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『無題』二十三〈終〉
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:『無題』二十三〈終〉
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c

「ゆめちゃーん!はやくー!はやくしてよー!」



…ちょっと待ってよ。


ネックレスがうまくいかないよ。



「はやくってば!そんなの、いらないよー。」



だめ、だめ。そうは問屋が卸すもんか。

このトップスに、ネックレス無しなんて。絶対、だめ。



「もぉ、じゃあ、ぼくがつけたげるよ」


小さくて、温かい手が、首筋で動く。




ピカピカと光る、晴れた日だ。


太陽がしっかり染み込んだコンクリートに、あたしのヒールの音と、彼の楽しげな靴音が心地いい。


きれいな青空は、彼の黒く澄んだ美しい瞳写りこんで、より一層輝いた。



駅までは、歌をうたいながら、二人でゆったりと歩いた。


メロディは風になって、香りになって、光になって、世界を彩る。





かつて暮らしたあの町までは、電車で二十分くらいだ。



健ちゃんと生きた、あの町。



電車に運ばれ、降りたあの駅で、彼はポケットからあめ玉を取り出した。



あめ玉は、三つあった。

みかんと、ぶどうと、りんご 味。



「ぼくがひとつ、ゆめちゃんがひとつ…」



「だから、えっと、えっと…ひとつ、あまるよ」



おお、おちびさんはもう引き算ができるようになったのか。



これは将来、なかなかビッグな男になるのではないか?…なんて。



「じゃあ…」

きょろきょろと周りを見回していた彼の目が、止まった。




昼間の駅には、人が少ない。


ホームには、あたしたち二人の他には、たった一人しかいなかった。


高校生…いや、中学生くらいの、少女が一人。


彼女は、青いベンチに座っている。

長い髪が顔にかかっていて、その表情を伺い知ることはできない。もしかしたら眠っているのかも、知れなかった。



ホームにアナウンスが流れ、間もなく、急行列車が通過することを伝え、警告した。



すると、ベンチに座っていた少女が立ち上がり、フラフラと一歩、足を出した。


「ねぇ、ゆめちゃん、あめ、ひとつあまるからね、あすこのおねぇちゃんに、あげよっか。」



あたしは、彼の頭をなでながら、
「おー、やさしい。そうだね。いいよ、あげておいで。」


彼はちまちまと駆けていった。


急行列車が通過した。


そうして、彼は少女に、あめ玉をあげた。


蒼白い顔をした少女は、そのあめ玉を口に入れた。





「ゆめちゃん、おねぇちゃんがね、ありがとうって。」

また駆けて戻ってきた彼は、早速報告する。


「そう。よかったね。裕くんは、えらいね。」



裕、それが彼の名前。


ジャイアンがつけた名前だ。


確か、なんとかっていう、作家か何かの名前を、参考にしたと言っていた。


簡単にいえば、パクったわけだ。


でも、調べてみたら字画も悪くないみたいだし、まぁ、いいか、ということで決めた。




ふと、視線を感じ、前を見ると、さっきの少女が、こちらをじっと見ている。


それは、嫉妬…羨望の眼差しだ。



あたしは、そんな眼差しをたどり、彼女の目を見つめた。


そして、そっと微笑んだ。



気が付くと、あたしと裕くんは、暖かなひだまりの中にいた。



彼がたくさんの光を、集めて、連れてきてくれた。



あたしは、あなたを産んで、あたしは、あなたに命を与えられ、あなたに生かされている。


再び、あたしたちは歩き出した。



天気がいいから、裕くんも、あたしも、ご機嫌だ。



今の家から、大して遠くはないのに、この辺りに来るのは、久しぶりで、奇妙な気持ちになった。


懐かしい、と言い表してしまえばそれでおしまいなのだが、それだけでは終われない感じ。




「ねー、ゆめちゃん、今日はお空が、すっごく青いね。きれいだね。」


「そうだね。綺麗だね。」

あなたに触れた。ずっと憧れていた光に触れた。空は、晴れた。


「ねぇ、ゆめちゃん、今日のよるごはん、なぁに?」

「ん~?まだ決めてないよ」


「じゃあ、からあげ食べたい。からあげしてよ。」

…またか。


「駄目。一昨日食べたばっかりでしょ?そんな唐揚げばっかり食べてると、デブになるよ?」


「デブって、ジャイアンみたいに?」


「そう。ジャイアンみたいに。」


「やだー!!」

と叫んで、繋いでいる手をブンブンふる。




「ねぇ夢ちゃん」


こんどは何だ?


「おっきくなったら、ぼくとケッコンしてよ!」


おー。出来の悪いホームドラマでありがちだ。あるいは、出来の悪い小説。


こういう時、何て答えるんだっけ。

「んん~。あたしが今まで貰った、どの指輪よりもいい指輪を用意できたら、考えてあげるよ。」


冗談めかして答えた。


裕くんは、

「わかったッ!」と言った。


あたしの左手の薬指には、シンプルな結婚指輪があった。


胸元には、シルバーの小さな安っぽい指輪が揺れている。

チェーンを通して、ネックレスにしている。



健ちゃんが残した、あのタイムカプセル、あのでかい熊の人形のついたえらいファンシーなブリキの缶の中、小学生の健ちゃんからの手紙には、


「夢ちゃん へ

ぼくは夢ちゃんがだいすきです。あなたとずっと一緒にいたいです。


ぼくのおよめさんになってほしいです。

        健  」

あたしが書いた手紙の内容と大して変わらなかった。
あの頃からずっと、あたしたちの心は一つで、愛し合っていて、そしてそれはあの頃から、今まで、もちろんこれからも、太陽が沈むまでずっと、変わらないもの。


手紙と一緒に、小さな布の袋が入っていた。

その中には、さらに小さな、シルバーの安っぽい指輪が入っていた。


ランドセルを背負った小学生の男の子が、この指輪を買うのにどれ程苦労したか。


緊張した様子の小さな健ちゃんが、顔を真っ赤にしながら、お金を握り締めて、中高生の女の子でごったがえすアクセ屋の店内で、あたしのために指輪を探している姿が目に浮かぶ。


可愛くて、おかしくて、なんだか泣きそうになる。


健ちゃんを愛してる、ジャイアンを愛している、裕くんを愛している。


悲しいことなんか一つもない。



姿を変えて、形を変えた、たくさんのものを愛しているから、明日も生きられる気がする。



そしていつか太陽が沈んだときに、とてめ暖かい気持ちだけ残ればいい。



何度だって出会える。




裕くんの小さな手は、じーんと暖かかった。



空は晴れわたって、青く高く、輝いている。
















小さな薄汚れたアパートの一室のまん中で、ビデオカメラが回っていた。


その前に裸で立っているのは私。


恐いから、痛いからって、もう一人のあたしは逃げてしまって、こういう目に会うのはいつも私ばっかりだ。


どうして辛い目にあうのはいつも私なんだろう。

もう一人のわたしは弱虫で、わがままで、ずるくて、大嫌いだった。


あんな奴、死んじゃえばいいのに。



お父さんが私の身体にいろいろ変なことをして、痛いことをして、それをビデオに撮った。




…はやく…心を閉じなくちゃ…



窓のそとは真っ暗で、何か悲しかった。


お父さんはつまらない人で、彼は社会のゴミだった。

寂しい人だった。可哀想な人だった。



ゴミは誰からも馬鹿にされ、さげすまれた。


だけれど、そんなゴミにも、一つだけ輝ける場所があった。


ネットの掲示板に、私みたいな小学校の低学年~中学年くらいの女の子に興味を持つ、変な人たちが集まるところがあった。


そこに集まる人達の要望にそって、お父さんは私の身体にいろいろなことをして、それをビデオに撮って、その映像をアップした。



社会のゴミは、ネットの世界では、「神」と呼ばれた。


寂しい人だった。可哀想な人だった。




彼はどんどんビデオを撮った。

お金儲けまで始めた。


私の身体はどんどん傷だらけの、汚い身体になった。


自分を守るために、私の心は分かれ始めた。



楽しい時は、全部わたしが出できた。

辛い時ばかり、私が出された。





…そのうちに、全部私のものにしてやるんだから…



撮影が終わって、土砂降りの雨の中、何も持たず裸足で駆け出した。


私だって、辛い。怖いし、痛いし、悲しい。



どうして、私ばっかりこんな目にあうんだろう。



お父さんも、わたしも、みんな死んじゃえばいいのに。



そう思って、自動販売機の隣なしゃがみ込んで、泣きながら、雨に打たれていた。


こうしていれば、じきに、あたしが出でくるだろう。



その時だった。




急に、頭の上の雨が止んだ。




驚いて見上げると、同い年位の男の子が、私の頭の上に、黄色い傘を差しかけていた。


名前も知らない子だった。


その子が言った。


「風邪ひいちゃうよ?」



私が黙っていると、


「口きけないの?名前は?」


などと聞いてくるので、

「…ゆり」

とだけ答えた。


「ゆりちゃんか。あ、僕の家近くなんだ。この傘、貸したげるよ」

とにっこり笑って言って、黄色い傘を残したまま、走っていった。



変な子だ。男の子のくせに、笑顔がとても可愛かった。


黄色い傘の持ち手の部分に、マジックで「裕」と書いてあった。




…裕くん…か。


気が付くと、私でもわたしでもない、私でもわたしでもある自分に、なっていることに気付いた。



真っ暗で、雨ばかりだった。


地獄みたいな毎日だった。




だけれど、もしかしたら明日もあの子に会えるかもしれない。


もしかしたら明日、空は晴れるかもしれない。



ゴミの子の人生に、光なんてあるはずないのに、何か、本当に小さな、暖かい光を、見た気がした。




〈終〉



2007/12/03 00:59:15(3xYYkKTy)
2
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c
遅くなってしまいました。

本当に申し訳ないです。

もう、以前の方々はいらっしゃらないかもしれませんね。



でも、

本当に本当に、ありがとうございました。

いろいろありましたが、たくさんの人に励ましてもらい、頑張れました。

ありがとうございました。
07/12/03 01:07 (3xYYkKTy)
3
投稿者: やまびこ
心待ちにしていました!
切ないくらいの現実の苦しさとの中で唯一失わない希望ー。
それこそが生きていく上で一番大切な事なのだと改めて実感しました。

これからもたくさんの人に優しさと希望を与える方でいて下さい☆

07/12/03 02:18 (vHX12.bS)
4
投稿者: 菊乃 ◆NAWph9Zy3c
書き込みありがとうございます。


まだ読んでくださる方がいらっしゃったことに、本当に驚き、感謝しています。

なかなか終り方を決められず、遅くなってしまいました。最後の部分は後から、付け足したものなので、少しちぐはぐになってしまって。。


今まで、本当にありがとうございました。
07/12/03 10:56 (3xYYkKTy)
5
投稿者: 'A`)
お疲れ様でした。
未完になるのかと諦めかけてた、ちゃんと終わって良かったよ。
今までに読んだことの無い題材で
長い間ホントに楽しませてもらった、ありがと。
これからどうするの?俺はまだまだ書き続けて欲しい。
07/12/03 15:30 (nCFIjByA)
6
投稿者: かおり
最初からず~っと読ませていただいてますよ…。
何度ボロボロ涙を流したでしょう
素晴らしい臨場感溢れる文章に最後まで惹き付けられました☆
お疲れ様…そしてありがとう☆☆☆
07/12/03 18:20 (E5dt97Kc)
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