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里帆の物語 外伝 -灰色の瞳-
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:里帆の物語 外伝 -灰色の瞳-
投稿者: 妄想爺 ◆wHoMdhqds6

<灰色の瞳 -その1- >

それはまだ私が神様を信じていたころ、
6月の、とある土曜日。
大学からの帰りに、突然の雨。
駅前の商店街の外れで雨やどりをしていた時のこと。

駅とは反対方向から制服姿の少女が。
踊るように、弾むように、軽くステップを踏みながら。
ずぶ濡れの細い肩。
長いまつ毛にかかる黒髪をかき上げた、
その刹那、目が合いました。
彼女は泣いていた。号泣でした。
悲しみに満ちた灰色の瞳に、
私は一瞬で恋に落ちたのでした。

 
2020/01/05 06:37:54(fy2cU9sf)
2
投稿者: 妄想爺 ◆wHoMdhqds6

<灰色の瞳 -その2- >

臨床心理士として様々な現場を経験してきた私に、
ある高校のスクールカウンセラーの依頼がきた。
その高校には、あの『灰色の瞳の少女・里帆』がいた。

彼女の告白は、今までに見聞したことがない衝撃的な内容だった。
葛藤する彼女を何とか救いたいと思った。

「愛」などという曖昧な言葉を信じてはいなかったが、
もしこの世に愛が存在するのだとしたら、
この時の感情こそが、そうだったのかもしれない。

丁寧なカウンセリングを続けた結果、
里帆の精神は、少しずつではあるが、落着きを取り戻していった。
「先生、先生」と笑顔で話しかけてくるようになった。

しかしその一方で、噂話が独り歩きをして、
校内や狭い町に広がりつつあることも知っていた。


「それじゃあ、また1週間後に。」
そう言った私の言葉に、彼女は軽くうなづき、
何も言わずに部屋を出ていった。
そんな彼女の横顔を、
私はただぼんやりと見ているだけだった。


1週間後、里帆から短い手紙が届いた。
「先生、ありがとう。さようなら。」
卒業を待たずに、里帆はこの町から出て行った。

手紙の最後には、あの大きな灰色の瞳からこぼれ落ちた
涙の跡が、ひとしずく...

20/01/05 06:38 (fy2cU9sf)
3
投稿者: 妄想爺 ◆wHoMdhqds6
<灰色の瞳 -その3- >

「そうか、大変だったな。」
心優しき先輩は、時折「うんうん」と相槌を打ちながら、
私の話を聞き終えると、
そう言ってビールを差し出した。
「その彼女、今はどうしているんだろうな。
幸せに暮らしていてほしいよな。」

お互いの近況報告をして、店を出た。
先輩と別れ、滅多に来ない都会の繁華街の外れを、
ひとりふらふらと駅に向かって歩いていた時、
聞きおぼえのある声に足が止まった。

「おにいさん、おにいさん。遊んでかない? サービスするよ。」

場末の風俗店の呼び込みだった。
茶髪のボブ、厚めの化粧。
やはり別人か?
確かめたい衝動と、知りたくない焦燥。

うつむき加減で、通り過ぎようとした。
こちらを見た。一瞬目が合った。
こげ茶色の瞳、やはり別人だ。

「せ・・・社長さん、社長さん。寄ってかない?」

足早にその場を通り過ぎた。
そのあと、何度も振り返ったが、彼女は一度もこちらを見なかった。
「声は似ていたが、やはり別人か。
こんなところにいる筈がない。
いや、いちゃいけないんだ!」

「マネージャー! おしぼり頂戴。 今日も暑いわ。」

彼女は、おしぼりを受け取ると、コンタクトを外し、
大きな灰色の瞳からポロポロとこぼれ落ちる大粒の汗を、
何度も何度も拭っていた。

-完-

20/01/05 06:39 (fy2cU9sf)
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