３０の夏、高卒、バイト歴なし、もちろん職歴も無い
そんな俺は世間から「ニート」や「負け組」の烙印を押されていた。

先ほどの陰気くさいイメージに狂いも無くぴったりとはまる俺は、いつのまにか引きこもってい
た、もう１５年にもなる

真剣に考えた、これから先親の迷惑をえさに生きていく自分を想像して吐き気がした。
毎日パソコンに向かい、テレビに向かい、はげ散らかしていく自分の頭に気を使いながらドア先に
置かれたえさを食べて生きていた。

ある日ネット上でこんな話を聞いた、「当たり屋は一回二回やっても死なないし、ニートにはもっ
てこいのバイトだ」と書いてあった、それは自ら事故に遭い慰謝料を貰うという事である。
最初は馬鹿げた話だなと思うも、日に日にそれが釈迦の指からおりたクモの糸かに見えた。
さすがに今の生活に入り浸るわけにはいかない、かといってバイトや就職面接に行く気にもなれな
い、甘ったれんなと言われそうだがこうゆう生活を１５年も続けてきたんだ悟ってくれないか。

１５年ぶりに外へ出てみた、近所の古本屋がつぶれていたし、小さい頃父とキャッチボールした空
き地は、こぎれいなアパートへと変形していた、まるで早送りの砂時計かのようにあの部屋は時間
を食べていたという事を実感した、かのつかの間僕の足は進むのを遅らした、向こうからやんちゃ
な若者たちが道を塞ぎこちらへやってきたのである、両脇年季の入った住宅の一車線の田舎道であ
る、高校生ぐらいだろうか、４～５人で元気よくというか、威嚇してるかのような高笑いとともに
闊歩してくる、なぜだろうか妙な汗が出てきた、これから絡まれる訳でもないし僕は何もしていな
いじゃないか。

僕は部屋に戻った、すれ違い様に「あいつキモくね？w」という言葉をぼくの犬より敏感な耳は逃
しはしなかった、今日はここにいよう、１９時くらいか、ノックとともにまたえさが置かれた、何
か今日は食べる気がしなく、朝までドアの前に置かれていた。

なぜ１５年ぶりに外へ出たのかというと、当たり屋をしようと思った、かるい骨折くらいならいい
んじゃないかと思い、行動に出た、とにかくお金が欲しかった、５０万もあれば安いアパートでも
借りれるし、またそこから何かしら新しい行動がとれるんじゃないかと思ったのだ。

日付は変わり昨日で言う明日になった、雨だ、９時、両親が仕事に向かい僕一人になる、昨日の萎
びた晩飯と入れ替わりに朝ご飯が置かれていた、ピザトーストだった。

１５年前のスニーカーに足を入れ玄関を開けた、昨日外へ出た事はあの人たちは知っているのだろ
うか、近所の人がびっくりして母に電話でもしたんじゃないだろうか、そんな事を考えながら歩い
た、傘はささずただ轢かれるために歩いた、昨日は昼過ぎに出たが、今日は午前中１０時ぐらい
だ、通勤通学が終わり人が最も少ない時間帯、そこでめぼしい車を見つけ轢かれる予定だ。

病院のベッドの上で先ほどの事故の事を考えていた、結果は大胸骨、右部鎖骨、ともに骨折、念の
ためにCTやMＲＩをやったことは覚えている、看護婦が部屋に入り会釈をして安否の気遣いを見せ
社交的に話しかけた、時計を見ればもう夕方だった、両親は来たのか気になった、１５年ろくに顔
を見合わさず生活してきてきたからちょっと恥ずかしかった、結局その日はこなかった。

なぜか夢の中で両親が泣いていた、警察も泣いていた、救急車が故障して爆発した。
なぜか僕はゴキブリになって空を飛んでいた、不思議な夢だった。

朝起きると、全裸の少女が病室のドアの前に立っていた、小学５年生ぐらいか、肌は画用紙の用に
白く、ぬれたプラスチックのように妖艶で、黒くおかっぱにまとめられたつやのある髪、胸は小さ
く上につんと張って成長途上のからだを主張していた、とにかく奇麗な顔をしていた、可愛かっ
た、瞬きをした瞬間にと言うか瞬きをしたのかも分からない、その瞬間に目の前に立ち彼女はこう
いった「さぁ天国に行きましょう」