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京都
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:京都
投稿者: オースター ◆CDDi1fgMw2
ID:kafka18
乗車した列車内、自由席の車両で、できるだけ周りに人がいない席を選んだ。
窓際に座り、隣の席にはバックパックを置く。
車内が混み合うまでこうやって自分だけの空間を確保した。
7月30日、私と同じ学生以外はまだ夏休みに入ってないから、
品川駅から乗車した新幹線自由席に人はまばらだった。
いつまで一人で座っていれるかな?
京都に着くまでこうして一人、窓の外を見れていたらいいのにそう思った。。

乗車前に母さんから貰ったお昼ご飯。コンビニのサンドイッチとカフェラテ。
母さんは、私がコーヒーを飲めない事も憶えていなかった。
品川駅まで送ってくれた車の車内、母さんと私は黙ったまま、
お互い、前を走る車のテールライトを見ていた。
母さんは浮気をしていた。
勤め先の上司と不倫をしていた2年間、
お父さんと私は母さんの変化に気づかなかった。
ずっと共働きだったけど、土日は一人っ子の私の為に必ず時間を作ってくれて、
家族三人で買い物や遊びに出掛けてくれた。
私にとって理想の夫婦、自慢のお父さんと母さんだった。
母さんは裏切っていた、私はそう思う。
浮気相手の上司の奥さんが不倫を疑い、弁護士を雇い、
真相が明るみになるまで、私とお父さんを母さんは裏切っていた。
弁護士からの一本の電話で浮気がばれた時、
お父さんは私にメールを一通送り、家を出ていった。
お父さんも弁護士を雇い、母さんと別れる事を決めている。
私は夏休み後にはお父さんと一緒暮らす事になる。
夏休みに入る直前、一人になりたくて母さんの実家、
京都のお婆ちゃん家に旅行に行く事を決め、
こうして新幹線に乗り、飲めないコーヒー入りのカフェラテとサンドイッチを、
備え付けの小さな机に置いたまま、窓の外を見ていた。

「ここ、いいですか?」
低い声、スーツを着た男性のその一言で、
私のささやかな一人だけの空間は、新横浜で終わってしまった。
私は立ち上がり、隣の席に置いていたバックパックを、席上部、
荷物置きに置こうと、低い背と手を伸ばして、重いそれを持ち上げた。
スーツを着た男性は、うまく荷物置きにバックパックを持ち上げれない私を見ると、
何も言わず私のバックパックに手をつけ、持ち上げ、軽々荷物置きにそれを乗せた。
「すみません…」
私はそう言って席に座る。スーツを着た男性は何も言わずに私の隣に座った。
30代後半から40代、綺麗にスーツを着ているが、顔の皺から大体の年齢が分かる。
私のお父さんと同じ歳、それより上かも知れない。
小さなスーツケースとブリーフケースを持参して、出張にみえた。
私は窓の外を見ながら友達にメールを送る為、携帯を開いく。
母さんからメールがきている。絵文字も使わず、たった一言
“気をつけて”

不倫が発覚する前までは、共働きのお父さんも母さんも毎日メールをくれた。
母さんは、
“今日はおそく帰るからご飯は自分で作って”
顔文字を使って優しく申し訳なさそうな気持ちが伝わるように、
メールを作り、送ってくれた。
お父さんが一ヶ月前に家を出て、とりあえずの二人きりの生活になった後、
母さんは仕事を辞め、一人家に閉じこもった。
“仕事、どうするの?”心配だったからそうメールした事がある。
同じ家の中にいる二人なのに携帯のメールで会話をした。
“また探すわ”そう一言だけ返信があった。
不倫相手と一緒になるの?
お父さんとはやり直せないの?
どうして私とお父さんを裏切ったの?
おそく帰る日はいつもその人と会っていたの?
私は聞きたい事も沢山あったけど不倫の事を咎めなかった。

「そのお弁当と、アイスコーヒーください」
隣に座ったスーツを着た男性が、列車内を売り歩くワゴン販売の女性に声をかけた。
「申し訳ありません、ただいまアイスコーヒーが売り切れています。」
七月の終わり、日中の列車内で、皆、冷たい物を求めている。
「ああ、そう、じゃあお弁当だけ。」
男性はお金を渡し、お弁当を受け取ると、備え付けの机に置いた。
私はなぜだか窓枠に置いたままのカフェラテを手に取って、男性の机の上に置いた。
「飲まないから、どうぞ」
さっき、荷物を持ち上げ、手助けしてくれたお礼の気持ちだったのかも知れない。
自分でもはっきりしない、ふと、そうした。
「ああ、いいの?」
男性がこちらを見ながらそう言うと私は無言でうなづいた。
「ありがとう」
男性は低い声でそう言った。

私は男子と付き合った事がない。
好きな人はいたけど、進学して疎遠になって恋心は置きっぱなしになった。
彼は今どうしているのだろう。
お父さんと手をつないで歩く年齢ではないし、
カフェラテを渡したその行為は久しぶりの男性との会話だった。

相手弁護士から電話があり、訴訟になるぞ、とお父さんが母さんを大声で罵倒していた時、
その夫婦最後の会話は、私の部屋の中まで聞こえた。
なぜだと問い詰めるお父さんに母さんは
“女だからよ”
そう言っていた。“女だから”?私には分からなかった。
お父さん以外の男性を求めた母さんの気持ちが分からなかった。

私は隣の席に座る男性がカフェラテを手に取りストローを差す、その手先を見ている。
スーツ袖から見える肌、血管の浮き出たその手、その大きな手に、女性にはない男性らしさを感じた。

名古屋に近づいた時、ワゴン販売がまた列車内をまわり、私の席で止まった。
「先ほどは失礼しました。」
ワゴン販売の女性がアイスコーヒーを持ち、男性に渡すと男性は
「ああ、わざわざすいません」と言った。
そのまま私を見て「アイスクリーム食べれる?」そう聞いた。
私が答える前に男性はアイスクリームを一つ注文してワゴン販売員からそれを受け取る。
カップアイスを私の机に置き、
「どうぞ、さっきのお礼。」と言った。
私は血管の浮き出た手から渡されたそのカップアイスクリームを、
無言で手に取り、蓋を開ける。
男性はプラスチックのスプーンの袋を破り、それを私に渡す。
「一人なの?」男性がそう言った。
私はアイスクリームをスプーンですくい一口食べ、
スプーンを口に入れたままうなづいた。
「京都のお婆ちゃん家に」
スプーンを口から出しそう言った私に男性は
「夏休み?」
と聞いた。うんと、うなづいた私に男性は、
アイスコーヒーが入ったプラスチックのカップにストローを差しながら
「同じく京都だよ」と言った。
私は窓の外を見ながらアイスクリームを食べた。
列車は勢いよく走り、私はお父さんと母さんからどんどん離れていく、そんな気がした。

米原に着く際、私はお手洗いに行きたくて席を立った。
隣席の男性は立ち上がった私に気づき、備え付けの机を元に戻すと脚を引いた。
私が男性の前を通り過ぎる瞬間、男性の目が私の脚を見ている気がした。
ショートパンツにTシャツ。脚を見せつけたいわけじゃなくて、
流行ってるからそんなファッションだった。
お手洗いの鏡で髪を束ね直しながら、自分の脚を見た。
あの男性は私を“女”として見たのかな?そう思った。気持ち悪いと思うより、
お父さんより年上かも知れない男性に、女として見られた事が気になった。
私がお手洗いを出た瞬間、丁度その時に、
隣席に座る男性が車両の自動ドアを開け、こちらに向かってくる。
目があった瞬間、
「これ…」と男性が私に紙を渡した。それは紙のお手拭きで、
そこにボールペンでメールアドレスが書かれていた。
「出張で京都に行くのだけど、何かあったらメールください」
そう当たり前の事のように言いながら紙を渡すと、
そのまま男子トイレに入ってしまった。
私は席に戻り、その紙を財布に入れる。
“なにか”って何?そう思いながらまた自分の脚をみた。

男性もお手洗いから戻り、二人、席に並ぶとお互い無言になった。
私は窓の外を見て、男性はパソコンをいじっている。
列車が京都に着く前に男性は荷物をまとめると、立ち上がり、
私のバックパックを荷物置きから下ろして座っていた椅子に置いた。
「ありがとうございます。」
私がそう言うと男性は少し笑顔になるだけで、その場から立ち去った。
私は机に置いた財布を手に取り、中からあの紙を取り出して、
それを見ながら、あの血管の浮き出た手を思い出していた。

母さんにはメールを返信しなかった。送る言葉がなかった。
お婆ちゃんの家で畳の上に寝転び携帯電話を開いて、お父さんにメールを送る。
“京都に着いたよ”そう送ったが、
いつも忙しく残業をしている人だからすぐには返信がない事は分かっていた。
私は進学する前からの友達にメールを送る。
“京都だよ、いいだろう”
京都駅の写真付きのメールを送る。
幼馴染の女子同士、なんでも話すけど、両親の離婚の話はしないでいた。
すぐに返信がくる。
“いいな!京都!お土産に恋愛のお守りちょうだい”
そういう内容だから私は“好きな人でもできたの?”と返信した。

目的もなく来た京都。私はお婆ちゃんの薄味の手料理を朝から食べて携帯をいじる。
昨晩頼まれた恋愛のお守りを手に入れようと検索していた。
お婆ちゃんは家族の事情を知っている。だから私に優しくしてくれた。
京都を案内するよと言ったお婆ちゃんの優しさを断り、一人神社まわりをする事に決めた。
有名な神社、カップルで賑わう神社で恋愛のお守りを手に入れた。
それを写真を撮って友達にメールを送ればすぐに返信がある。
“ありがとう!”
私は嬉しくて
“だーれ?相手は?”と聞いた。
“◯◯君”
返信に書かれたあったその名前は私がずっと好きだった人の名前だった。
置きっぱなしにした片思いの相手。
“◯◯君と付き合ってる”
そんな内容のメールに私は“うまくいくといいね”とだけ返して携帯を閉じた。

暑い京都、私は見知らぬ街の見知らぬ駅で、ベンチに座り、
缶ジュースを開け、携帯を手に取り、いままで母さんが送ってくれたメールを読み返していた。
すごく寂しくなっていますぐお父さんでも母さんにでも電話をしたかったけど、
家族の距離は、東京と京都のその距離よりも離れていた。
もう二度と届かないくらい。

私は財布から、新幹線車内で受け取ったあの紙を取り出して、
あの人にメールを送る。
“寂しい”と送った私。
“人前じゃ会えないからホテルでおいでよ”と返信がある。
それがなにを意味しているか分かっていた。
私は“うん”とだけメールを返して、どうにでめなればいいと、女になる覚悟を決めた。

2012/07/04 20:42:15(OFEqkepo)
2
投稿者: まるせですベンリ
この主人公には
すきな人と結ばれて欲しいです。
12/07/05 00:29 (lVgJL3kY)
3
投稿者: ハニー ◆6vL./pYpzY
早まらないで欲しい… 助けてあげたい… 上手な文章に引き込まれました。ありがとう。
12/07/21 10:33 (t.4PW5d1)
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