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内藤久美子は52歳の誕生日を迎えた。東北のI県遠〇市の市営博物館の館長となって3年、5月5日の誕生日は博物館のすぐ裏の丘の上にある公園の芝生広場で家族でお弁当を食べながら祝ってもらっていた。ゴールデンウイーク終盤でありながらこの広場を囲むように立ち並ぶソメイヨシノは満開だった。
「今年も満開ね」咲き誇る桜を見渡しながら娘の美咲は微笑んだ 「すごい綺麗ですね」妹の美波の夫の志村裕二が関心している。飲食店を営むこの男は34歳、身長も低い方で小太りである。美波は自分の過去をすべて受け止めくれた10歳年上のこの男と3年前に結婚して、2歳の女の子の恵を連れて来ていた。 12年前、あの事件の後、美咲の励ましもあり、久美子は男の子を出産した。名前を辰徳と名付けた。もちろん男の父親は夫で大学教授の修二ではない。事件で母親に無理心中を強いられた「中野貴教」の忘れ形見である。久美子が精神的に立ち直るのに2か月の入院を要した。退院した時、すでに美波は妊娠していた。実の父、修二の子を。家庭内で不穏な空気が流れた。結局母と娘のお腹の中の子供を出産することで話がついた。だが、まだ小学6年生の美波の身体は耐えきれず、妊娠3か月目で流産してしまった。なんとか無事出産を終えた久美子は辰徳を溺愛した。その姿をうとましく思うようになっていた美波は14歳の時に家出をした。父親は娘を昼夜とわず探し回り、憔悴しきったある日、車で事故に遭い、この世を去った。その3か月後、美波はふらっと帰宅した。父親の死を知らないまま、大学生の部屋に転がり込んでいたのだという。その大学生の部屋を追い出され、やむなく家に戻った美波は妊娠していた。父親の死を知った時、悲しみに暮れた美波はまたもや流産することとなった。その後、S県を去った親子は久美子が高校時代を過ごした遠〇市に引っ越して新たに歩みだした。 「ママ、キミちゃんたち来たよ~」10歳、小学5年生になった辰徳が駐車場の方向を指さし走り出した。そこには高田美智子と娘の貴美の姿があった。高田美智子の夫・裕介は3年前にこの世を去った。その時、彼の人生とあの凄惨な事件の真相を妻に全て語った。そして事件後、内藤久美子という女性が、昔、息子の裕太が傷つけた女性であったことを知り、謝罪をしようとした時、すでに引っ越してしまっていたことを語った。夫の遺志を伝えたいと思っていた美智子がある新聞記事で内藤久美子が遠〇市の博物館の館長に就任したという写真入りの記事を見て、駆け付けて来た。そこで、全てを離し、そして自分の娘が辰徳の腹違いの姉弟であることを黙って、二人を引き合わせた。それから家族ぐるみの交流が広まり、久美子の誕生日に駆け付けて来たのだ。 「さあ、みなさん、牛タン弁当、温かいうちにどうぞ」娘婿の手製の弁当は皆楽しみにしていた 「美波ちゃん、優しい旦那さんもって幸せね」美智子は美波に微笑んだ 「そうですね、それしか取り柄がないんで」 「おい」裕二が妻を一瞬睨んだがすぐに笑顔になった 「たっくんとキミちゃんもたくさん食べな~」美波は辰徳と貴美に弁当を差し出した 「キミちゃん、あっちで食べようよ」辰徳は丘から広がる景色を一望できる岩を指さした 「うん、行こう、たっくん」二人は弁当を持って駆け出した 「ふたりはほんと仲いいわね」美咲が母に語り掛けた 「そうね」久美子の心に嫉妬に似たものが沸いているのを娘は気づくことは無かった…
2020/11/01 16:22:47(N8wZiRRM)
美波たちは食事が終わると仙台に戻って行った。夜には店に出たいと裕二は思っていた。
「たっくん、バイバイ~」別れ際に2歳の琴美が辰徳に抱きつき頬にキスをした 「それじゃ気を付けてね、ありがとう」母の久美子が手を振る 「琴美ちゃんまたね、裕二さんありがとうございました」美咲が裕二に会釈をする 「美波ちゃん、裕二さんにサービスしてあげてね」美智子が満面の笑みを浮かべた。美智子は仙台に住んでいるので、ちょくちょく裕二の店にも顔をだしている。 三人を乗せたランドクルーザーが走り出した。 「しかし、お母さんいつまでたっても若いな~」後ろの席の琴美が眠ったのを確認して裕二は美波に語り掛けた 「そうね、まるで誰かに見せるために若さを保ってるみたい」 「誰に見せるんだよ」 「少なくともあんたじゃないから安心して」 「おいおい」 「似てきてるんだよね…」 「誰に?」 「たっくんがね、ノンに」 「ノンって、あの事件で死んだ子か?」 「うん」裕二は事件の真相を美波から聞いていた。裕二自身若い頃はかなりの悪で、母親を犯した経験もある。そのことは美波にも話してあった。 「女の嫉妬ってすごいね、またあの時みたいにならないといいけど…」 「おい」 「さっき、見た、琴美が、たっくんにキスしたら貴美ちゃんほっぺ膨らませてにらんでたよ」 「おお、まじか!」 「それだけじゃない、ママもお姉ちゃんも、美智子さんだって、三人の圧すごかったんだから」 「お~怖」裕二は両手を上に向けポーズを取った 「それじゃわたし先に職場に戻るね、みんなありがとう」主役の久美子は仕事に向かった。 「わたしは片づけしてから夜勤にそなえて仮眠するね、美智子さん、たっくんをお願いします」 「ええ、わたしの入る余地ないかもね」さっきの琴美のキスに刺激を受けた貴美は辰徳にべったりだった 「それじゃ、博物館に行こ」三人は景色を見ながら公園から石段をおり、久美子の勤める博物館に向かった。辰徳と貴美はしっかりと手をつないで石段を楽しそうに降りてゆく。その後ろを少し遅れて美智子は歩いた。同学年の二人、辰徳が頭分背が高くなっていた。いて年前は同じくらいだったのに。ノンも1年で身長が伸びた、中学2年の頃だった…、このまま辰徳がノンに似て成長したら、美智子は自分を抑えきれないだろうと思っていた。
20/11/01 20:48
(N8wZiRRM)
久美子の勤務する博物館は図書館と隣接されている。久美子の勤務終了時間まで3人は博物館と図書館で過ごすことになっていた。2年前にリニューアルされた博物館の目玉は巨大スクリーンに遠〇地方に伝わる民話とアニメで上映しているコーナーで、最大100人を収容出来るようにベンチが5列に並んでおり、階段状の最後尾が一番高くなっている。この日は60%が埋まっていた。
「たっくん、去年より背が伸びてカッコよくなったね」上映が始まると周辺が暗くなる。貴美が辰徳の耳元で囁いた。前の席に美智子が座っていて、なおかつ柱の陰で、小学生の二人はほとんどの人々からは死角に座っていた。 久美子は館長として提示の見回りを行っていた。上映コーナーに差し掛かっり、出口の方向から客席を見渡した。ほとんどの客がスクリーンにくぎ付けになっていたが、最後尾の小さな二人がスクリーンを見ていない。二人はお互いを見つめ合っているのだ。辰徳と貴美だった。やがて客がスクリーンの内容に引き込まれるかのような感嘆の声を上げた時、少女の顔が少年の顔に近づいた。二人の口唇が重なった。 久美子は眩暈がして館長室に戻った。小学生同士のキスシーンを見かけただけだと自分に言い聞かせる。だが、体中の血液が逆流しているような錯覚に襲われ、天井や壁がぐるぐる回っている。嫉妬…、小学生同士の戯れのキスに激しく嫉妬している自分を久美子は恥じた。だが、辰徳への想いが、あの日の貴教への想いに重なっていた。 「いけない、何度同じ過ちを繰り返すの…」久美子はつぶやき自分を戒めた…
20/11/02 12:55
(dIV3f9ug)
美咲はシャワーを浴び仮眠を取ることにした。看護師になって5年、あっという間だった。覚えることがたくさんあった。内科の病棟に勤務し、患者の声に常に耳を傾けるようにしていた。美咲が看護師を目指したのは、あの惨劇を目にしたことが大きな原因だった。愛する少年が血だらけになっていた。全裸の母の下になり、穏やかな顔をしていた。その場で手当てが出来たら命は助かったかもしれない、そう思っていた。そんな美咲の心の闇を見破ったのは内科医の相田医師だった。
「内藤さん、今夜食事に行かない?」初めて相田医師に誘われたのは2年前のことだった。 「すいません、わたし」 「さすが難攻不落の美咲状城、誰一人君を食事に誘えた医師はいない。でもわたしなら君と分かり合えると思うよ」 「はあ…」 「君は過去を背負っていきているようだね」 「えっ?」 「顔に図星だと書いてあるよ」 「…」 「話だけでも聞くよ」 「はい、お願いします」患者たちに相田医師のカウンセリングは好評だった。自分も心の闇をさらけ出すことで次の一歩が踏み出せるかもしれない、そう美咲は思った 個室のダイニングバーで二人は向かい合った 「内藤美咲くん、美咲でいいかな」 「ええ、相田先生のことは何と呼べばいいですか?」30代前半と聞いていたその医師は美しい目をしていた。 「親しくなった子にはいつもノンって呼んでもらってる」その言葉を耳にして美咲はしばらく口を半開きにしたまま動けずにいた 「どうした、美咲」ノンと名乗ったその医師は席を立ち、美咲の脇に腰かけた 「ごめんなさい、ちょっと」美咲はうつむいた 「よかったら、わたしの部屋で飲みなおさないか、美咲」耳元で囁かれた名前、それは初めてあの少年に抱かれた時、耳元で彼が変声期前の声で囁いたときとそっくりだった 「もう一回、名前を呼んでみてください」美咲は哀願した 「美咲」相田医師の声に美咲は涙が止まらなくなっていた
20/11/03 02:24
(oIhcE1iR)
相田医師は病院のすぐ近くのマンションに住んでいた。最上階エレベーターが到着すると美咲は少し緊張していた。
「大丈夫、君の話を聞くだけだから」うながされ美咲は玄関に入った。あまり装飾品の無い壁、リビングにはソファーとテレビがあるだけだった。 「何飲む?」 「あの、母に連絡してもいいですか」 「ああ、お泊りしますって正直に言える?」 「えっ?泊まるんですか?」 「ああ、朝までかかるんじゃない、耳元で名前を囁かれただけで涙が出るほど積もる話があるんだろうから」 「もう言わないでください、恥ずかしい」美咲は母に電話を入れた 「お手製の梅酒のロックだけど」相田医師は二つのグラスとつまみのナッツをテーブルの上に置いた 「さあ、話してごらん、美咲」耳元で囁く相田医師。 「はい」口唇を噛み締めた後、グラスに口をつけ、一口飲むと美咲は口を開いた 「ノン先生」 「先生はいいよ、ノンで」 「はい」 「それから敬語は使わないでいいよ」 「うん、あのね、わたし、15歳の時に大好きな男の子がいたの」 「中学の時?」相田医師もグラスに口をつけた。すぐ隣で美咲を見つめる 「そう、中学3年の時、わたしは4月生まれで、その男の子は3月生まれで、弟みたいで可愛がってたの」 「へえ~、男嫌いの美咲の初恋の話かな」 「そう、その男の子とは近所に住んでたんだけど、小学生の頃、同じ空手道場に通っててそれで意識するようになって」 「へえ、美咲は空手をやってたんだ、あまり怒らせないようにしないとね」 「昔のことだから、でもヘッドギアとグローブつけて組手をしたりしたんだけど、その男の子は一度もわたしに勝てなかったの」 「へえ~、だから弟みたいに可愛がってたわけ」相田医師の笑顔はとても魅力的だと美咲は思った 「そうかも、でもね、一番気になったのは中学に入ったばかりの頃その子急に元気が無くなって、どうしたのって聞いたら、叔母さんが結婚したって言って」 「叔母さんを女性として意識してたのかな」 「そうみたい、お姉ちゃんって呼んで、小学校5年生まで一緒にお風呂に入ってたんだって」 「5年生っていったら女性の裸を見たら興奮するだろう」 「そうなのかな、今、弟が3年生だから、もうすぐお風呂一緒に入ってくれなくなるのかな」 「寂しいの、入ってくれなくなると」 「うん、我が家のアイドルみたいな存在なの。疲れて帰るといつも笑顔でお帰りって言ってくれて、その笑顔を見ると疲れが吹っ飛んじゃって、ギューって抱きしめちゃうの」 「それって、世の中で言う、ショタコンっていうやつじゃない」 「それだけじゃないの」 「それだけじゃないって?」美咲はグラスを空けた。覚悟を決めると相田医師の目を見つめて言った 「似てきてるの、だんだん、初恋の男の子、ノンに」
20/11/03 02:53
(oIhcE1iR)
「初恋の男の子ノンって言うんだ。偶然わたしと同じニックネームだからさっき涙が出ちゃったの?」相田医師は美咲の髪を撫でた。
「声が似てるの、あなたとノンの。初めてひとつになった時、彼はまだ14歳で声変わりしていなかった。だから少し高い声で、わたしの耳元で囁いた時の声とそっくりだったの」 「そうだったのか、さすがのわたしもびっくりしたよ」 「ごめんね、もう少し話していい?」 「ああ、いいよ、梅酒のおかわり持ってこようか」 「うん、おねがい」 「それじゃ、お代はその口唇で」 「はい」美咲は相田医師の口唇に自ら口唇を重ねた 「それじゃ君が現在進行形で気に入ってくれているノンの話じゃなくて、初恋のノンくんの話をもう少し聞かせて」相田医師は優しい笑顔で美咲の話を促した 「うん、ノンはね、可愛いから皆に愛されたの、母親の美咲さん、叔母の美智子さん、担任の先生の莉穂さん、そしてわたしの母の久美子」 「君を入れると5人の女性に愛されたことになるけど、でも君が一番深い関係になったんだよね」美咲は相田医師に身を寄せ、その細い身体にピタリと身体を押し付けた。微かに震える看護師を医師は抱きしめた 「わたしが一番浅い関係だったの」 「浅いって、君は彼とひとつになったって言ったけど、彼は他の四人とも関係があったのかい」 「あったの、わたしより深い関係」 「深い関係って…」 「4人とも彼の赤ちゃんがお腹にいたの」 「…」医師は言葉を失っていた 「わたしの愛したノンはみんなに愛されて、彼を愛した女性たちは皆彼との愛の証を欲しがったの」 「ごめん、わたしの理解を超えている。ノンくんは母親を妊娠させたってことなのかな」相田医師の表情から動揺が浮かんでいるのがわかった。美咲はその顔を見上げ、そして頬に手を触れた。 「そう、叔母さんも、先生も、わたしの母も」相田医師は震えながらグラスを空けた 「この話、やめる?」美咲は鼻の頭を医師の鼻の頭に付けた。医師は美咲の口唇を激しく奪った 「聞かせてくれ、君の闇の全てを」そう言うと美咲の口唇を割って舌を侵入させた。
20/11/03 03:26
(oIhcE1iR)
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