*
「じゃあそろそろ閉めるよ」
社員のその一言に、由佳や他の講師たちが一斉に立ち上がる。
競争するようにファイルやらバインダーやらを自分の管理する箱に詰め込んで、棚に重ねていった。ここでいつも最後になるのは佐藤友裕という講師で、由佳より二つ年上だけれどどこか抜けていてトロい男だった。
しかし由佳はこの男が嫌いではなかった。いつも社員から悪し様に言われていて、他の講師も彼を蔑むようなところがあったが、そういう時に佐藤は決して嫌な顔をしなかった。ハの字眉毛で笑って「すいません」とだけ答えた。
暇な由佳と違って就活のピークに差し掛かろうとしている佐藤とバイトがかぶるのは今日、水曜日のバイトだけだった。佐藤はひどく疲れている様子で、何回かため息をついていた。
由佳と同じ方向へ帰るのは佐藤と、もう一人、根元という女子社員だったが、根元はいつもバイクで来ているため、この水曜日は由佳と佐藤と二人での帰り道だった。
「襲われたら佐藤を守ってやれよ、守永」なんていう冷やかしが二人を見送った。