、持ち主を夢を叶えるという困 難から逃げ出させる、というだけのことに過ぎない。俺は、あんな書の力に頼 らず、自分の力で目標を達成したいんだ。他ならぬ、この世界でな」 「……わかりました。それで、これからどうします? 【旅人と砂粒の書】を 使った実験は破棄するとして、次は何をしましょう?」 問われた男は、ニヤリと唇の端を歪ませて、答えた。 「同じさ。他の魔法書で実験をする。魔法を、世の中に対して無作為に使用 し、影響を与え……そこから先は、結果を見て決めるのさ。 そうだ、いいこと思いついた。お前、俺の魔法書を実際に使ってみろ」 「え~っ!? 僕が、ですかぁ?」 その思いつきに、提案された方は驚きの声をあげる。 「男は度胸! 何でも試してみるものさ。案外、病み付きになるかもしれない ぜ……お前さん、魔法を使った経験は?」 「あ、ありません。空間移動の痕跡を追跡する量子マップだって、科学的なセ ンサーですから」 「そうか。だったらなおさら頼むよ……実験には、魔法に詳しくない、自由な 発想で魔法書を使ってくれる奴を起用したいからな」 「わ、わかりました。本当に、自由に使っていいんですね?」 「ああ。欲望のままに、遠慮なく使いな。ちょうどいいのを、今選んでやる よ」 そう言ってテーブルから立ち上がり、壁際に寄る。そこには、大きな本棚が しつらえてあって……大量の本が、整然と並べられてあった。 驚くべきなのは、その本棚に並んでいる本が全て……古い、革装丁の書物 (我々は、この体裁を知っている!)……その本棚に並んでいる本が全て、魔 法書であるということだ! その数は、ゆうに千冊を超えていた。 「世界中から集めた、俺の宝物……これを全部浪費してでも、俺は俺の願いを 叶える……。 ああ……お前さんにはこれがいい……受け取れ、【矢と稲妻の書】だ……」 彼は、一冊の本を取り出し、仲間に手渡した。 受け取った方は、かしこまって頭を下げ、感動に震える声で言った。 「謹んで、お受けいたします。『詩人』様……」 その言葉に、男は……詩人は、満足そうにうなずく。 大量の魔法書を所有する男、詩人。その魔法書で、なにやら怪しげな実験を 行なっている男、詩人。その実験によって、世の中にどんな影響が出ても、ま ったく頓着しないであろう危険な男、詩人……。 その詩人が何者なのか、誰も知らない。 ・・・・・・。 「なあなあ。今日の昼休みさ、ガッコ抜け出して駅前行かねぇ?」 ある日、学校に行くと、悪友の岸野が、そんな誘いをかけてきた。 「昼休みに駅前? なんでそんなハンパな時間に行くんだよ。あそこのゲーセ ンなら、放課後だって行けるだろ」 ハンパな時間のサボり勧誘に、俺は露骨に気が進まないという言い方をして やった。 しかし岸野は、人を馬鹿にしたように肩をすくめ、かえって強く言ってき た。 「ばっか、ゲーセンじゃねぇよ。目的は駅前の商店街だ。今日の昼、あそこに 『地元悠々ぶらり散歩』のロケでテレビの撮影隊が来るんだよ! それを見に 行くのさ!」 その番組なら、俺も知っていた。くじ引きで適当な街を決めて、そこにタレ ントが出かけていって、地元の名物なんかをレポートする人気番組だ。平日お 昼の生放送番組としては、『い○とも』に並ぶ視聴率を取ってるとか取ってな いとか。 「そんな全国区の番組が来るってだけでも珍しいのに、その上、今回のレポー ターはあの桃川美月だぜ? こりゃ、見に行かない方が難しいだろ!」 その名前も知っていた。19歳のグラビアアイドルで、中学生みたいな童顔 とHカップのバストを併せ持つ、なんとも男心をくすぐる美人だ。水着姿はも ちろんセクシーだが、トークも上手で、最近はバラエティ番組を中心に露出が 増えている。 「桃川三月といえば、岸野。こないだの深夜番組で着てた、女教師のコスプレ はエロかったな?」 「お! お前もアレ見たか。やっぱ巨乳が白いブラウスを着ると、ふくらみが 目立っていいよなー。あと、タイトスカート最高」 「同感同感。でも、ナース服もよかったよな。あんな看護婦さんに、シモの世 話とかしてもらいてぇ」 男同士が友情を深めたければ、猥談をするに限る。というわけで、俺たちは 始業前の時間を楽しく有意義に使っていたわけだが、その価値を理解しない人 物が、ここに介入して来た。 ぱこん、ぱこんと、俺と岸野の頭の上を、丸めた教科書がスキップしていっ た。 「ふたりとも? そういう話をするなとは言わないけど……女子のいる教室で は、もう少し小声でやりなさいな」 「げっ、生徒かいちょ」 笑顔で、しかしその奥に静かな怒りを秘めた雪菜さんの登場である。 彼女は、俺たちが通う高校の生徒会長をつとめている。成績も素行もよく、 リーダーシップにも優れる彼女は、いかにも絵に書いたような生徒会長だった ため、クラスメイトからも、名前より「生徒会長」という役職で呼ばれること の方が多かったりする。 「ちぇー、なんだよー、いいじゃんいいじゃーん。エロい男子を嫌う女は、彼 氏できねーんだぞー」 「あら。エッチなお話が大好きな、いかにも男の子らしい岸野君が、女の子み たいなジンクスを口にするなんてね。今日は槍でも降るのかしら。 まあ、そんな戯言はどうでもいいとして、もうそろそろ始業の時間よ。さっ さと自分の席にお戻んなさい」 岸野を野良犬のようにしっしっと追い払って、奴がいた俺の隣に、今度は雪 菜が立つ。 「……で、あなたは、女教師とかナースとかの格好をした、グラビアアイドル がお好みなのかしら」 「イエ、モチロン雪菜サン一筋デス」 ガラスの棘みたいに鋭い視線で睨まれると、俺はもう彼女の奴隷になるしか なくなる。将来は愛妻家になるつもりだが、恐妻家になる可能性も高い。 「ふーん? 何なら今夜は、桃川美月……だっけ? そのアイドルそっくりに 変身してあげてもいいわよ? ただしSMプレイ限定ね。桃川美月を見るのも嫌になるぐらい、縛って叩い て蝋燭を垂らしてあげるわ」 「イエイエ何ヲオッシャイマスヤラ、アリノママノ雪菜サマトラブラブシトウ ゴザイマス」 耳元で、甘ったるい声で……刺激の強いことを囁かれる。 学校や人前でこそ真面目人間な雪菜だが、俺とふたりっきりの時はエロの塊 のようになる。今朝も実は、学校に来る前に、朝勃ちをかるーく処理してもら った。生徒会長らしい清楚な雰囲気を漂わせる雪菜の唇が、つい数十分前には 俺のチンポをしゃぶっていた……それを思い出すだけで、また性欲が頭をもた げそうになる。 「ふふ、アイドルばかり見るようになっちゃったら困るけど……あなたがエッ チな気分になることは、私は大歓迎よ? それだけ、私とくっつく機会が増え るってことだもの」 そう言って、笑顔と甘い香りを残して、彼女も自分の席に戻っていった。 この短い会話のせいで、本格的にまたチンポが勃ってまった……次の休み時 間にでも、また雪菜に処理してもらうことになりそうだ。 その日は、そんな風にいつも通り、平和に始まった。 異常が起きたのは、昼を過ぎてから……しかも、この高校から少し離れた、 駅前でのことだった……。 つづく。
2010/07/02 23:21:50(ZiuHaeXC)
2
削除済
2010/08/10 02:28:43(*****)
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