ようこそゲストさん。
ナンネットIDにログインしていません。
ID: PASS:
IDを保存 
ナンネットIDは完全無料のサービスです。ナンネットIDを取得するとナンネットの様々なサービスをご利用いただけます。
新規登録はこちら
ID・パスワードの再発行はこちら
『無題』四
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
投稿の削除 パスワード:
1:『無題』四
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c

はぁ…はぁ…はぁ……


抜けるような蒼い空。満開のさくら。

幾千もの薄いピンクの花びらが、春の生温い風に流れて、文字通りのさくら吹雪。

その中を、風よりも早く、地下鉄‐メトロ‐ではなく、自転車に乗って、 全力疾走しているのは…チャリンコ暴走族ではなく、十二歳・処女のあたし。



向かうは、ウチのマンション。


この日は、三時に約束をしていた。…何とも微妙な時間だ。


だから、約束の時間まで買い物に行こう、と思った。
服を買うときは、何より一人が一番。…だけど、如何せん止めてくれる人がいないから、買いすぎる。その為、約束の時間に遅れる。



どうだ、と言わんばかりに、威風堂々咲き誇る、さくらの並木を猛スピードで駆け抜ける。



時計を見れば、三時十二分。…ありえねぇ。



ばたばた と、階段を駆け登り、大量の紙袋を抱えたまま、自分の家の前を通りすぎ、隣の家のチャイムを押す。

…ピンポーン






「夢ちゃん、遅すぎ。十四分三十二秒の遅刻だね。」

そう言って、大袈裟に溜息をつく。なんて細かいんだ…小姑みてぇだ。


「…ったく、器がちっさいのぉ~。そんな細かいこと言ってるとさ、ハゲげるよ?健ちゃん。」

ってあたしが感想を述べると、


「ははは、うっせ~。黙れよッ」

と、爽やかにツッコンで、軽やかに笑う。

その屈託のない、えくぼのオマケまで付いた笑顔は、女のあたしのそれよりも、よっぽど可愛らしかった。


今日は、一緒に宿題をする約束をしていた。…実際あたしは、健ちゃんのノートを、最もアナログな方法でコピーするだけ、なのだけれど。





あたし達はこの春、中学生になる。来週には入学式だ。
…つまりは、まだ中学生では、ない。なのに、すでに中学校から課題が出されている。こんな理不尽なことがあろうか。

…と文句をたれつつも、キチンと取り組む十二歳。何とも微笑ましい。




健ちゃんの部屋の机は、大きい。だから、隣あって座れる。
その方が、反対側から覗き込むよりも、ノートを写し易いってもんだ。



不意に健ちゃんが、にじりよって来た。あたしは、 ドキリ と、した。




「なんか…付いてる。髪の毛に…ほら…」

健ちゃんの綺麗な指が、あたしの髪にそっと触れる。




窓から、春のやわらかな、黄色い陽射しがこぼれていた。



マンション内の、どこかの子供が、ピアノの練習でもしているのだろうか。ヘタクソな、たどたどしいメロディが、風に乗って、微かに聞こえる。



「あ…花びら。見て、さくらだよ。髪に、くっついてた。」

そうしてまた、屈託なく笑うのだ。




あたしは、この笑顔が、だいすきだった。




「ああ、ありがと…」

あたしはそう言って、少し考えてから、片手で健ちゃんの手を掴んで、そして…自分の胸に、押し当てた。


胸にはちょっと、自信があった。


「夢…ちゃ……」

健ちゃんは、固まっていた。思考回路はショート寸前。…というよりは、既にショートしていたに違いなかった。

あたしは、固まった健ちゃんの様子が、何だかおかしくて、調子に乗った。

空いていた、自分のもう片方の手を、健ちゃんの、股間に持っていった。



いつの間にか、ヘタクソなピアノの音は、止んでいた。


換気の為に、ほんの少し開けてあった窓の隙間に、温い風がぶつかって、 ぴゅう  と、音を立てた。



それと同時に、健ちゃんは、目一杯の力で、 どん と、あたしを突き飛ばした。

文字通り、吹っ飛ぶあたし。…痛てぇ。


「…帰れ。…もう…帰れよ。」
そう言う健ちゃんは、吹っ飛んだあたしよりも、痛そうな、泣きそうな顔をしていた。


オトコは、こういうコトすれば、誰でも喜ぶと思っていた。


だけど、男の子っていうのは、あたしが思っていたよりずっと、純粋で、綺麗で、無邪気で…傷つきやすいもの、だった。



…あたしは、ろくでもねぇ子供だった。



その後は、気まずくて、顔を見ることもできなかった。

曇った気分のまま迎えた、入学式の朝。いきなり、後ろから肩を叩かれた。

健ちゃんだった。

「おはよっ…なんか、意味もなく、緊張するよなぁ?ちゃんとトイレ寄って来たのに、俺、チビりそうだし…」

笑ってた。


あんまり可愛く笑うから、泣きそうになった。


その後、
二人で並木道を並んで歩いた。

二人のうしろに、小柄な健ちゃんちのおばさんと、場違いの、濃厚な化粧を施したウチの母親が、世間ばなしにはなを咲かせつつも、続いた。








今年も、もうすぐ、あの並木の、さくらの薄ピンクが、どこまでも蒼い空を、覆うだろう。


あたし達 二人が、もう、そこに居なくても、あのさくらは、毎年、美しく、咲き誇るのだろう。


2007/03/28 03:08:27(hMIVW3Om)
2
投稿者: けいこ
本当に素敵です
あなたの文章すごく好き
すごく綺麗です
また読みに来ます
07/03/28 07:15 (mOyJGEG7)
3
投稿者: 見学者 ◆/Oucn1qs.o
いい。いいね。

切ないね。



07/03/28 12:13 (hMIVW3Om)
4
投稿者: 'A`) ◆okKjmsQFMw
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
07/03/28 12:42 (GZva2mFk)
5
投稿者: ケイ
面白かった!
ノスタルジックな春を感じました。
不器用なところが可愛らしい・・・とてもナンネットの投稿とは思えませんなw
07/03/28 15:43 (GZva2mFk)
6
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c
目を通してくださった皆様、ありがとうございます。
また話の続きを書いて、ここに載せるつもりです。

よかったら、読んでやってください。
07/03/28 22:17 (hMIVW3Om)
コメントを投稿
投稿前に利用規定をお読みください。
名前
メール
本文
スレッドを上げない
画像認証

上に表示されている文字を半角英数字で入力してください。
 
官能小説 掲示板
官能小説 月間人気
官能小説 最近の人気
作品検索
動画掲示板
画像で見せたい女
その他の新着投稿
人気の話題・ネタ
ナンネット人気カテゴリ
information

ご支援ありがとうございます。ナンネットはプレミアム会員様のご支援に支えられております。

Copyright © ナンネット All Rights Reserved.