ベッドの上で、あたしは体内に注がれた液体の余韻に浸っていた。
念入りに身体を洗ってボディクリームを塗り、
黒い下着とオフショルワンピを着て、
アイメイクと艶やかな唇に気を配ってメイク、
アクセサリーを付け、ウィッグを整えてから、
鏡で確認。
「今日もいい感じ♪」
あたしはエナメルバッグを提げ、ピンヒールを履いて夜の街にくり出した。
通り過ぎる男たちの視線、
値踏みするような女たち。
170cmを超えるあたしは否が応でも目についてしまう。
以前は、女装がバレないかヒヤヒヤしていたが、
今ではバレても大丈夫な時代と半ば開き直るようになった。
それ以上に堂々としていることが、かえってバレにくいと分かったこともある。
回遊魚のように街をウィンドウショッピングして、少し疲れた頃
あたしは、ともしびのような明かりをこぼしているバーに入った。
半ば埋まっているカウンターに腰掛け、ジントニックを飲んでいると
30前後の男性が隣にやって来た。
「ウオッカマティーニを、いつもので。」
007を気取ってと思いながら隣をうかがうと彼と目が合った。
ニコリとした彼は、
確かにダニエル・クレイグを少し優しくした感じの精悍をしている。
「会うの初めてですよね? ここ、よく来てるんですか?」
そう尋ねられた。
「ええ、まあ…。」などと話し始めて、カクテルをお代わりしているうちに
酔いが回り始めたあたしは、彼に蕩けていた。
杏仁豆腐のような甘いカクテルを飲み終えて、
彼の腕に手を絡めるようにしてバーを出て、
喧噪が沈殿したような夜の道をマンションまで戻った。
ドアを開けると、待ち兼ねていたように靴とバッグを放り、
ワンピを脱がされベッドへ。
あたしの唇に硬い物があてがわれ、舌と口中で入れられた物を味わう。
夢うつつで横になり、
下着越しに温もりと重さを受け止めながら、あたしは何度も吐息を漏らしていた。
どれほどたっただろう。
バーを出てから彼と連絡先を交換し、
一人部屋に戻って硬いグラスで口一杯に入れた水を味わった。
体温が移った毛布の温もりと重さにくるまりながら、
彼から届いたメッセージを読んでいた。
「結局、今晩もひとりか。」
…あたしは、ベッドの上で
まだ舌の奥に残っている「オーガズム」という名のカクテルを飲んだひとときの余韻に浸っていた。