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1:『無題』十五
投稿者:
菊乃
◆NAWph9Zy3c
あれは、中三の秋。 人生で初めての、「受験」という試練が迫っていた。 あたしは、どうせ大したことのない高校しか、受けないのだから、特別に勉強する必要はなかったのだけれど。 あたしは、勉強が嫌いだった。 中でも理数は、本当に苦手だ。 算数が、数学と名前を変えたときに、数字とは決別した。どうにも反りが合わない。 オームの法則が登場したときに、理科とも決別した。 互いに別々の路を歩んでゆこう、と決めた。 人間、少しくらい未知なる事柄があった方が、幸せってもんだ。 電流のことは、知らない方が幸せだった。 一方、健ちゃんは、有名進学高をめざして、猛勉強だ。 健ちゃんの邪魔は、できない。 二人でお喋りする時間も、自然と減っていった。 だけれど、寂しくはなかった。 あたしは、寝る前には必ず、自分の部屋の、東側の壁を、強く三回叩いた。 すると、壁の向こうから、同じように、三回、叩きかえしてきた。 健ちゃんの勉強机は、この壁に向かい合うように配置されていた。だから、反応が早い。 まだ二人とも、携帯なんか持っていなかったけれど、冷たい壁に頬を付けると、確かに繋がりを感じることができた。 今はもう、分からなくなってしまった。感じられなくなってしまった。 何故だろう。 健ちゃんが遠くへいったからか、それとも、あたしが目をつむって、耳を塞いだからか。 寝る前にあの壁を叩くことは、あたしの日課になっていた。 だけれど、日曜日だけは、何回叩いても、反応が無かった。 日曜日には、出掛けている姿も、見たことがない。 健ちゃんのお母さんは、夜までパートに出ていた。 日曜日は、お父さんと二人きりのようだ。 何故、日曜日だけ、健ちゃんが叩き返してくれないのか、健ちゃんが外出しないのか、ちゃんと考えたことなど、一度も無かった。 親子の団欒の日だろう、と気にも止めなかった。 あの壁の向こう側で、健ちゃんの心は、何度も、何度も、殺されていたというのに。 あの壁の向こう側で、健ちゃんは、ずっと、ずっと、泣いていたというのに。 秋も深まっていた。空気は冷え始め、葉は、色付きゆく。 十五夜、中秋の名月。 息抜きだと言って、健ちゃんに、お月見をしようと誘われた。 場所はもちろん、マンションの屋上にある、クリーム色の貯水槽の上。 あたしたちには、定番だ。 あそこが、一番、落ち着く。 夕方になってから、誘われた。 しかも、 「ススキは、俺が用意するから、夢ちゃん、団子の方、よろしくね!」 などと言う。厚かましい。だけれど、にっこり笑うから、憎めない。 ススキなら、そこいらへんにごまんと生えているからいいかもしれないが、団子なんか、いきなり言われたって用意できない。 団子っぽいものを探していると、冷凍庫に、『チンして食べれるミニ肉まん』があった。 これしか無い、と思い、たくさんチンして、たくさん持っていった。 「お、夢ちゃん、今日は、五分前集合じゃん。めずらしいな。雪降ったらどうしよう。」 なんて言って、健ちゃんは、笑っている。 コーヒー牛乳の空き瓶に、ススキが三本。 お皿の上に、団子みたいに綺麗に積み上げたミニ肉まん。 先っぽが少しだけ、トンガっているところが堪らない。 二人でゲラゲラと笑った。 肝心の月は、雲っていて、少しも見えなかった。 だけれど、楽しくて、馬鹿みたいに、ゲラゲラ笑った。 「夢ちゃん、俺のお嫁さんになってよね」 と笑いながら、健ちゃんは言う。目は真剣だ。 「行ってあげてもいいよ」 と、あたしも言う。 コーラをたくさん飲んだ時みたいに、鼻がツンとする。泣きそうになる。 ふと気が付くと、 ごく自然に、手を繋いでいた。 ごく自然に、顔を近付けていた。 でも、キスはしてくれなかった。 健ちゃんの手は、あたしの身体の表面を、滑った。 胸をさわる。スカートの中に手を入れる。 あたしは、身体の芯が熱くなってきて、顔が、かぁっと紅くなる。 下着が、張り付く。もぞもぞと、足を動かす。 健ちゃんは、無表情だった。とくに興奮する様子もなかった。 彼の身体も、全く、興奮の体勢をとってなかった。いつも通り、そのままだった。 何度も、同じように、あたしの身体の、表面だけを、滑った。 あたしの身体には、特に興味がないようだった。 健ちゃんは、イライラと自分の太股を叩いた。 悔しそうに、自分の頭をバリバリと掻きむしり、 「…ごめん」 といった。 あたしは、一生懸命、笑顔をつくり、何も言わなかった。 何も言わないで、積み上げられたミニ肉まんのうちの一つを摘みあげ、モグモグと食べた。 あたしたちの上に、やっぱり月はなかった。
2007/07/02 11:56:41(8zAPbOGQ)
投稿者:
たぁ
待ってましたぁ☆今回のはちょっとドキドキしました(>_<)続きを楽しみにしてます!!頑張ってくださぃ☆
07/07/02 16:54
(.eOVZNND)
投稿者:
菊乃
◆NAWph9Zy3c
書き込み、ありがとうございます。
何度も、何度も、書き直しているうちに、七月になってしまって。。 直接的な、性行為の表現は、やっぱり苦手です。 官能小説を書かれる方々、本当にすごいと思います。 また載せるので、よかったら読んで下さいね。
07/07/02 18:43
(8zAPbOGQ)
投稿者:
'A`)
良い投稿でした。
後半が何だかアツい。 健ちゃんとお父さんの嫌な想像でガクブルっす。
07/07/02 19:59
(Z5EHG3iF)
投稿者:
菊乃
◆NAWph9Zy3c
('A`) さん、いつもありがとうございます。
私もいつか、エロ小説を書いてみたいですね(笑) ここからは、何回か、過去編が続き(予定です。まだ分かりませんが、そのつもりです)ますが、どうか、飽きずに読んであげてくださいね。 ありがとうございました。
07/07/02 21:23
(8zAPbOGQ)
投稿者:
ゆい
面白かった-!まさしくケータイ小説ですね!何か不思議な書き方です!私も何か
書いてみようかなぁ(^~^)
07/07/03 19:58
(Pn5Q6Hl/)
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