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青い、あいつ 5
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:青い、あいつ 5
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c

人と関わるのは苦手だった

あいつは、あたしの、はじめての友達。






遠足なんて大嫌いだった。

バスの席だとか、課外活動の班だとか、そんなの出席番号で決めればいいのに、何故、友達同士で組ませたりするんだろう。

そりゃ、仲良しの友達と一緒なら、より楽しくて、より素敵な思い出になるんだろう。

友達のいるやつらは、ね。

それまで、遠足にいい思い出なんて一つも無かった。

遠足の写真はいつも、誰かの背後に亡霊のようにピントのずれたあたしがいた。ひどいときには、顔が切れていた。

さすがに集合写真はきちんと写ってはいたが、まぶしいのか、はたまた不機嫌なのか、可愛さの欠片もない仏頂面で写っていた。



バスの席決めなんて地獄だった。

三人とか五人とか、奇数人数のグループのうちの、ジャンケンで負けたやつがあたしの隣になる。



勝ったやつらは、「〇〇ちゃん、かわいそう…いっぱい話し掛けに行くからね!お菓子交換しようね!」と言い、

負けた〇〇ちゃんは「最悪…でも、頑張る!遊び来てね!絶対だよ!」と言う。





どう考えたって、一番かわいそうなのはあたしじゃない?



人に迷惑をかけないように気を使って生きているのに。

できるだけ気配を消して、空気のような存在になろうとしているのに。


班行動。先生が無理矢理、あたしをここへ入れた。ヨソモノのあたしは、黙って班のみんなに付いていく。

空気のように、影のように。せっかく入れてくれたんだ、嫌々でも入れてくれたんだ。迷惑かけちゃいけない、目立ってはいけない、無難に、無難にしなくちゃ…

みんなが話していることが皆目分からない。ワカラナイ。何ノハナシ?ソレ誰?…コレ日本語デスカ?


曖昧に笑ったままの表情を張り付け、黙々と必死に付いていく。

気付いたら、あたしは本物の空気になっていた。空気読みすぎて、本物の空気になっていた。本物の影になっていた。

居ても、居なくても、誰も気にしない。





痛い。お腹が痛い。もう帰りたい。

でもそんなわがまま言ったら嫌われる。だから黙っている。


みんなにあげられるようにと、たくさん持ってきたお菓子が、妙に重い。これ、一週間は食べ続けなくてはならないだろう。うんざりする。行きも帰りも、量が変わってない。うんざりする。


遠足なんて大嫌いだった。








あいつが転校してきて、はじめての遠足が迫っていた。


散々迷い、悩んだ挙げ句、思い切ってあたしから誘ってみた。


「ねぇ…よかったら…バス、一緒に…座らない?」



口の中がカサカサしていた。

…断られたらどうしよう。
目がチカチカして、あいつの顔が青い以外、真っ白になっている。どうかしている。なんて小心者だろう。

妙な青い顔を、見つめる。

三階の音楽室から、ヘタクソなリコーダーの音が聞こえる。この曲は…アマリリス?




「…うん、いいよ。ありがとう」


妙なダミ声を、聞いた。



白いカーテンが揺れている。校庭では日だまりのなか、元気な声と砂埃が混ざってぬるい風に舞っていた。



うん、だって…。ありがとう、だって!!



嬉しかった。ただ、嬉しかった。




普段、家では学校の話なんて滅多にしなかった。

というか、家族と話なんて滅多にしなかった。兄弟はいなかったし、両親は共働きであまり家に居なかった。あたしはあたしで部屋にこもってばかりだったから。





でもその夜、あたしは母親にまとわりついて話し続けた。

友達ができたこと、今度の遠足は和紙作りを体験すること、友達と一緒にバスに座ること、あたしから勇気を出して誘ったこと、

そしたら、ありがとうって言ってくれたこと、お菓子は600円までだけどもっと買っていこうと思っていること…。


近頃、夜勤続きで疲れきった顔をした母親は、面倒臭そうに、多分話のほとんどを聞き流していた。



それでも満足だった。



遠足の前日、あたしは眠れなかった。


行くのが嫌だからじゃない。

行くのが楽しみすぎて。
こんなことは初めてだった。



遠足のしおりを何度も読み返し、リュックを中身を出したり、入れたり。また出してみたり。明け方までそんなことを繰り返していた。


おかげで、楽しみだったバスではずっと眠っていた。


そのことをしきりに謝ると、あいつは笑って言うのだった。




「自分には気をつかわないでいいよ。疲れちゃうでしょ?」







あたしのはじめての友達は自分のことを「自分」と言う人だった。


あたしの最後の友達は自分のことを「自分」と言う人だった。



2009/01/27 18:19:52(zs18vber)
2
投稿者: hitomi..+
一気に読んでしまいました!
続き楽しみにしてます。
09/01/28 06:58 (lK4exvMQ)
3
投稿者: ヒロキ ◆KnFHojOWaA
今回も楽しみにしてました だんだんと話が発展してきたのでますます続きを楽しみにしてます
09/01/29 07:50 (b9y6QevR)
4
投稿者: れんじょう ◆olfXwKZhMM
ID:renjoh
ほとんど破綻がない。
頭のいい人、だから苦しんでしまうのでしょうね。

僕はその「絵本」を読んでみたい。
買えないんだろうなぁ。


09/01/30 12:55 (Uwa/dpLA)
5
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c
hitomi..+ さん、 ヒロキさん、 れんじょう さん

コメントありがとうございます。 お礼が遅くなってしまって…申し訳ないです。

これは、一時間くらいで一気に書きました。前作同様、こういう細かい話を繋げていく形になりますね。…それが一番楽で…(笑)

また読みに来て頂けたら嬉しいです。ありがとうございました。
09/02/01 23:48 (JIMzy9bI)
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